徒然
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藍染達の出奔事件から数日後、段々と静けさを取り戻した瀞霊廷では、事件関係者への事情聴取が行われていた。
当然茜にも捜査の手が及んだ。彼女は「反膜から逃れた唯一の死神」として目をつけられ、それは六番隊の隊士達のお陰なのだが、実は藍染の手下なのでは、という見方をする者もあり、居心地の悪い日々を送っていた。
そして今日は茜への尋問の日だった。彼女のような平隊士では、総隊長が直々に尋問に当たることはない。今日は六番隊隊長である朽木白哉が茜から話を訊くことになっていた。
茜は隊主室に呼ばれた。彼女は中に呼ばれたが、一緒についてきた恋次は隊主室の入口で控え、中には入らなかった。ただ、斬魄刀に手をかけたまま控えている姿から、黒だと思われたら斬られる、とみてとれ、茜は緊張していたが、どこか覚悟もしていた。
「失礼致します。」
茜は一礼して隊主室に入った。
「座れ。」
白哉に言われ、座ろうとしたが、そこには錦の皮の分厚い座布団が敷かれてあった。それは白哉が座っている座布団よりも厚かった。
「あの、こんなに良い座布団じゃ…。」
「座れ。」
白哉は無感情にもう一度言った。従わなければ、余計に怒られる気がして、茜は恐る恐るその座布団に座った。
数秒か、数日か、どれ程時間が経ったのか、分からない位、茜は緊張していた。
「『芝浜』を語って聴かせよ。」
白哉が口を開いた。
「は…?」
彼女は思いもかけない白哉の言葉に、自分が聞き間違えをしたのではないか、と思った。
「『芝浜』を語って聴かせよ。」
白哉は再び無感情に言った。
「『芝浜』、ですか?」
「うむ。」
(うわあ、何でだろう?でも隊長命令だし、隊長を怒らせて副隊長に斬られたら…。)
「やりますやります!!是非ともやらせておくんなまし!!」
(やばっ!!変なこと言っちゃった!!)
座布団からずり落ちそうになっている茜を見て、白哉は思わず笑った。
「落ち着いてからで良い。」
白哉が笑ったので、
(ああ、とりあえず命は助かりそうだ。)
と思い、赤面しつつ、謝って茜は『芝浜』を語り始めた。
『芝浜』は夫婦人情を題材にした落語で、語れば半刻はかかる大作である。茜はそれをそらんじることが出来た。しかも身振り手振りをつけて。
長い長い噺(はなし)を語る間、茜は藍染との日々を思い返していた。自分は藍染を愛していたのか?いなかったのか?愛していなかった、とはっきり言える。でも…。
「いや、やっぱりよしておく。夢になるといけねえ。」
茜はオチを語り終えると、白哉に向かって深々と頭を下げた。
「…夢になっても良かったのに…。」
頭を下げたまま、彼女は声を振り絞った。
「相手にされていなかったと知った瞬間、御妻女がいると知った途端、正夢を見たくなりました…。」
茜は歯を食いしばって泣くのをこらえた。
「お斬り下さい!!私は藍染を…!」
「惚れたのか。」
白哉はため息をつくと、
「不問に処す。そなたは藍染出奔前には藍染に特別な感情を抱いていない。よってそなたは白だ。」
「え…っ。」
「このように面白い隊士を、私は失いたくない。」
そういって白哉はふっと笑った。
「男の趣味だけはよくよく気を付けるよう、申し聞かせておく。下がれ。」
白哉は立ち上がり、隊主室を出ていった。外で控えていた恋次と共に、二人分の足音を立てて去り行く気配がした。
「隊長、私…。」
茜は泣いた。どちらの隊長に向かって泣いたのかは知れず。
隊主室には、穏やかな陽が射していた。