細雪〜バレンタインデー2025〜
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その日は、毎年雪に見舞われる
今年もその日がやってきた。
暗い鉛色の空から、細やかな雪の、粒とも言えぬ、重さのない欠片が落ちてくる。
雪乃は出先から戻る途中、紅い唐傘を傾けて、空を見上げた。彼女の戻る先は一番隊隊舎、どんなに寒さが厳しかろうと、隊務の模範を見せねばならぬ身の上である。それでも一番隊の隊長、すなわち総隊長が京楽春水に変わってからは、だいぶその気風もやわらいだ。今日、彼女に向けられる、温情を乞う女達の想いをすくい取ってやる行動に向けられた、厳しかった山本元柳斎重國の目も今はもうない。尸魂界は、やっと、今日という日を楽しむ余裕を見せ始めた頃だった。
「お帰り、雪乃ちゃん。寒かったろう。ここへきて草鞋と足袋を脱いで、火鉢で足を暖めるといいよ。誰だい、こんな雪の日に女の子に遣いをさせるのは。護廷十三隊隊規第一項第一カ条により、無間への拘留二万年の刑だよ。」
京楽はそう軽口を叩くと、隊主室の奥の火鉢から大きな体を入り口へと伸ばして、首を雪乃の方へ伸ばして声を上げた。しかし首を伸ばして火鉢から離れたことで寒さを感じたらしく、おお寒い、と言って、また火鉢の元へと体を戻した。
「何をだらしない真似をなさっておられるんですか!隊長がだらしなくて泣けてきます!お帰りなさい、雪乃さん、遅かったですね。」
七緒はいつものカタ真面目な顔をしながらも雪乃を労うと、自らは隊主室の入口まで立って歩いてきて彼女を待った。それ以上は声をかけるでもなく、ただ気遣わしそうに、ゆっくりでいい、という視線を向けて両手を揃えて立って待っていた。雪乃の足元は雪によって袴の裾と足袋が濡れ、草鞋は脱ぐとしても、足袋まで脱がないと板張りの床を濡らしてしまう。雪乃は足に張り付いた足袋を剥がすように脱ぐと、懐から手拭いを出して手と足を拭いて、ようやく立ち上がった。七緒はさすがに難儀をしている雪乃が気の毒になり、廊下から玄関まで出てきて、彼女が脱いだ濡れた足袋を片付けようとした。隊舎には人の出入りがあり、雪乃と七緒の一挙手一投足は誰かが見ていて、濡れた足袋を副隊長に片付けさせる不敬を見過ごす者などいない。すぐに年若い女の隊士が飛んできて、七緒と雪乃に挨拶をすると、丁重にその足袋を洗濯場へと片付けてくれた。雪乃は一番隊で席官の任に就いている。どんなに寒さで辛い思いをしようが、これでもまだ温い、と彼女は今の自分を思う。もっと凍えるような歳月があった。
いつの年も、今日という日は、雪が降っていた。
1/18ページ