美粧女〜藍染様お誕生日記念2023〜
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ここまで藍染と妙子の結び付きを見せつけられても、まだあきらめの悪い女隊士もいて、藍染の座る上座の席までやって来て、お祝いの品と恋文を渡し、
「私、ずっと待ってます!!」
とか、
「私、あきらめませんから!!」
とか、泣きじゃくる者もいた。中には藍染の袖を掴んで離さない者もいて、
「まあまあそこまでしなくても!妙子ちゃんは今宵限りの花なんだし!」
と京楽がなんとかとりなして、円卓に返すこともあった。その様を、妙子は大層珍しいものを見た、と言った様子で、驚きつつ、しかしあまり不快に感じずに、藍染の隣で見つめていた。
「妙子ちゃん、言っておくけど、普通、『飲み会』、って、こんなものじゃないよ。」
と、京楽は苦笑して妙子に教えた。
「春水のお兄様、それでは『飲み会』、とは、一体どのようなものでいらっしゃいますの?」
妙子は心底不思議そうに尋ねた。
「それはまた今度ね。」
京楽は言ったが、はたと口を閉ざした。妙子には、今度、など無いのである。
「それはまた今度の機会に。」
藍染が、小さな声で、妙子に笑いながら言った。
「大丈夫。必ず『今度』、はあります。」
藍染は彼女を安心させるように囁いた。妙子は笑みを見せた。藍染も微笑み返した。
この修羅場の意味すら分からない妙子を、藍染は、「世間知らずのつまらないお嬢様」だとは思わなかった。何故か、気が合う、と思った。彼女はとんでもない爆弾を抱えた娘だろう、と思った。ただ、自分すらそのことを知らないだけなのである。
騒ぎが収まると、場は何となく、料理を楽しむだけの場になってしまった。乱菊が日番谷に豚の角煮を取り分けてやり、
「沢山食べないと大きくなれませんよ!」
と言って茶化した。料理の味は悪くなく、藍染は、大皿から雑多に取り分けて料理を食べたことのない妙子のために、銘々皿に、紳士的に料理を取り分けてやった。妙子の口には合わないだろう、と思っていたのに、彼女は、
「大変結構でございます。」
と笑顔を見せて、箸を口に運んだ。しかし元来が貴人らしい少食で、芝海老のエビチリを三つと、酢豚の角切り肉と人参とタケノコを一つずつ食べただけで、
「申し訳ございませんが、もう満腹で…。」
と言い、箸を置いた。
「飲み会なのに飲んでいないね。」
と京楽が言ったので、藍染は妙子に、杏露酒をひと猪口だけお酌してやった。妙子は一口だけ口をつけると、
「酔うと困りますので…。」
と言い、盃を置いた。高貴な娘は、人前で羽目を外すことすら許されていないのである。妙子は、あとはもっぱら藍染にお酌をして過ごした。父親に、真似事でしかしたことのないお酌を、彼女は懸命にした。こんなに美酒だと思ったことはない、と藍染は妙子をねぎらった。それは本心だった。
お開きが近くなり、藍染は妙子に、
「連れションに付き合ってくれませんか。」
と声を掛けた。
「???…つれ…???」
「変なことを教えないでおくれよ。」
と京楽が笑って言った。
「お化粧直しです。」
藍染が説明して、ようやく妙子は意味が分かった。藍染が椅子を引いてやると、妙子は手提げを持って立ち上がった。もう別れの時間が迫っているのだ。これは二人きりになれる、最初で最後の好機だ。藍染も妙子も、それを分かっていた。
藍染は妙子の背中に、さり気なく手の平を添えた。その手は大きく、温かく、妙子はそのぬくもりを失いたくなかった。藍染とて、その薄い背中を、いつまでも支えてやらなければ、と思った。
二人は料理の感想を述べながら、化粧室へ消えて行った。
(惣右介君、一体どうする気なんだい。)
京楽は、少しばかり、責任を感じていた。