アンティークカフェ〜バレンタインデー2024〜
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しんしんと冷える真冬の曇天の夕暮れ時を、桃色の空気が染める。
今日はバレンタインデー。現世の風習が、いつの間にか尸魂界に馴染んで久しい。
藍染は暗くなった街を、雨雲のような灰色の外套の大きな襟に顔を埋めてこっそりと足早に進み、とある喫茶店の裏口の木戸をくぐった。死覇装と隊長羽織を隠して進むその背中は、実際には広いというのに、心なしか今日は細く見えた。
その背が店の中に入った瞬間に伸びた。
中はいくつもの火鉢の炭火で温められた空気が足元から頭まで充ちていて、藍染の体と心を緩ませた。何故毎年こんな思いをしなければならない、という理不尽さへの不満が、一気に氷解していくようだった。
毎年のバレンタインデーには、男性の独り身の隊長、副隊長、席官には、贈り物を携えた山のような数の女性が群がる。隊務終業の時間から、隊舎を出られない程の思いの押し売りに遭うのだ。藍染は毎年隊務を早めに切り上げて、ある場所へと逃げた。本当に好意を向けられているのか、お返しをあてにされているのか、はたまた温かい懐をあてにされて伴侶の座を狙われているのか、もう藍染はどうでも良かった。とにかく温厚さを偽っているのが苦痛で仕方なくなり、気疲れがして、珍しく短気を起こして、本当は霊圧で全てを吹き飛ばしたい衝動に駆られた。
「モテている」なんて嘘だ。
何とも粘着質な、かつ尻軽な甘さに、本当は皆辟易しているだろう。そう考えると、逃げ場所のある自分はまだ運が良い方だ、と思う。
裏木戸が開いた音に、娘は気付いたようだ。
「あら藍染隊長!お早いお着きで。今豆腐の水切りが終わったところですの。今日もごゆっくりしていって下さいな!」
年若い女は如才無く言うと、履物を預かり、藍染に分厚いふかふかの布草履を出してくれた。
「毎年申し訳ないね。今年もお世話になるよ。」
「こちらこそ!さ、奥の間へどうぞ!」
娘は裏表の無い笑顔で藍染を招き入れた。うるさく余計なことを言わないのが好ましい。
ここはこじんまりとした骨董喫茶。高いお代を出さないと借り切ることの出来ない絢爛な奥の間には、この日のために王羲之と顧愷之の軸が掛けられていた。
今日はバレンタインデー。現世の風習が、いつの間にか尸魂界に馴染んで久しい。
藍染は暗くなった街を、雨雲のような灰色の外套の大きな襟に顔を埋めてこっそりと足早に進み、とある喫茶店の裏口の木戸をくぐった。死覇装と隊長羽織を隠して進むその背中は、実際には広いというのに、心なしか今日は細く見えた。
その背が店の中に入った瞬間に伸びた。
中はいくつもの火鉢の炭火で温められた空気が足元から頭まで充ちていて、藍染の体と心を緩ませた。何故毎年こんな思いをしなければならない、という理不尽さへの不満が、一気に氷解していくようだった。
毎年のバレンタインデーには、男性の独り身の隊長、副隊長、席官には、贈り物を携えた山のような数の女性が群がる。隊務終業の時間から、隊舎を出られない程の思いの押し売りに遭うのだ。藍染は毎年隊務を早めに切り上げて、ある場所へと逃げた。本当に好意を向けられているのか、お返しをあてにされているのか、はたまた温かい懐をあてにされて伴侶の座を狙われているのか、もう藍染はどうでも良かった。とにかく温厚さを偽っているのが苦痛で仕方なくなり、気疲れがして、珍しく短気を起こして、本当は霊圧で全てを吹き飛ばしたい衝動に駆られた。
「モテている」なんて嘘だ。
何とも粘着質な、かつ尻軽な甘さに、本当は皆辟易しているだろう。そう考えると、逃げ場所のある自分はまだ運が良い方だ、と思う。
裏木戸が開いた音に、娘は気付いたようだ。
「あら藍染隊長!お早いお着きで。今豆腐の水切りが終わったところですの。今日もごゆっくりしていって下さいな!」
年若い女は如才無く言うと、履物を預かり、藍染に分厚いふかふかの布草履を出してくれた。
「毎年申し訳ないね。今年もお世話になるよ。」
「こちらこそ!さ、奥の間へどうぞ!」
娘は裏表の無い笑顔で藍染を招き入れた。うるさく余計なことを言わないのが好ましい。
ここはこじんまりとした骨董喫茶。高いお代を出さないと借り切ることの出来ない絢爛な奥の間には、この日のために王羲之と顧愷之の軸が掛けられていた。
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