徒然
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甘味処に入り席を取ると、藍染はお汁粉を二つ頼んだ。茜は向かいに座りお礼を述べると、早速今日の徒然亭での話を始めた。
「藍染隊長、今日一番お笑いになられたのは、誰のネタですか?」
「今日も皆面白かったけど、やはりアレだね。矢車草の…。」
そこまで言うと、二人はニヤニヤしながら、目が合ったのを合図に、
「「『ペッパー君、大丈夫?』『アタシモウスグ、ダメ二ナ…ボンッ!!プシュー…。』」」
と、矢車草の真似を声を合わせてし合って笑った。特に茜は、ひょうきんにペッパーというロボットががっくりと電源を切らす真似までしたため、藍染はそれを見て肩を揺らして笑いをこらえていた。
「君は面白いね。」
といいながら目頭を指で拭う藍染に、
「私が面白いんじゃなくて、矢車草のネタが面白いんですよ!」
と、やや憤慨して茜は言った。が、藍染は、
「いや、だってロボットの動きなんてそっくりだよ。君は一人でも高座に上がれそうだね。」
と、まだ笑い続けながら言った。
「さすがに舞台に上がってまでは出来ないですよ。まあ藍染隊長もなかなか面白い方だと思うので、藍染隊長と夫婦漫才、っていうのなら考えてみますけど。」
そこまで言った時、席にお汁粉が運ばれてきた。茜は、初めて話す隊長相手に夫婦漫才はなかろう、と思い、しかもネタ的に面白くなかった、とも感じたので、ちょうどお汁粉がきて良かった、と思った。
「青木君、遠慮しないで食べておくれ。」
藍染も意識がお汁粉にそれて、特に気にしていないようだったので、場が流れて茜もお汁粉に意識が向いた。
「ではすみません。遠慮なくごちそうになります。」
二人はお汁粉をすすりながら、徒然亭での今までの芸人達の技の妙について語り合ったりした。矢車草がもうすぐ徒然亭で天下を取りそうだ、とか、二楽亭の弟子達と椿家の弟子達のどちらが品格が高いか、とか、女流の太神楽がすごい安定しているとか、猿飛会の猿回しの跡継ぎが出来て良かったとか、話題は多岐にわたった。
徒然亭は、まだ寄席とは呼べない下流の小屋だったが、そんな場の話題であっても、藍染が話をするとどことなく高雅な雰囲気が漂った。厳しくも優しい視線…茜は隊長の、というより、藍染自身の人を見る目の資質に、感じ入ることが多かった。
「すごいお方ですね、藍染隊長は…なんだか徒然亭が、本格的な寄席のように感じてきました。」
茜は藍染の芸評に、一目も二目も置いた。
「私は芸人達の真似を体現出来る、青木君の方がすごいと思うよ。」
藍染はお茶を飲みながら、茜に微笑みかけた。
「そんな、私はただふざけているだけで…。」
「その時青木君は無心じゃないかい?」
藍染は茜の目をのぞき込んで言った。
「その無心は人の心を打つ、私はそう思うよ。」
藍染に急に褒められて、茜は動揺して、褒めて頂く程のものではない、と慌てて否定した後、口ごもった。
「どうしたんだい?何か私が失礼なことを言ってしまったかな。」
藍染は顔を曇らせて、茜の次の言葉を待っていた。
「ああん、もう!」
茜は頭をかきむしって、己にいらついていた。
「藍染隊長が急に真面目に褒めたりして下さるから、何か面白いツッコミでも、と思ったのに、ネタが…。」
それを聞くと、少し間を置いて、藍染はぷっと吹き出し、
「君は根っからの芸人だね。」
と笑った。
「私、自分のことツッコミだと思っていたのに、ボケに回った方がいいのでしょうか?」
茜は真剣だった。藍染はまたもおかしそうに笑うと、
「君はどちらでもやっていけるよ。」
と、茜に温情を向けた。
それから二人は度々徒然亭で顔を合わせた。そして時には待ち合わせをして徒然亭に足を運んだりもした。ひとしきり笑った後、また甘味処に二人で入ったりもしたが、二人に恋の噂が立つことはなかった。茜がすっかり藍染に慣れて、道化のように振る舞ったため、誰も二人が恋仲だとは思わず、また当人達にもそんな意識はなかった。
藍染と茜はまるで、旦那衆と太鼓持ちのようだった。