準備〜バレンタインデー2023〜
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藍染と小夜子の蜜月は終わらない。藍染は、幽体を飛ばして尸魂界での隊長職を務めることにどうしても無理がある時だけ、虚夜宮を離れた。小夜子と離れなければならない時、藍染の寵愛は強くなる。小夜子は藍染の心を本当に捉えたのである。
ある晩冬の日、藍染が虚夜宮を離れていた。小夜子は寂しく思いながらも、お妃教育に励んでいた。あれから虚夜宮を一人歩きすることが許されず、小夜子は親しかった女官仲間と話せずにいた。しかし時折、昔の仲間が厨房から運ばれてくるお茶菓子に隠して、隠し文を忍ばせてくれた。女官達の小夜子への怨嗟の声は凄まじく、彼女が藍染の宮室の女官達にいじめられていないかと心配している、と何度も書いてあった。幸い藍染の宮室の女官達は精神的に自制が利いた高潔な女ばかりで、小夜子の方が、藍染を慕う気持ち以外、何一つ勝っていないというのに、下にも置かぬ扱いをしてくれた。最近ではお互い時折冗談交じりになることもあり、小夜子は藍染の宮室に住まうことに安心感すら抱いていた。そのことをサッと懐紙に記すと、カップの下に飾り折りにしてはさみ、その隠し文が仲間の元に無事届くことを祈る日々だった。昔の仲間とて女官なのである。気が利くことにかけては一級だろう。小夜子は、きっと気付いてくれる、と信じる毎日だった。立派な皇妃となって恨みの声をかき消すことだけが、仲間への恩義だ、と、小夜子は本気で努力をした。
藍染が虚夜宮に帰ってくる日は、現世でいうバレンタインデーの日だった。小夜子は藍染のために、今日だけはどうしてもホットチョコレートを作りたかった。しかし彼女の一挙手一投足は、藍染の宮室の女官達に見張られていて、厨房へ入りたい、などと口にしたら、必ず止められる、と思っていた。小夜子は宮室の入口まで忍んで進むと、思い切ってこっそり宮室を抜け出した。豪奢なドレスは邪魔でしかなく、それでも彼女はこっそりと厨房へとたどり着いた。
厨房の入口まで来て、お門違いな格好をした自分が恥ずかしくなり、そっと中をのぞくと、厨房は女官達であふれかえっていた。料理人達が渋い顔で邪魔そうにしている。何事か、と思うと、
「うわあ、みんなようやるわ。」
と、耳元で市丸の声がした。ギョッとして振り向くと、
「皇妃様、お部屋にお帰り。」
と、市丸がニイッと笑った。
「もう此処は、君の来るところやない。当たりくじをもぎ取ったんは自分の力なんやから、もぎ取り損ねたもんのことなんか気にせんでええ。」
と、彼は冷たく、しかし明るい口調で言った。
「あん人ら、何しとると思う?バレンタインデーのお菓子作っとるんや。藍染隊長に袖にされたいうんに、何を考えとるんやろ。」
市丸は鼻で笑った。
「それは…市丸様や、他の男性にお贈りするためにお作りしているのだと思いますが…?」
小夜子のその言葉に、市丸は笑顔を張り付かせたまま、嫌な顔をした。
「尸魂界におっても、虚圏におっても、どこにおっても逃げられへんのやな…。」
市丸の白くて綺麗な喉が、嫌そうにひくりと動いた。
「まあええわ、君を送り届けんと、任務完了にならへん。戻るよ。」
市丸は小夜子の肩を叩いた。部屋に戻りながら、二人は初めてこんなに話をした、という程話をした。
「なあ、藍染隊長の何がそんなに良かったん?顔?それともあっちの方?」
市丸はまったく小夜子にへりくだらなかった。小夜子は顔を赤くして、
「時折度が過ぎるお茶目な意地悪をなさる以外、何の非の打ち所も無いお方かと…。」
と言い、恥ずかしそうにうつむいた。
