アンティークカフェ〜バレンタインデー2024〜
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藍染は羽織っていた外套を脱ぐと、時野がそれを衣紋掛けに掛けて、熱い雁が音のお茶を淹れてくれた。今日は日が日なので、紅茶や珈琲、ココアやホットチョコレートなどがよく注文されたが、時野は毎年、この日にそれらを藍染に供さなかった。藍染の気持ちを慮ってのことだろう。よく分かっている、藍染はゆっくりと紅い天鵞絨の金の猫脚のソファーに腰をかけると、熱い茶碗で両手を温めた。そこへまた一組、若い男女が店に入ってきたらしい。
「いらっしゃいませ!」
と声を上げて、時野はバタバタと奥の間を出て行き、注文のココアの準備を始めた。藍染は手を茶碗にあてたまま、王羲之の書軸を眺めた。何度見ても佳(よ)い。
この店は大きくないが、何故か一流の芸術品がいくつもあった。今日掛けられている王羲之と顧愷之の軸もそのうちの一つで、誰が現世からこれらの品々を持ってきたのか分からない。現世でこれらの品々を発表したら、世紀の大発見だろう。それをこんな間近で独り占め出来るなど、滅多にないことだと藍染は思った。美しい女の顔を見ているより良い。藍染は恒例のこの騒がしい一日を逃れるための場所代として、この店に毎年百万環のお代を払って予約を押さえていた。それは時野の家だって、王羲之と顧愷之位掛けるだろう。藍染は飲み頃になってきた緑茶に口をつけた。時野はココアのカップをお客の元に運ぶと、また急いで奥の間に戻ってきた。
「藍染隊長、申し訳ございません!もうちょっとして、夕食前になると空くと思うんですけど…お腹が空いていらっしゃいません?」
この骨董喫茶は、食事となるようなものの提供がなく、夕食前の待ち合わせに使われるだけだった。皆夕食に向かう店の予約時になると、店からは客が消えるのだ。
「大丈夫だよ。それより君もお腹が空いているんじゃないのかい?今年も少しだけどチョコレートのお裾分けを持ってきたよ。手作りのものは気味が悪いかもしれないけど、雛森君が作ったものは大丈夫だよ。何なら既製品もあるよ。」
藍染は持ってきた風呂敷包みを解いて、中から五、六個の箱を広げると、
「いつもすみません!では少しつまませて下さい!もう忙しくて動きどおしで…。」
と、こぼし帯に手をやる時野に、いくつかの箱の蓋を開けてやった。彼女は雛森の作ったチョコレートの入った一口まんじゅうを二個、口に入れると、もごもごとお礼を言って、また客の応対に戻っていった。支払いを頼む客が多くなり、店はようやく忙しさの峠を越えたようだ。
最後の客が消えるまで、時野は洗い物をしながら、精算の求めに応じた。最後の客が席を立つ頃、何故か厨房から、炒った胡麻の香ばしい香りと、ふきのとうの苦く清冽な香りがしてきた。客は怪訝に思いつつも、食欲を刺激され、足早に夕食を予約した次の店へと去っていった。
「あーあ忙しかった!藍染隊長、お待たせしました!今年も豆腐田楽の準備をさせて頂きましたよ!」
時野は大きなお盆に、すり胡麻と、ふきのとうを刻んだものを混ぜた、二色の田楽味噌と、水切りをして、竹串を打った木綿豆腐を、山のように持ってきた。冷やご飯をつぶして作った五平餅もあった。
「毎年すまないね。」
「いいんですよ!毎年百万環も頂戴して、日頃もご贔屓にして頂いているんですから。これくらい当たり前です!」
豆腐は藍染の好物だ。
それは店のメニューではなく、時野の手料理で、客の中では藍染しか口に出来ないものだった。
「いらっしゃいませ!」
と声を上げて、時野はバタバタと奥の間を出て行き、注文のココアの準備を始めた。藍染は手を茶碗にあてたまま、王羲之の書軸を眺めた。何度見ても佳(よ)い。
この店は大きくないが、何故か一流の芸術品がいくつもあった。今日掛けられている王羲之と顧愷之の軸もそのうちの一つで、誰が現世からこれらの品々を持ってきたのか分からない。現世でこれらの品々を発表したら、世紀の大発見だろう。それをこんな間近で独り占め出来るなど、滅多にないことだと藍染は思った。美しい女の顔を見ているより良い。藍染は恒例のこの騒がしい一日を逃れるための場所代として、この店に毎年百万環のお代を払って予約を押さえていた。それは時野の家だって、王羲之と顧愷之位掛けるだろう。藍染は飲み頃になってきた緑茶に口をつけた。時野はココアのカップをお客の元に運ぶと、また急いで奥の間に戻ってきた。
「藍染隊長、申し訳ございません!もうちょっとして、夕食前になると空くと思うんですけど…お腹が空いていらっしゃいません?」
この骨董喫茶は、食事となるようなものの提供がなく、夕食前の待ち合わせに使われるだけだった。皆夕食に向かう店の予約時になると、店からは客が消えるのだ。
「大丈夫だよ。それより君もお腹が空いているんじゃないのかい?今年も少しだけどチョコレートのお裾分けを持ってきたよ。手作りのものは気味が悪いかもしれないけど、雛森君が作ったものは大丈夫だよ。何なら既製品もあるよ。」
藍染は持ってきた風呂敷包みを解いて、中から五、六個の箱を広げると、
「いつもすみません!では少しつまませて下さい!もう忙しくて動きどおしで…。」
と、こぼし帯に手をやる時野に、いくつかの箱の蓋を開けてやった。彼女は雛森の作ったチョコレートの入った一口まんじゅうを二個、口に入れると、もごもごとお礼を言って、また客の応対に戻っていった。支払いを頼む客が多くなり、店はようやく忙しさの峠を越えたようだ。
最後の客が消えるまで、時野は洗い物をしながら、精算の求めに応じた。最後の客が席を立つ頃、何故か厨房から、炒った胡麻の香ばしい香りと、ふきのとうの苦く清冽な香りがしてきた。客は怪訝に思いつつも、食欲を刺激され、足早に夕食を予約した次の店へと去っていった。
「あーあ忙しかった!藍染隊長、お待たせしました!今年も豆腐田楽の準備をさせて頂きましたよ!」
時野は大きなお盆に、すり胡麻と、ふきのとうを刻んだものを混ぜた、二色の田楽味噌と、水切りをして、竹串を打った木綿豆腐を、山のように持ってきた。冷やご飯をつぶして作った五平餅もあった。
「毎年すまないね。」
「いいんですよ!毎年百万環も頂戴して、日頃もご贔屓にして頂いているんですから。これくらい当たり前です!」
豆腐は藍染の好物だ。
それは店のメニューではなく、時野の手料理で、客の中では藍染しか口に出来ないものだった。