火鉢〜藍染様お誕生日記念2026〜
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ニュースの内容は、志篤く心優しき京楽総隊長が、藍染に恩赦の代わりと誕生日祝いに特別な計らいをし、望みをかなえてやった、という、護廷十三隊にとって順風となるような、情報操作のされたものだった。
街ゆく人々は、「藍染にそんなものは必要ない!」と皆憤慨し、また総隊長の人の好さを感じて、復興半ばでまだ不満の残る生活への疲れをそらされるような内容だった。
(憎らしいことをする―。)
依莉達は皆思った。
藍染は、誕生日を迎えた初夏のこの最中、炭の燃えた火鉢を所望したという。聴衆達は「無間というのは一年中寒いものなのだろう。凍えてしまえ。」と、嘲笑い、かつ怒りに燃えていた。
藍染は炭が明るく灯った火鉢の火箸を手にし、カメラに向けて視線を送ると、口の動きだけで、
「依莉。」
と囁き、火箸を灰の上で、三周かいた。
灰になるまで―。
その言葉を思い出し、依莉は驚き、感動と感謝で涙も出ない程、また、涙などでその瞬間を見逃すまい、と思う程、スクリーンを凝視した。
嗚呼、藍染は今も私を想ってくれている―。
そう感激した次の瞬間、街頭スクリーンがその背後から粉々に割れた。そしてその破片の飛散の後ろから、鏡花水月を手にした、拘束服姿の藍染が飛び出して来た。
藍染は瞬歩で依莉達に近づくと、またたく間に依莉達を見張っていた十二番隊の隊士達を全て斬り捨て、悠然と笑った。
信じられない―。
藍染がここにいる―。
「依莉、そして皆。」
藍染は笑っていた。
「随分待たせたね。もう大丈夫。行こう。」
皆声も出なかった。
藍染はとうとう脱獄し、今日という日を狙ってやって来たのだ。
しばらくの時が流れた後、皆安堵で泣き始めた。
藍染という人はいつもそうだ―こちらが立ち上がらせようなどとせずとも、その思惑を超え、自らの足で立ち、こちらに手を強くさしのべ、立ち上がらせてくれる―。
あなたという人はいつも―。
「随分人数が減ったね…依莉、君が生きていてくれて良かった―。」
藍染は依莉を抱き締めたが、彼女が、彼女達が手枷足枷をはめていることに気付いた。
藍染は手をかざし霊圧を込めると、依莉達藍染派一党の手枷足枷を吹き飛ばした。
街中にいた町人達が、恐れて騒ぎ出した。
「行こう。」
藍染は反膜を張り、依莉を含めた仲間達を皆包み込んだ。
「何処へ行くの?」
依莉はもう、藍染と一緒なら何処でもいい、と思いながら、でも仲間達を慮ってそう尋ねた。
「尸魂界でも虚圏でも現世でもない、新たな地をみつけた。そこに行くつもりだ。大丈夫。心配しなくていい。」
藍染は依莉の口元の布を外して口付けると、依莉の胸に手をやろうとした。
「待って。」
依莉は拒絶した。
「長い収監で、胸が削げてしまって…貴方に触られたくない―。」
依莉にも女心があった。
「そうか…すまなかった…。そんなこと、忘れさせる程食べさせるから心配しないで。」
いつものように、藍染は落ち着いて、不敵に微笑んでいた。
「行こう。」
反膜は今や作られた。
藍染派一党は、「おお!」という掛け声を上げながら、新たな世界へ去っていった。
それから一日もせずに、皆温かい食事を摂り、温かい布団で眠っているなど、考えもつかない運命の転変だった。
今、藍染と依莉は二人きりの部屋にいる。
藍染が、火鉢の灰を、火箸で、三周かき回した。
灰になるまで―。
依莉は藍染に抱きついた。
誓いは続く―。
これからの二人を、火鉢の赤く燃えた炭だけが見ているのだろう。
光は降り注ぎ続ける―何万年経った後も、いくら時が経とうとも、それは変わらない―。
救いは、必ず注がれる。
〈了〉