徒然
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それから何年が経っただろうか。藍染によって壊された世界は、また他の襲来者によって壊され、しかしそれは今度は藍染によって救われたところもあったと言えた。
世界が再興されるまで、長い時間がかかったが、徒然亭も再起を計り、早い時期に最初にあった小さな小屋程度の構えを持つことが出来た。お笑いを、徒然亭を愛する者達が手に手を取って、協力しあって、のことである。
その間茜は何をしていたかといえば、護廷隊、特に故山本総隊長直々に命じられ、死神の活動を市民一般に啓蒙するべく、「護廷亭紫楽(ごていていしらく)」という高座名を頂き、死神の仕事を落語で学べるような噺を語る奉仕活動をしていた。相変わらず死神としての働きはあまりはかばかしくないが、この活動は茜の当たり役と言えた。彼女は現代落語の脚本も書き、自作自演で落語家活動を続けた。
相変わらず男っ気も洒落っ気もない茜である。それは藍染故なのかもしれなかった。白哉に助けられた命である。それ故に彼女は藍染をひっそり思い続けた。自分が生きている間に、無間から出ては来ぬ人である。それを表出させるのは罪と言えた。
ある日のこと、今日は久々に徒然亭の高座に上がる予定の茜は、徒然亭の入口広間で他の芸人達と共に切符切りをしていた。今日は大トリに花魁ストリップがかかる、月に一度の繁忙日の一つで、花魁のお姐さんも太夫の姿で広間の華になっていた。
何とはなしに、茜はお姐さんと話をしていた。
「あんたが咄家(はなしか)になるなんてね。護廷隊ってヒマな仕事なのかい?」
「咄家は本業じゃないですよ!私だって死神のはしくれですよ!まあ、下っぱの下っぱですけど…。」
ごにょごにょと濁す茜がおかしくて、姐さんはプッと吹き出した。
「いいのいいの、咄家って言っとけば。その方がずっとあんたらしいよ。」
お姐さんは、優しく茜に言った。
「あんた、可哀想だね。惚れてたんだろ?あの悪人に。」
お姐さんは小さな声で言った。
お姐さんは心底同情しているようだった。
「うわっ!!何てことを言うんですか!!惚れてなんかいませんでしたよ!バレたら殺されるーっ!!」
「なんだいそれは。」
お姐さんは不思議そうに言った。
「『でした』ってことは、ここに二人で来てた時には惚れてなかったけど、事件の後は惚れてるってことかい?なんだいそれは?」
順序が逆じゃないかい、と問いたげなお姐さんは、軽くため息をつくと、
「ま、離れてから気付く愛、ってのもあるよね。」
と遠い目をした。
「そんなんじゃないですってば!私はただ…っ!」
「君もなのかい?それでは君と私は両想いなんだね。」
しばらく聞いていないが、忘れもしない藍染の声が背後から聞こえてきた。茜はぎょっとして振り向くと、美しい妻、楽木元三席を連れた藍染が、ふてぶてしくも堂々と、ニヤニヤしながら立っていた。その後ろから、楽木元三席がしっとりと頭を下げた。