美粧女〜藍染様お誕生日記念2023〜
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藍染は集まった女性の死神達に適当に頭を下げると、すぐに奥の自席に進み、
「こちらのお嬢さんは?」
と、京楽に尋ねた。
「この子はボクの従妹で、妙子ちゃんというんだ。ほら、あの持等院家の一人娘だよ。彼女がどうしても一度だけ、『飲み会』、というものに行ってみたい、というんで、彼女のご両親に頼まれて、ちょっとお邪魔させてもらうよ。」
京楽はそう言うと、
「ご両親が心配しているだろう。羽目を外さないようにね。」
と言い、妙子に片目をつぶって見せた。妙子は椅子を引かれずとも、自分の意志で品良く椅子を引いて立ち上がり、
「藍染様、お初にお目もじつかまつります。 持等院 妙子と申します。この度はお席汚しをお許し下さいませ。」
と鈴を転がしたような声で控えめに、しかししっかりと口上を述べ、寂しそうに少し微笑んだ。
「彼女はうちと四楓院家の間に生まれた子で、今は京楽家に籍があるけど、ゆくゆくは四楓院家にお嫁入りするんじゃないのかな。何せ生粋のお嬢様だから、そんなことも自分の自由にならないんだよね…。」
京楽はしんみりと言った。
「お年頃なのに、一人歩きも許されなくて、店の裏口を見てのとおりあの有様だよ。今日は妙子ちゃんにとって、いい社会勉強になると思うよ。悪いね、惣右介君。」
京楽は藍染に軽く頭を下げると、妙子に、
「端の席じゃ可哀想だね、ボクの席と交換しよう。イケメンの隣で、いい空気を吸って帰るといいよ。」
と言い、椅子を引いてやって、妙子を藍染の隣に座らせてやった。女の死神達から、悲鳴が上がった。
「ちょっとちょっと!!何やってるんですか!!これじゃあ会費を返せ、って言われちゃうじゃないですか!!」
乱菊が慌てて京楽のところにやって来た。
「なあに、別に妙子ちゃんは惣右介君狙いなわけじゃなし、惣右介君はこれから円卓回りをして、一人一人に挨拶するんだろう?この席にはほとんど座らないんだからいいじゃないか。」
と言って、京楽は周りをなだめた。妙子は遠慮がちに、おっとりと、ゆっくり女性達に頭を下げた。女隊士達は、顔を蒼くした。藍染一行が到着する前に、妙子は乳母と護衛の家人達に連れられて、上座の一番端に頭を下げて座った。藍染狙いのわけではないようで、どういう意図でこの集まりに加わったのか、皆仔細が分からなかった。彼女の乳母は、
「皆様、妙子お嬢様をよろしくお願い申し上げます。」
と頭を下げ、女の死神達に高級な菓子折りの小箱を配った。店の者にも心付けをしたようで、店は乳母と家人達を妙子の近くに座らせ、お茶を出した。もらうものをもらってしまったため、女の死神達は、何となく黙っているしかなかった。妙子は薄暗がりに黙って座っていて、あまり姿がよく見えなかったが、明かりが届くところに出ると、彼女の美しさは、まるで目くらましの光のように押し出しの強いものだった。抜けるように白い肌に、艷やかな絹の様な髪を結い上げ、金剛石や真珠や珊瑚のかんざしを挿したその美貌は、若さのせいもあり、装飾品をかすませる程の光芒だった。瞳が大きいことを除いて、全て小作りで、上品に整っており、いかにも貴族の子女らしい品格だった。彼女は光琳の『紅白梅図屏風』を手描きで写し、厚くたっぷりと刺繍を施した友禅の振袖に、鶴が松林を飛び交う様を織り出した、白金の丸帯を豪奢に着付けていた。丸帯は厚みがあり、胴をどっしりと見せる。それなのに彼女の輪郭はほっそりとしていて、一体どれだけ華奢なのか、と想像させた。その装いは、人間国宝が作り出した何億環もかかっているもので、それを毎日身に着けている妙子は、日頃死覇装ばかり着ている付け焼き刃のお洒落をした女の死神達とは、もう着こなしの次元が違っていた。
「失礼ながら…。」
と言い、藍染は妙子を目の前に立たせ、自分が妙子の周りをまわったり、妙子に向きを変えさせたりして、その装いの高尚さを褒め称えた。自身の最高の見識をもって、その意匠の高雅さを理解し、称賛していることを妙子に熱く語って伝えた。
(嗚呼、藍染家は名家とはいえ、下々にも分かって下さっている方がいらっしゃる…。)
妙子は藍染に、胸を高鳴らせた、というより、安心を覚えた。賛辞など、嫌と言う程受けてきた。しかし藍染の言葉は、他の誰の言葉とも違っていた。
「これ程の装いを着こなせる方など、そうはいらっしゃいません。それは貴女が、」
藍染はそこまで言うと言葉を収め、ただ熱く妙子を見つめるのみとした。語らないことで、最大の思いであると伝え、また周りの女の死神達に配慮したかたちになった。
(この御方にお会い出来て良かった…ただ一夜でも、私の生は無ではなかった…。)
妙子は湧き上がる感慨を抑え、ただ藍染におっとりと、ゆっくりと頭を下げた。妙子もまた、語らないことで、この一夜を美しいものとして残したのである。
ここまで見せつけられて、女の死神達は皆脱力してしまった。
どうあっても勝てないものは勝てないのである。
乱菊は放心し、七緒は渋い顔をしていた。
女性死神協会の財源は、藍染を種としたものは、今後見込まれないものとなった。