徒然
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
矢車草の公演が終わると、トリである落語の噺が始まった。有名な師匠は来ないが、なかなか現代的な若者が語る噺も面白い。時には演目をやらずに世間話だけで笑わせ通す強者もいて、徒然亭の自由な気風あってのことだった。今日のトリである『椿家小金魚』という若い噺家もその手の者で、演目には『うそつき村』が掛かっていたが、小金魚は貴族の風刺だけで場を通し切ってしまった。皆涙を流して笑っていた。
茜は気になって、藍染の方を振り向いた。藍染は矢車草の時に見かけた時から既に笑いっぱなしで、時折眼鏡を外しては目頭を手拭いで拭いていた。
(意外…。隊長さんでも、こんな下世話なところに来るんだ…。)
藍染は一人で徒然亭に通っているようだった。
全ての演目が終わり、皆が席から立つ頃、茜は藍染を追いかけて声を掛けた。
「こんばんは、藍染隊長。」
お忍びで来ているであろう藍染を気遣い、茜は藍染の隣にくっついて、小声で袖を引いた。藍染は驚いた顔で、
「君はどこかの隊の隊士だね?」
と、茜の死覇装を見て言った。
「はい、私は六番隊で隊士をしております
青木 茜と申します。」
と、茜が答えると、藍染は頭をかいて、
「意外な同士がいたものだね。実は私は演芸場が大好きでね。」
と照れくさそうに言った。
「それも結構キケンなネタが好きなんだよ。普段は私は温厚に見られているけど、私の代わりに芸人達が毒を吐いてくれるから、ここで精進落としをさせてもらうんだよ。」
藍染は照れ笑いを浮かべた。
「意外な同士、とおっしゃるなら、こちらの方こそそう申し上げたいです。まさかこんな品の良くない小屋に、藍染隊長のような方がおいでになられるなんて…。」
茜は正直な胸の内を藍染に明かした。それが藍染の警戒を解いたらしい。
「せっかく同士を見つけたことだし、少しお笑いの話をしてみたいなあ…。周りにお笑い好きがいないものでね…。」
藍染は隊長羽織は羽織らずに、
「青木君と言ったね。もし良ければこの後お汁粉でも食べていかないかい?話し相手をしてもらうお礼に、私がおごるよ。」
と、出入り口の暖簾に二、三歩近付いた。
「しかしそれでは申し訳が…。」
と、茜が遠慮を見せると、
「じゃあ、お願いだから付き合ってくれないかな、ということではどうだろう。」
と、藍染は茶目っ気を見せて頼み込んだ。
「藍染隊長にそこまで言われたら、平の隊士じゃ断れないじゃないですか!」
と茜は笑って反論したが、
「そういう圧力をかけたつもりはないのだけれど、気を悪くさせたなら謝ろう。」
と、藍染は困ったように、しかしのんびりした様子で笑って言った。
(思ったより面白い人だな…。)
と、茜は思った。
「では申し訳ございませんが、ごちそうにならせて頂きます。」
と、彼女は返事をした。
「ああ良かったよ。もう女性に振られるのはこりごりだ。心臓に悪い。」
と、藍染はハハと笑って言った。
「藍染隊長程の方なら、もててもてて、引く手あまただと思ってました。」
茜は、独身の隊長なら全てそんなところだと思っていた。しかし藍染は変わっていて、常識人である、というより、何か常軌を逸した奇癖の持ち主のような気がした。
「君のところの朽木隊長ならそうかもしれないが、私はもう斜陽だね。もっと若いうちに身を固めておくんだったと、後悔しきりだよ。」
藍染が心にもないことを言っていると茜には分かったが、その後藍染が
「まったく向こうも一人でいるものだから、ついこちらものんびりしてしまう…。」
と、ぼそっと言ったのを聞き、今の話は聞かない方が良かった話かもしれない、と思ったので、黙っていた。すると藍染が、
「さ、お汁粉を食べに移動しよう。もし良ければあんみつも食べてもいいよ。」
と、気前の良いところを見せたので、そこまでは甘えられませんよ~!、などと軽口を叩いて茜はごまかした。
藍染と茜の間には、男と女の何やらは、なかった。