苺は愛で鯛〜バレンタインデー2016〜
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それから二人は、しばらく抱き合っていた。藍染は時折、熱い吐息を漏らすと、鈴泥の体を抱き締め直した。
夜になって、隊舎の食堂に藍染が姿を現さないので、席官の一人が隊主室に藍染を呼びにきた。
鈴泥は慌てて藍染から離れようとしたが、藍染は彼女を抱く腕にかえって力を込めて、
「ご苦労様。すぐ行く。」
と扉越しに返事をした。
「離れがたいね…。」
藍染は鈴泥の頭を撫でた。
「食堂に行く前に、もう一度だけ、口づけてもいいかい?」
鈴泥は少したじろいで、
「だ、ダメです。」
と答えた。
藍染は腕をゆるめて彼女の顔を見ると、
「焦らしているのかい?」
と、ニヤリとして言った。
「ち、違います!」
鈴泥は慌てて返事をした。
「せっかく落ち着いたのに、ここでまたそんなことをされたら、どんな顔をして食堂に行けばいいのか…。」
鈴泥は恥ずかしそうに小声で言った。
「可愛いね。まったく…。」
藍染は仕方がない、という様で、
「それでは、食堂に行くとしようか。」
と彼女の手を取り立ち上がると、戸の鍵を開け、二人で隊主室を後にした。
食堂には、いつも程は人がいなかった。皆バレンタインデーということで、外食の予定を申請していたらしかった。
席次上、藍染の席と鈴泥の席は遠い。一緒に食事を摂ることは出来ないが、かえって皆に二人の関係が知られずに済むかもしれないと、鈴泥は思った。
彼女は自分の箱膳の上に載っている、塗りの丼のふたを開けた。今日の献立は海鮮丼だった。豪勢だな、と思い周りを眺めると、何となく周囲の者の丼より盛りがいい気がした。よくよく観察していると、マグロや海老やイクラなどの下に、見えないように厚切りの鯛の刺身がびっしり敷き詰めてあった。
鈴泥は驚いて、慌ててふたを閉じた。誰にも見咎められていないか、辺りを見回した。すると藍染が、上座から声を出さず、
(祝い膳だよ。)
と口の動きだけで伝えてきた。
(やり過ぎですよ!藍染隊長!)
鈴泥はもう一度そっと丼のふたを開けると、周りの者に見つからないうちに、慌てて丼をかき込んだ。鯛は脂がのっていて甘く、しかし上品な味がした。
(本当はゆっくり食べたかったなあ…。)
鈴泥はこれからこういう事が続くのかと思うと、嬉しい反面、身のすくむ思いがした。