「それや、意地悪が度を超しとる。」
市丸は少し硬い声で吐き捨てた。
「ほんの意地悪で、他人も傷付けるし、人も殺す。まあ、君には優しいみたいやけど。」
市丸はずっと横顔しか見せなかったが、初めて小夜子に真正面から向き合うと
「藍染隊長には気ぃつけえよ。あんな怖い人おらんて。君、お気の毒やな。」
と、困り顔で言った。小夜子は知っていた。藍染派として虚夜宮にまでついてきたのである。罪人王の妻になる覚悟は出来ていた。
「ありがとうございます。」
彼女は市丸が心配してくれたことに感謝した。だからといって恋する気持ちを止めることなど出来ないのである。
そんなこんなしているうちに、二人は藍染の宮室の前にたどり着いた。宮室の女官達が、心配顔で小夜子を待っていた。
「小夜子様、困ります!黙って宮室をお出になるなど!」
宮室の女官長が小夜子を叱った。
「申し訳ございません。今日はバレンタインデーです。お帰りになられる藍染様のために、昔のようにホットチョコレートをお作りしてお待ちしたくて…。」
と言い小夜子はドレスの裾を握った。
「何とまあお可愛らしいことを…。」
女官長が呆れたように笑うと、他の女官達も笑った。
「それじゃあボクはこれで。今度からこういう仕事はウルキオラにやらせてな。」
市丸はそう言い残すと、手をヒラヒラと振って去っていった。なんや、当たりくじを引いたんは、存外藍染隊長の方かもしれへん、市丸は小夜子の可憐さに思いを致した。こんなにツキ続けて、いつか足元すくったる、そん時は、ボクはあの娘を不幸にするんやな、と市丸は罪悪感を感じた。
準備をいつでも怠らない者だけが、望むものをつかめる。
それが誰かの不幸につながっても、生きるなんてそんなものだ。
市丸は己に言い聞かせ直したが、さすがに小夜子と話をして、その人柄を知って気が滅入った。
市丸は自宮に籠もろうとしたが、すでに入口の前には黄色い声の若い女官達が、甘い香りのする包みを持ってわんさと集まっていた。市丸はため息をつくと、形ばかり、礼を言った。
ある晩冬の日、藍染が虚夜宮を離れていた。小夜子は寂しく思いながらも、お妃教育に励んでいた。あれから虚夜宮を一人歩きすることが許されず、小夜子は親しかった女官仲間と話せずにいた。しかし時折、昔の仲間が厨房から運ばれてくるお茶菓子に隠して、隠し文を忍ばせてくれた。女官達の小夜子への怨嗟の声は凄まじく、彼女が藍染の宮室の女官達にいじめられていないかと心配している、と何度も書いてあった。幸い藍染の宮室の女官達は精神的に自制が利いた高潔な女ばかりで、小夜子の方が、藍染を慕う気持ち以外、何一つ勝っていないというのに、下にも置かぬ扱いをしてくれた。最近ではお互い時折冗談交じりになることもあり、小夜子は藍染の宮室に住まうことに安心感すら抱いていた。そのことをサッと懐紙に記すと、カップの下に飾り折りにしてはさみ、その隠し文が仲間の元に無事届くことを祈る日々だった。昔の仲間とて女官なのである。気が利くことにかけては一級だろう。小夜子は、きっと気付いてくれる、と信じる毎日だった。立派な皇妃となって恨みの声をかき消すことだけが、仲間への恩義だ、と、小夜子は本気で努力をした。
藍染が虚夜宮に帰ってくる日は、現世でいうバレンタインデーの日だった。小夜子は藍染のために、今日だけはどうしてもホットチョコレートを作りたかった。しかし彼女の一挙手一投足は、藍染の宮室の女官達に見張られていて、厨房へ入りたい、などと口にしたら、必ず止められる、と思っていた。小夜子は宮室の入口まで忍んで進むと、思い切ってこっそり宮室を抜け出した。豪奢なドレスは邪魔でしかなく、それでも彼女はこっそりと厨房へとたどり着いた。
