準備〜バレンタインデー2023〜
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藍染が虚夜宮に帰ってきた。いつもならすぐにウルキオラがやって来て出迎えるのだが、今日は門衛しかいない。虚無、を司るウルキオラが、珍しく困惑と苛立ちの霊圧を放っているのが遠くで感じられた。藍染は黙って虚夜宮のホールを進んだ。廊下へと続く境目の大きな柱の陰から、スタークが、いくつもの赤やピンクの包みを抱えて四苦八苦しながら出てきた。
「ああ、これはお見苦しいところをお見せしました。ご無事のお戻りで…。」
そう言って頭を下げたスタークの腕から、バラバラッといくつも包みや小箱が落ちた。藍染は笑ってスタークに近付き、その甘い香りのもの達を拾って、スタークの腕の山の上に戻してやった。
「すみません…。」
スタークは疲労困憊しているようだった。
「今年のバレンタインデーはどうしちまったんですかね…女官に会う度にどんどん包みを渡されて、この有様ですよ…もうなんだか気疲れして…。」
藍染はおかしそうに笑うと、
「で、好みの女はいたかい?」
と茶化した。
「止してくださいよ、こっちはリリネットの子守だけで十分ですよ。それになんだか今日はリリネットの奴が機嫌が悪くて、この菓子食わしたら機嫌が直るかな、と思ってるんですけど、こんなに食わせたら、アイツがブタになっちまいますよね。」
スタークは思案顔だった。それはそうであろう。スタークが誰かを娶れば、リリネットは安心して日々を送れなくなる。リリネットの不安故の苛立ちを分かってやれる女がいないのか、と思うと、虚夜宮も人なしだな、と藍染は思った。
「こんなことが続けば、小夜子様はご自分のせいだと、ご自分をお責めになるんじゃないですかね…俺はコブ付き故の悩みですけど、他の独身の男共が迷惑顔してたら、さすがに皇妃といえど型なしですよ…女達は何考えてるんですかね…。」
スタークは小夜子のことを案じてくれていた。
「小夜子のことは私が必ず守ると約束した。お前は早くリリネットに会いに行って、側にいてやりなさい。」
藍染はスタークに温情を向けると、スタークは頭を下げて歩き出した。
「大丈夫だ。準備をせぬ者に、好機が訪れることはない。」
藍染はスタークの肩に言った。スタークは藍染の方に向き直ると、
「藍染様、後学のために一つ教えて下さい。藍染様は小夜子様にお逢いになる前に、どんな準備をなさってたんですか?」
と真っすぐに問うた。それはいつか、リリネットが良いと言えば、時が来るのだろうか、という迷いへの答えを込めた問いだった。
「いつでも持てるものはこの身ただ一つのみ。己一つを常に磨いていれば、いつその時が来ても迷うことは無い。」
藍染は余裕たっぷりに答えた。スタークは呆れる程、自分は藍染に遠く及ばない、と痛感した。
「それはご立派で…。そりゃあ藍染様が男前なはずだ。」
スタークは苦笑すると、肩をすくませて大荷物を抱えて去って行った。スタークの姿が見えなくなると、ウルキオラがようやく姿を現した。
「藍染様、お出迎えが間に合わず、大変申し訳ございません。」
ウルキオラが深々と下げた頭を上げると、その白い頬と襟元に、口紅が付いていた。
「ウルキオラ、私のことは大丈夫だから、いいから鏡を見て来なさい。」
藍染は呆れて言うと、本当に今日の虚夜宮はどうしたというのだ、と苦笑した。
小夜子はどうしただろうか、と藍染は思い立った。嗚呼、早く会いたい、そう思い自宮に入ると、彼女は所在無げに刺繍をしていた。
「ただいま、小夜子。」
藍染が優しく声をかけると、彼女はあまり元気がなかった。
「お帰りなさいませ、藍染様。今日はバレンタインデーだと申しますのに、皇妃というのは実に不便なものですね…何のご用意も出来ませんでした…。」
そう言って肩を落とした。藍染は小夜子から、彼女がホットチョコレートを作ろうと決死の覚悟で厨房に向かったというのに、厨房は女官達であふれ、市丸に連れ戻された経緯を聞いた。
「なんといじらしいことを…。」
藍染は小夜子を抱き締めると、口付けて、頬を撫でた。
「私の宮室に、窯を作らせよう。そこで君は、好きなだけ料理をすればいい。そうしたらバレンタインデーのみと言わず、毎日私のために、あのオールスパイスの効いたホットチョコレートを作っておくれ。」
藍染は小夜子に微笑みかけた。
「バレンタインデーには君の気持ちを頂くよ。だからホワイトデーには、君に小さな厨房をプレゼントする。君のその気持ちが嬉しい。ありがとう。」
