その日の夕食の席で、藍染は、食堂に集まった者全てに向けて、
「今日という日に、皇妃から愛情あふれる贈り物を受け取ったので、その返礼として、自宮に厨房を与えることにした。その普請で皆に迷惑をかけるかもしれないが、承知していて欲しい。」
と、威圧的な態度で申し渡した。女官達は顔色を無くした。自分達のしたことへの返礼は、せいぜい品物が返ってくる程度であろう。あわよくば愛が返ってきたとしてしても、自宮に厨房を与える程の豪勢な寵愛は返ってきはしない、と、驚きと共に敗北感に打ちのめされたのである。藍染は小夜子の耳元に唇を寄せると、
「厨房が完成したら、あの日ように、また私のためにホットチョコレートを作っておくれ。毎日でもいい。でもそうしたら精がついて精がついて仕方なくて、毎晩君を寵さないと足りないかもしれない…嗚呼、小夜子、愛している…。」
と、内緒話の体を取りながら、わざと皆に聞こえるように言った。そして艶のある、しかし凄みのある眼光で一堂をひと睨みすると、小夜子の耳の弱いところをわざと指でなぞった。小夜子はあっと小さく声を上げて、思わず恍惚の表情を浮かべた。閨房のことを想像させられた女官達は、とても太刀打ち出来ないとようやく悟り、青菜に塩を振ったようになった。
（うわあ、やり過ぎですよ、藍染様!!）
スタークが口を開けていると、リリネットが、
「今小夜子様のこと見て、いやらしい想像したでしょ?!スタークのエッチ!!」
と言ってスタークのスネを蹴った。
「痛えなあ。」
と言ったものの、スタークはそれ以上は何も言わず、
「腹いっぱい食わしてもらえよ。」
と小さく言った。リリネットはスタークが持ってきた菓子には手を付けず、腹を空かせているらしかった。
「今晩は…スタークはお出掛け?」
リリネットは遠慮がちに聞いた。リリネットはリリネットなりに、スタークに気を遣っているのだ。
「バーカ、ガキが変な勘ぐりすんじゃねえよ。飯食ったら酒飲んで寝るんだよ!それ以外に何かあるのか?」
スタークはリリネットに真剣な顔で言った。
「ない!!」
リリネットは安心して大声を上げた。
「スタークには、これっぽっちも色っぽいことなんて何もない!!」
リリネットはそう言って変顔をした。
「あーあー、お前のそのブサイクなツラ、見飽きたよ!!」
スタークはリリネットのグラスに、ワインの代わりにグレープジュースを注いでやった。
「お互い歯磨きだけは忘れんなよ!」
そう言うと、スタークは食事に手を付け始めた。それを見て、リリネットもガツガツと皿の上のものを片付け始めた。

藍染の元にも、あきらめの悪い女官達から、手作りの菓子が山のように届いていたが、藍染の宮室の女官達が、小夜子に悟られぬようにみな始末してしまった。藍染の元には、藍染と小夜子への連名で届いた、ハリベルからと、小夜子の元女官仲間達からの、高級な紅茶の茶葉の缶だけが捧げられた。それらは薔薇や林檎や苺などの様々な香りがして、小夜子を大層慰めた。