美粧女〜藍染様お誕生日記念2023〜
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「ちょっと待って下さい。今日はいつもの『いちえ』で懐石料理を囲むわけではなかったのですか?」
藍染は先を歩く京楽と七緒と日番谷と乱菊に、疑問を呈した。
隊長、副隊長格の親しい者だけが藍染の誕生日を祝うだけなら、さして広い宴会場はいらないだろう。ところが、先を行く者達は、裏通りの上品な店を通り抜け、表通りの廉価で大きな座敷を持つ店に向かっていた。
「今回のお誕生日祝いは、ちょっと特別なんですよ♪」
乱菊が浮かれてそう言った。
「何せ綺麗どころがドカンと何十人と…。」
「松本!」
日番谷が乱菊を叱る。
「まあまあ日番谷君、そう怒りなさんな!」
京楽が日番谷の苛立ちをおさめた。
「惣右介君、今日が独身最後の夜になると、覚悟しておいた方がいいよ。」
それを聞いて、察しの良い藍染は溜め息をもらした。
「まさかとは思いますが、妙齢の女性が沢山おいでになるとか…。」
「凄いよ、惣右介君。君の伴侶になりたいという女の子が、一群現れて…。」
「それ以上は内緒ですよ!京楽隊長!」
乱菊は慌てて言った。
「藍染隊長が、『帰る』などとおっしゃらないうちに、さっさと宴会を始めましょ♪」
乱菊は藍染と腕を組んで歩き出した。
(参ったな…。)
藍染は心底困ったように、乱菊の腕に引っ張られていった。
藍染へのサプライズ、と称して、女性死神協会は、藍染の誕生会への参加を、秘密裏に会費制で募っていた。藍染と接点を持ちたい女性の死神達は、争って申し込んだ。勿論その会費は、協会を潤すこととなる。安い中華料理屋で、恥ずかしくなるような品のない赤い塗りの円卓の群れの中、女達は、藍染への誕生日祝いの品と恋文を用意して、銘々に着飾って、藍染の到着を今か今かと待っていた。今日びの女は積極的なのである。
藍染は予想だにしなかった展開に、頭を抱えたくなった。藍染は特に貴種の美女が好み、というわけではなかったが、品のなくギラついた女に追いかけられるのを良しとしなかった。高雅な女に、つれなくされる位のところを好んでいた。婚期を逸しても、そうありたいものはそうありたいのだから仕方ない。どうにか逃げおおせないかと思っていたところで、『鳳来』という金文字の毒々しい看板の中華料理屋の前で、一行は立ち止まった。
(こんな店に入るのか…。)
藍染は気が滅入った。街路から窓越しに、既に女達の熱気が伝わってくるようだった。
「皆さん、藍染隊長がご到着です!」
七緒が、規律だけは守れ、と言わんばかりの声で、凛と口を切ったことだけが幸いだと思った。集まっていた女達は、黄色い声を上げた。
奥の方に、藍染の座る席が用意されていた。
その席の端に、声も上げず京楽に頭を下げる若い娘の姿があった。何者か、と思った。
店の裏口には、その娘の着物に入った五つ紋と同じ紋を刺繍した垂れ幕が掛かった輿が入っていて、家人と、乳母と見られる年かさの女が、茶を飲んで背筋を正して座っていた。
藍染の興味は、一瞬にしてその娘へと奪われた。
(何だ、『悪くない』、どころか『佳い』。)
藍染は笑顔を見せた。
女達はその笑顔が、自分達に対して向けられたものでないことに、一瞬にして気付いた。
「やあ、妙子ちゃん、大丈夫かい?」
京楽はその奥に座る娘に声を掛けた。
その娘は、京楽の従妹で、まるで一夜限りの華を楽しむかのような、そんな沈んだ喜びの中にいる灯し火だった。
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