シュークリーム・イヤーズ
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旅禍の少年達が侵攻してくる数日前、藍染は諏訪子に、
「君に頼みがある。少し早いが我々が現世に侵攻する前に、瀞霊廷に戻って、未払いになっていた金銭を片付けておいてくれないか?いつもの口座を君名義に偽造しておいた。少し瀞霊廷を整えておいておくれ。」
と言って、いつもの帳簿と伝令神機を渡して旅支度をさせた。諏訪子は、
「この戦時下に、私一人で瀞霊廷に戻れと?命がなくなった時、お金と帳簿はどうするんです?」
と、別に命は惜しくはないが、不穏な気がして藍染に尋ねた。どうせ帳簿と口座の名義は複写があるのだから金銭面は藍染にまかせておいても大丈夫だろうが、瀞霊廷に戻ると、政略結婚が待っている、と、下らない考えが浮かんだ。
諏訪子は生家に帰るつもりがないので、もし藍染が尸魂界に凱旋した際に住む自分の家は、藍染が用意しておいてくれた。瀞霊廷の隅の小さな一軒家で、着替えも食器もあり、井戸もあるので、すぐに住むことが出来るようになってはいる。しばらくそこに潜んで、世話になった店に払いをつけておけば、後は万事上手くいくのだろうと思っていた。
出発の朝、藍染が、白い擦り切れたドレスを着た諏訪子の体に、テンの毛皮のついた渋い赤色のビロードのマントを着せた。一見して、高価な品だった。
「こういうのは、宮女の方にあげて下さい。私は、」
「君に一度位、高価な物を着せてみたかっただけだから気にしないでおくれ。もう冬だ。風邪を引かないように気を付けて。」
そう言って藍染は、諏訪子の頬に手をやった。
「なんだかお父さんみたいですね。大丈夫です。お金で買えない知識と経験を、沢山積ませて頂きました。」
彼女はなんの気なしにそう言うと、マントのお礼を述べて旅行鞄を持った。
「万事おまかせを、と言ってもお金のことだけですけどね。」
諏訪子は鼻で小さく自嘲した。
「ありがとう。」
藍染は微笑んで言った。
「お礼は払いが無事に片付いてからにして下さい。ではお先に失礼します。」
諏訪子は素っ気なく時空の歪みに消えていった。
藍染は黙って、微笑んだまま諏訪子を見送った。
「ではお父さん、行ってきます。」
彼女は最後に冗談を言った。
それが最後の言葉になったことを、その後も諏訪子は後悔してもしきれしなかった。