徒然
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ある日のこと、最近では舞台に上がる側だった茜は隊の休日に、客として、徒然亭に行ってみようと思った。
徒然亭に着くと、顔が利いて、タダで席を用意してもらえた。
(ラッキー!)
と思って、今日も矢車草が出演することを確認すると、茜はご満悦になった。矢車草は、今では瀞霊廷で一番人気の漫才師となっていた。彼らはどこの寄席からも引っ張りだこだったが、徒然亭での舞台をことのほか大事にした。自分達を育ててくれた小屋に、恩義を感じているのだろう。茜はそんな彼らのことが大好きだった。
笑いの渦に巻かれて、身を揉まれるように笑わされ、今日も充足した時間を味わい、早くもお開きとなった徒然亭を後にしようとすると、
「青木君。」
と聞き慣れた声がした。振り向くと、藍染が茜の袖を引いていた。
「藍染隊長!」
彼女は
(あれ、いつかと反対だ。)
と思っていた。
「今日はお一人なんですか?」
「そうだよ。今日は妻は趣味の香道に夢中で、あっさりフラれたのさ。」
藍染は苦笑していた。そういえば藍染の着物からも、伽羅の香りがした。
「どうだい、青木君、この後、昔みたいにお汁粉を食べに行かないかい?勿論私がおごるよ。」
最近の茜なら、
「まさかそんなことを言って、変なところに連れ込むんじゃないでしょうね!?」
とでも言うところだが、その日は何故か、
「おごりは別によろしいんですけど、ご一緒します。」
と、素直に言えた。
甘味処に着いて席を取ると、こうして二人でお汁粉を食べるのは、本当に久し振りだと実感した。二人はお汁粉を食べながら、今日の舞台の芸評を述べ合った。椿家小金魚は椿屋金魚を襲名し、女性の太神楽は産休から戻り、至芸に研きがかかり、猿回しはもう跡継ぎの子供が猿を操る神童ぶりをみせた。そして矢車草は、毎日彼らの姿を霊子モニターで見ない日はなくなる程だった。司会をやらせても充分に面白かったが、やはり矢車草は漫才を演じることを大切にした。そこが良いところだと、藍染も茜も意見が一致した。
「青木君。」
藍染はひとしきり盛り上がると、神妙な表情になり、茜に声をかけた。
「いつもの件なのだけれども、」
そう言って藍染は言葉を一端切った。
「またその話ですか、私は藍染隊長の第二夫人にはならな…。」
「待つよ。」
雑多な怒りの感情で彼にぶつかった彼女は、何を言っているのか、と思った。
「どうせ口だけですぐにのしかかってくるクセに、今更何を…。」
「待つ、本当だよ。」
藍染は静かに見つめてきた。
「どう見ても麗諦の方が美しく、気立てもよく、しとやかで、知的で、芯も強いのに、何故なんだろう、君に惹かれて仕方無いんだ。」
「なんですかそれは?のろけですか?」
「違うよ。」
藍染は真剣だった。
「このまま君の霊子を分解、吸収して、さらってしまおうと思ったけれど、君には六番隊の大切な仲間もいるだろうし、朽木隊長に恩義を感じてもいるのだろう。だから君に会いたい時には、妻と君の高座を見に来るよ。その方が、君の幸せのためだろうと思ってね。」
「藍染隊長…。」
(私は今、男の人に告白されている…。)
経験したことのない感情に、茜はときめいていた。しかも両想いなのだ。
「ありがとう…ございます…。」
彼女は何故か涙を流してしまった。
「どうしよう、どうしよう、私、今、幸せだ…。」
「それは良い返事だと受けとめていいんだね?」
藍染が心配顔で聞いてくる。
「はい、はい…。」
彼女は手巾で涙をぬぐったが、涙は後から後から流れてくる。
「よしよし、良い子だ。」
藍染が、茜の頭をぽんぽんと撫でた。
「私は不死身だからね、君が年を取ったら、介護もしてあげるから、心配しないで。」
「なんですかそれは?藍染隊長。」
「もう店を出よう。送っていくよ。」
藍染は泣いている茜の分もお代を払うと、彼女をうながして店を出た。すみません、すみません、と繰り返す茜に、藍染は接吻をした。
「大丈夫だよ。大丈夫。」
彼の言葉に、安堵し、茜は何故か眠くなるような幸せを感じた。
翌朝、茜はきちんと夜着に着替えて、布団に寝かせられている状態で目を覚まし、ぎょっとした。
「なんで?なんで?まさか私、藍染隊長と…!」
驚いて体を起こすと、夜着の胸元の袷から文が見えた。
慌てて文に目を通すと、
「六番隊隊舎に君を連れてこっそり忍び込み、君の部屋に入ると、君が眠ってしまったので、失礼して着替えさせて布団に寝かせてきた。何もしていないから心配しなくていい。愛している。惣。」
という内容の走り書きだった。
「ああ…。」
彼女は色々な意味のため息をついた。変な顔して、変な事を言ってないかな…、それにしても幸せ過ぎる…藍染隊長…。
しかしここは隊舎だ。いま何刻だろう?任務がある。藍染隊長、藍染隊長、藍染隊長…。
茜は思いきり起き上がると、死覇装に着替えた。
今日は任務後、徒然亭で奉仕高座がある。ああ、今日、もう藍染隊長に会えるんだ!幸せ過ぎる!
茜は生きている幸せを感じた。
恋とお笑い、両立出来るのかな?しかし世界はそれだけではない、徒然のことが巡り巡ってくる。
「やるだけやるしかない!!」
茜は精一杯伸びをした。それは彼女の世界が、大きく拡がる姿だった。
〈了〉