シュークリーム・イヤーズ
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あと一軒、決済を済ませれば払いは終わり、というところまできて、帳簿の残頁がなくなった。帳簿は同じ装丁のもので統一してあったので、諏訪子はこの家にも買い置きがあるだろう、と書斎の本棚を見ると、一冊だけ予備があった。
「一冊だけか…。」
と寂しさを覚えつつ、その日、彼女は最後の決済を終え、帳簿に一件の払いの仔細を書き込んだ。
「こんなものが護廷隊に見つかったら、本当に命が無いかも…。」
と気付いたとたん、手がすべって帳簿を書斎の床に落としてしまった。
偶然、最後の頁が開かれた。
最後の頁には、よく見慣れた藍染の優雅な筆跡で、
諏訪子への愛 無量大数環
と、たった一行、記されていた。
冗談が過ぎる、お父さん。
諏訪子は驚きで、穴が空くほどその一文を見た。
見たなんてものではない程見た。
若い多感な日々を共に過ごした庇護者・藍染隊長が、私を愛していた―?
ちょっと待って、藍染隊長には愛人も沢山いたし、私のことなんて子供扱いで、えっ?えっ?
諏訪子は混乱で、しばらく立ち尽くしていたが、足が寒いのに、顔が火照る不快に、先程墨を刷って最後の決済の記録をつけたままにしておいた筆を手に取り、一言書き足して頭を冷やそうとした。
某年某月某日
二万年後 百倍にしてお返し頂きたく
諏訪子への愛 無量大数環 は
高利回り定期預金に致し候
こんなことってあり?
生活に困ることもない有閑の一人暮らしが退職金?いや、手切れ金?
「えーっ!?ヤダ!!つまんない!!」
いつか迎えにきてくれるんでしょ?藍染隊長!!
諏訪子は机に突っ伏した。
藍染は虫が知らせて、守るべき大切なものを守る算段をしたのだ。しかし諏訪子はそんなことはまったく望んでいなかったのである。最後まで共に過ごし、最後には命を失ったとしても後悔しない程、非凡な境遇を与えてくれた藍染の元にいたかったのだ。
冬の曇天は心に悪く、彼女は冷たいお櫃(ひつ)のご飯を食べるのが嫌になり、今日は外食しよう!!シュークリームとエクレアも買ってこよう!!と声を上げ、帳簿を書斎の棚の奥にしまった。
彼女が平静さを取り戻すのはまだ先の話。
藍染はきっと無間から、それを見ている。
〈了〉