小夜子はしばらく藍染に抱かれていた。この幸せは、他の二人では味わえないものなのだ。彼女は、ありがたさに胸がいっぱいだった。
それは、準備を続けた者だけに注がれる、天与の幸福だ。
「ああ、これはお見苦しいところをお見せしました。ご無事のお戻りで…。」
そう言って頭を下げたスタークの腕から、バラバラッといくつも包みや小箱が落ちた。藍染は笑ってスタークに近付き、その甘い香りのもの達を拾って、スタークの腕の山の上に戻してやった。
「すみません…。」
スタークは疲労困憊しているようだった。
「今年のバレンタインデーはどうしちまったんですかね…女官に会う度にどんどん包みを渡されて、この有様ですよ…もうなんだか気疲れして…。」
藍染はおかしそうに笑うと、
「で、好みの女はいたかい?」
と茶化した。
「止してくださいよ、こっちはリリネットの子守だけで十分ですよ。それになんだか今日はリリネットの奴が機嫌が悪くて、この菓子食わしたら機嫌が直るかな、と思ってるんですけど、こんなに食わせたら、アイツがブタになっちまいますよね。」
スタークは思案顔だった。それはそうであろう。スタークが誰かを娶れば、リリネットは安心して日々を送れなくなる。リリネットの不安故の苛立ちを分かってやれる女がいないのか、と思うと、虚夜宮も人なしだな、と藍染は思った。
「こんなことが続けば、小夜子様はご自分のせいだと、ご自分をお責めになるんじゃないですかね…俺はコブ付き故の悩みですけど、他の独身の男共が迷惑顔してたら、さすがに皇妃といえど型なしですよ…女達は何考えてるんですかね…。」
スタークは小夜子のことを案じてくれていた。
「小夜子のことは私が必ず守ると約束した。お前は早くリリネットに会いに行って、側にいてやりなさい。」
藍染はスタークに温情を向けると、スタークは頭を下げて歩き出した。
「大丈夫だ。準備をせぬ者に、好機が訪れることはない。」
藍染はスタークの肩に言った。スタークは藍染の方に向き直ると、
「藍染様、後学のために一つ教えて下さい。藍染様は小夜子様にお逢いになる前に、どんな準備をなさってたんですか?」
と真っすぐに問うた。それはいつか、リリネットが良いと言えば、時が来るのだろうか、という迷いへの答えを込めた問いだった。
「いつでも持てるものはこの身ただ一つのみ。己一つを常に磨いていれば、いつその時が来ても迷うことは無い。」
藍染は余裕たっぷりに答えた。スタークは呆れる程、自分は藍染に遠く及ばない、と痛感した。
「それはご立派で…。そりゃあ藍染様が男前なはずだ。」
スタークは苦笑すると、肩をすくませて大荷物を抱えて去って行った。スタークの姿が見えなくなると、ウルキオラがようやく姿を現した。
「藍染様、お出迎えが間に合わず、大変申し訳ございません。」
ウルキオラが深々と下げた頭を上げると、その白い頬と襟元に、口紅が付いていた。
「ウルキオラ、私のことは大丈夫だから、いいから鏡を見て来なさい。」
藍染は呆れて言うと、本当に今日の虚夜宮はどうしたというのだ、と苦笑した。
小夜子はどうしただろうか、と藍染は思い立った。嗚呼、早く会いたい、そう思い自宮に入ると、彼女は所在無げに刺繍をしていた。
「ただいま、小夜子。」
藍染が優しく声をかけると、彼女はあまり元気がなかった。
「お帰りなさいませ、藍染様。今日はバレンタインデーだと申しますのに、皇妃というのは実に不便なものですね…何のご用意も出来ませんでした…。」
そう言って肩を落とした。藍染は小夜子から、彼女がホットチョコレートを作ろうと決死の覚悟で厨房に向かったというのに、厨房は女官達であふれ、市丸に連れ戻された経緯を聞いた。
「なんといじらしいことを…。」
藍染は小夜子を抱き締めると、口付けて、頬を撫でた。
「私の宮室に、窯を作らせよう。そこで君は、好きなだけ料理をすればいい。そうしたらバレンタインデーのみと言わず、毎日私のために、あのオールスパイスの効いたホットチョコレートを作っておくれ。」
藍染は小夜子に微笑みかけた。
「バレンタインデーには君の気持ちを頂くよ。だからホワイトデーには、君に小さな厨房をプレゼントする。君のその気持ちが嬉しい。ありがとう。」
小夜子はしばらく藍染に抱かれていた。この幸せは、他の二人では味わえないものなのだ。彼女は、ありがたさに胸がいっぱいだった。
それは、準備を続けた者だけに注がれる、天与の幸福だ。