アンティークカフェ〜バレンタインデー2024〜
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時野が硝子の背の低い卓に緋毛氈を敷くと、藍染が重い火鉢を持ち上げて載せ、簡易な炙り台とした。藍染が胡麻の入った田楽味噌を、時野がふきのとうの入った田楽味噌を、それぞれ豆腐にうまく載せるように塗り、火鉢の縁に沿って灰に挿し、手を炙りながら焼き色がつくのを待った。
藍染は毎年のこの日、女達が通りから消える夜更けまでこの店に隠れていて、深夜にこっそり自宅へ帰るのだ。それまでの間、時野の作った豆腐田楽と五平餅で腹を満たし、時が過ぎるのを待った。
時野は藍染の茶碗の中の緑茶の量と温度を常に気にしており、「店の者」としてよく努めた。
「時野さん、そんなに気を遣わなくていいよ。私が言うのもなんだけど、沢山食べて、もうゆっくりした方がいい。」
藍染が火箸で火鉢の炭をひっくり返すと、時野は、
「そうですね…ではお言葉に甘えて…じゃあ、もう店は閉めてしまいましょうか。」
と言い、急須の中の出が悪くなった茶葉を交換しに行きながら、店の看板をしまって扉に鍵をかけた。ひっそりとした店に、香ばしい味噌の香りが広がる。それも今日一日のことだ。
火鉢にかけた鉄瓶はしゅんしゅんと湯気を上げ、店の中は暖かく、藍染と時野はとりとめのない世間話をしながら、味噌に焦げ目のついた豆腐を口にしては、また新しい豆腐に味噌を塗り火鉢の縁に挿して、を繰り返した。今日は藍染が既に受け取ってしまった贈り物へのお返しについての愚痴があがった。
「同じ隊の女性陣からの贈り物だけは断りづらくてね…あまりみっともない物は返せないし、さりとて心を尽くせば誤解されるし…。」
藍染は困ったように言ったが、彼は頭が回るので、お返しの算段などはすぐにつくだろう。いかに朴念仁に見せるかに気を配っているのである。
「そんなことをおっしゃって…お一人位、お気に召した方がいらっしゃいませんの?」
時野は呑気をよそおいながら、本当は藍染の身の上を案じているのである。
「毎年こんなことをなさらないで、素敵な御内儀をご紹介にいらして欲しい、って、うちの両親が申しておりましたわよ。」
時野は藍染に、皿の上に焼けた豆腐田楽を取り分けてやり、どうぞ、と卓の空いているところに差し出した。
「いつまでこんなことをしていられるかな…。」
藍染が、勧められた皿の田楽に目を落として、ふと、そう言った。
時野は驚いたように藍染の方を見た。
いつまで―。
そんなことを、二人は今まで考えたことがなかった。この無邪気なかくれんぼが、いつまでも続くものだと思っていた。
正直、このかくれんぼは楽しい。
しばらく沈黙が訪れた。
「続きますよ、きっと。」
時野は精一杯、努めて明るく言った。
「そろそろ五平餅も炙りましょうかね。」
今度は藍染が時野の顔を見ていた。
この時間を失うのは嫌だ。
二人は少しの間黙っていたが、またどちらからとなく、世間話を始めた。五平餅が焼ければ、腹もふくれる頃だ。
今年のかくれんぼは、なんだか感傷的だな、と思った。
窓の外では、雲が晴れ、冷たい澄んだ空気の中、星が輝いていた。
無邪気な時間を、奪われるのは嫌だ。
藍染と時野は、子供のように思った。
どうかいつまでもいつまでもこのままで―二人は何に恋しているのかも知れず、ただ、そう願った。
藍染は毎年のこの日、女達が通りから消える夜更けまでこの店に隠れていて、深夜にこっそり自宅へ帰るのだ。それまでの間、時野の作った豆腐田楽と五平餅で腹を満たし、時が過ぎるのを待った。
時野は藍染の茶碗の中の緑茶の量と温度を常に気にしており、「店の者」としてよく努めた。
「時野さん、そんなに気を遣わなくていいよ。私が言うのもなんだけど、沢山食べて、もうゆっくりした方がいい。」
藍染が火箸で火鉢の炭をひっくり返すと、時野は、
「そうですね…ではお言葉に甘えて…じゃあ、もう店は閉めてしまいましょうか。」
と言い、急須の中の出が悪くなった茶葉を交換しに行きながら、店の看板をしまって扉に鍵をかけた。ひっそりとした店に、香ばしい味噌の香りが広がる。それも今日一日のことだ。
火鉢にかけた鉄瓶はしゅんしゅんと湯気を上げ、店の中は暖かく、藍染と時野はとりとめのない世間話をしながら、味噌に焦げ目のついた豆腐を口にしては、また新しい豆腐に味噌を塗り火鉢の縁に挿して、を繰り返した。今日は藍染が既に受け取ってしまった贈り物へのお返しについての愚痴があがった。
「同じ隊の女性陣からの贈り物だけは断りづらくてね…あまりみっともない物は返せないし、さりとて心を尽くせば誤解されるし…。」
藍染は困ったように言ったが、彼は頭が回るので、お返しの算段などはすぐにつくだろう。いかに朴念仁に見せるかに気を配っているのである。
「そんなことをおっしゃって…お一人位、お気に召した方がいらっしゃいませんの?」
時野は呑気をよそおいながら、本当は藍染の身の上を案じているのである。
「毎年こんなことをなさらないで、素敵な御内儀をご紹介にいらして欲しい、って、うちの両親が申しておりましたわよ。」
時野は藍染に、皿の上に焼けた豆腐田楽を取り分けてやり、どうぞ、と卓の空いているところに差し出した。
「いつまでこんなことをしていられるかな…。」
藍染が、勧められた皿の田楽に目を落として、ふと、そう言った。
時野は驚いたように藍染の方を見た。
いつまで―。
そんなことを、二人は今まで考えたことがなかった。この無邪気なかくれんぼが、いつまでも続くものだと思っていた。
正直、このかくれんぼは楽しい。
しばらく沈黙が訪れた。
「続きますよ、きっと。」
時野は精一杯、努めて明るく言った。
「そろそろ五平餅も炙りましょうかね。」
今度は藍染が時野の顔を見ていた。
この時間を失うのは嫌だ。
二人は少しの間黙っていたが、またどちらからとなく、世間話を始めた。五平餅が焼ければ、腹もふくれる頃だ。
今年のかくれんぼは、なんだか感傷的だな、と思った。
窓の外では、雲が晴れ、冷たい澄んだ空気の中、星が輝いていた。
無邪気な時間を、奪われるのは嫌だ。
藍染と時野は、子供のように思った。
どうかいつまでもいつまでもこのままで―二人は何に恋しているのかも知れず、ただ、そう願った。