細雪〜バレンタインデー2025〜
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その翌日、雪乃は藍染の生家を訪れた。
藍染の両親は、雪乃が藍染と直接会い、健勝を確かめ、言伝を預かってきたと知らせると、涙を流して喜んでいた。藍染の母親は、雪乃のために、今年もまたぜんざいを作っていてくれた。今年は、藍染の両親と、新たに藍染家の当主となった青年と雪乃、四人でチョコレイトをつまんだ。青年は悪い男ではなく、藍染の両親は厚遇されていたが、いかんせん藍染との差は埋めがたい。しかし新たな暮らしは否応なしに襲ってきて、雪乃は、まだ戸惑っている藍染の両親を見守り続けることが必要だと感じた。
それからわずかの歳月の間に、平穏は崩れ去った。
見えざる帝国の襲撃を受け、尸魂界は壊滅的な打撃を受けた。そして、あの山本元柳斎重國と、雀部長次郎忠息が、身罷ってしまったのである。
一番隊は、すぐに総隊長と副隊長の新任を求められた。そして話は始めに戻る。
厳しくも優しかった、と生き残った雪乃は、山本と雀部のことを思う。そして新しい主は、優しくも優しい、という程人が好く、そして強い死神だった。新たな主のために何が出来るのか、雪乃は闘いの最中もそれを考え、じっと耐えた。新たな総隊長、京楽春水は、藍染を武力として「利用」しようとした。しかし藍染が共に闘っている、そのことが、雪乃を支えた。
破壊と殺戮の嵐が過ぎ、尸魂界は復興の兆しを見せ始めた。雪乃は相変わらず一番隊の席官を務めており、多忙な身の上だ。藍染家更正監察官の身分も返上させられることもなく、大乱によって倒壊してしまった藍染家周辺への援助を密かに厚くすることで、藍染の家は立ち直り始め、藍染の家があるお陰でこの周辺は復旧の手が早いのだと気付いた近隣の者達が、藍染の家と雪乃に情を寄せるようになった。日陰の身だった藍染の家の者達が、思わぬ形でまた日の当たるところを歩けるようになり、雪乃は藍染にそれを報告した。
動乱のあった混乱の中、いつの間にか一番隊の様々な役割は微妙に変化し、雪乃は時折無間へ出入りして、藍染の身の回りの世話を焼く、御用聞きのような役回りを兼ねるようになった。藍染は見えざる帝国との闘いで功を上げたことで態度を尊大にし、総隊長となった京楽と近しい間柄だったせいもあり、高まり続ける霊圧を盾に、やりたい放題のように見えた。外界との接触は断たれているはずが、藍染は、
「両親と新たな当主へ言伝を頼みたい。」
と言っては、雪乃をちょくちょく呼び付けて、あれをしろこれをしろと「命令」を出していた。一番隊はその言いつけを持て余していたが、雪乃は黙って藍染の言うことを京楽に掛け合っては叶えてやった。京楽も、雪乃への恩義と、藍染への恩義で、二人分の違った方向からの願いを、尸魂界が揺るがない程度に叶えてやった。藍染とて愚かではない。間隔も適度に、だいそれた請願はせず、雪乃を藍染の家に向かわせて、様子を聞いているだけのように見せかけていた。本当は藍染も雪乃も、お互いの顔が見られることで安堵しており、雪乃にはそんなつもりはないが、藍染も、今のところ世界を破壊するといったような、不穏な行動に出る様子はなかった。そのために、雪乃が穏やかに藍染を見張っている、京楽はそう考えていた。山本と雀部しか知らなかった雪乃と藍染の過去は、過去の立役者が消えたことで誰にも真相が分からないこととなり、いつも京楽と七緒は、「藍染と雪乃はどういう間柄なのか」、と不思議にしていた。
「藍染と雪乃ちゃん、デキているんじゃないよね、七緒ちゃん。」
「ちょっ、やめて下さい隊長!雪乃さんに失礼でしょう!」
隊主室で京楽と七緒は、しばしば二人が近し過ぎると話をしていた。雪乃が藍染の両親に恩を受けたという美談は、護廷十三隊の中では知らない者がいない話になっていたが、それにしても雪乃は、藍染に尽くし過ぎやしないか、としばしば京楽と七緒は疑問に思っていた。
「お互いに子を持つ親になったことのない身ですが、藍染元隊長のご両親の子を思う愛情深さは、私を養って下さったよりも深いものだと、お側でお話をしていて痛感致します。」
雪乃は、それは本当のことなのだが、藍染の両親の子を思う愛情に胸を打たれたゆえに、藍染に尽くしてやり、藍染と藍染の両親を繋ぐことで、藍染の両親に恩を返したい気持ちが強まっただけのこと、と、おっとりと何度も繰り返し、京楽と七緒を煙に巻いていた。「お互い子を持つ親になったことのない身」、そう言われると京楽も七緒もぐうの音も出ず、雪乃の情け深い美点にばかり目がいってしまう。雪乃は、藍染と、藍染の家のために、何でもしようと覚悟を決めているのである。それは清い気持ちからだが、時に女は嘘が上手い。
その点では、藍染も雪乃も、似た者同士かもしれない。