徒然
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茜は驚きで声も出なかった。死覇装ではなく、対の羽織と着物を来ているとはいえ、藍染は目立つはずだった。おまけに細君の楽木元三席は目立って美しく、上質の訪問着を着ている様は人目を引かないはずはなかった。が、今日の徒然亭は大入満員で、そんな二人が紛れていても、全く違和感がなかった。
「どうやって無間から出て来たんですか!?見つかったらどうするんです!?」
茜はあわあわと慌てて言った。
「見つからないさ。」
藍染はあっさりと言った。
「無間に拘束されている間も、私は霊圧を研ぎ澄まし続けている。幽体を作って妻を連れて外を歩くこと位、何てことないことだよ。」
茜は呆れて、何の言葉もなかった。すると楽木元三席が藍染の横から出て来て、
「あなたが茜さん?はじめまして。妻の麗諦(れいてい)です。貴女のお話は、常々藍染から聞いております。あら、可愛らしい方ね。藍染がいつぞやは失礼致しました。」
と挨拶をした。穏やかで、優しい美しさの人を見て、本当は恋敵だと思わなくてはいけないのだろうが、茜はすっかり毒気を抜かれてしまった。
「はあ…どうも…。」
茜はぼんやりとしか返事が出来なかった。
「どうだい、彼女は?」
「素敵な方ですわ。でも可哀想です…。」
ぼんやりとする茜をよそに、藍染夫妻はなにやら相談をしている。しばらく話をすると、
「青木君。」
と、藍染が茜を呼んだ。
「実は虚圏に行ってから、君のことが思われて仕方なくてね、妻に相談して、君を第二夫人として迎えようとしていたところだよ。」
「貴方!」
麗諦がたしなめた。
「茜さん。私の方が第二夫人に降りますから、無理にとは申しません。藍染の正妻になって頂きたいのです。どうぞよろしくお願い申し上げます。」
「よろしく頼むよ。」
二人は茜に頭を下げた。
「ちょっとちょっと!何を二人して勝手に話を決めているんですか!!」
彼女は訳が分からなくて、二人を怒鳴り付けた。
「青木君。」
藍染は穏やかに言った。
「私が間違っていた。君を道化師にしたかった訳じゃない、君を伴侶にしたかったんだと、離れてから気がついたんだよ。」
藍染は話を続けた。
「今日は君を迎えに来たんだよ。一緒に来てくれないか?」
藍染は真面目に言った。
「ふざけんなっ!!」
茜は前にもこんなことがあったなと、怒鳴りながら思った。
「私だって、私だって、最初からそう言ってくれたら、こんなに苦しい恋をしなくて済んだのに…。それを…それを…っ!藍染のバカヤロー!!誰が第二夫人になんかなってやるものかっ!!」
茜は本気で怒っていた。もてあそばれた、と思うことしか出来なかった。しかし大声で怒鳴っているところを、急に藍染に抱き締められた。
「青木君、いや、茜…。」
茜は心地よさに黙ってしまった。
「すまなかった…。」
藍染は優しかった。とても悪人であるとは思えなかった。でも自分は死神として生き、白哉に返さねばならぬ恩がある。茜は藍染を突き飛ばした。
「まあ…。」
泣いている茜の顔を麗諦が手巾で拭いた。
「そうよね…藍染を許して下さる訳がないわよね。でも一つだけ聞いて下さる?あんなに最初は嫌いだった藍染なのに、今は藍染の妻を名乗るのが嬉しいの。いつかそう思わせてくれる、そんな人よ、藍染は。」
もう思っている、とは、恥ずかしくて言えなかった。
「仕方ないね。」
藍染が言った。
「ではこれからは君が高座に上がる時は、必ず見に来るよ。そしてその度に君に求婚することにする。」
「な、な、…。」
何て迷惑な、と一瞬思ったが、次の瞬間から、嬉しくて嬉しくて仕方がなくなった自分がいた。
「そ、そんなことしたって許しませんからね!私は死神なんですから。」
鼻水をすすりながら茜は言った。
「可愛いね、まったく…。」
藍染がスッと近付いてきたかと思うと、
「毎回聞きに来るからね、いつか私の求愛を受け入れておくれ。」
と、甘い声で言った。そして一瞬のすきにあごを指で持ち上げられて、接吻をされた。
「うわーっ!!何をするーっ!!」
茜は手の甲で唇をぬぐって一歩後ろへ引いた。
アハハと楽しげに、満足げに笑った藍染は、
「今日のこの後の君の高座が楽しみだな。はたしてちゃんと務め上げられるかな?」
と、意地悪く言うと、麗諦の手を取って座席の方へ向かうために茜に背を向けた。
その背中に、
「バカヤロー!護廷亭紫楽をなめんな!!」
と罵声を浴びせた。
(あーっ!初めての接吻だったのにーっ!!)
興奮と怒りでぜえぜえしている茜に、後ろからお姐さんが声をかけた。
「面白いものを見せてもらったよ。接吻は初めてかい?」
ニヤニヤしているお姐さんに、
「は、初めてじゃない、です!」
茜は右手と右足を同時に前に出しながら歩くと、楽屋へ引き上げて行った。
「あらら、大丈夫かね?」
お姐さんは苦笑して見やった。