厨房の入口まで来て、お門違いな格好をした自分が恥ずかしくなり、そっと中をのぞくと、厨房は女官達であふれかえっていた。料理人達が渋い顔で邪魔そうにしている。何事か、と思うと、
「うわあ、みんなようやるわ。」
と、耳元で市丸の声がした。ギョッとして振り向くと、
「皇妃様、お部屋にお帰り。」
と、市丸がニイッと笑った。
「もう此処は、君の来るところやない。当たりくじをもぎ取ったんは自分の力なんやから、もぎ取り損ねたもんのことなんか気にせんでええ。」
と、彼は冷たく、しかし明るい口調で言った。
「あん人ら、何しとると思う?バレンタインデーのお菓子作っとるんや。藍染隊長に袖にされたいうんに、何を考えとるんやろ。」
市丸は鼻で笑った。
「それは…市丸様や、他の男性にお贈りするためにお作りしているのだと思いますが…?」
小夜子のその言葉に、市丸は笑顔を張り付かせたまま、嫌な顔をした。
「尸魂界におっても、虚圏におっても、どこにおっても逃げられへんのやな…。」
市丸の白くて綺麗な喉が、嫌そうにひくりと動いた。
「まあええわ、君を送り届けんと、任務完了にならへん。戻るよ。」
市丸は小夜子の肩を叩いた。部屋に戻りながら、二人は初めてこんなに話をした、という程話をした。
「なあ、藍染隊長の何がそんなに良かったん?顔?それともあっちの方?」
市丸はまったく小夜子にへりくだらなかった。小夜子は顔を赤くして、
「時折度が過ぎるお茶目な意地悪をなさる以外、何の非の打ち所も無いお方かと…。」
と言い、恥ずかしそうにうつむいた。
「それや、意地悪が度を超しとる。」
市丸は少し硬い声で吐き捨てた。
「ほんの意地悪で、他人も傷付けるし、人も殺す。まあ、君には優しいみたいやけど。」
市丸はずっと横顔しか見せなかったが、初めて小夜子に真正面から向き合うと
「藍染隊長には気ぃつけえよ。あんな怖い人おらんて。君、お気の毒やな。」
と、困り顔で言った。小夜子は知っていた。藍染派として虚夜宮にまでついてきたのである。罪人王の妻になる覚悟は出来ていた。
「ありがとうございます。」
彼女は市丸が心配してくれたことに感謝した。だからといって恋する気持ちを止めることなど出来ないのである。
そんなこんなしているうちに、二人は藍染の宮室の前にたどり着いた。宮室の女官達が、心配顔で小夜子を待っていた。
「小夜子様、困ります!黙って宮室をお出になるなど!」
宮室の女官長が小夜子を叱った。
「申し訳ございません。今日はバレンタインデーです。お帰りになられる藍染様のために、昔のようにホットチョコレートをお作りしてお待ちしたくて…。」
と言い小夜子はドレスの裾を握った。
「何とまあお可愛らしいことを…。」
女官長が呆れたように笑うと、他の女官達も笑った。
「それじゃあボクはこれで。今度からこういう仕事はウルキオラにやらせてな。」
市丸はそう言い残すと、手をヒラヒラと振って去っていった。なんや、当たりくじを引いたんは、存外藍染隊長の方かもしれへん、市丸は小夜子の可憐さに思いを致した。こんなにツキ続けて、いつか足元すくったる、そん時は、ボクはあの娘を不幸にするんやな、と市丸は罪悪感を感じた。
準備をいつでも怠らない者だけが、望むものをつかめる。
それが誰かの不幸につながっても、生きるなんてそんなものだ。
市丸は己に言い聞かせ直したが、さすがに小夜子と話をして、その人柄を知って気が滅入った。
市丸は自宮に籠もろうとしたが、すでに入口の前には黄色い声の若い女官達が、甘い香りのする包みを持ってわんさと集まっていた。市丸はため息をつくと、形ばかり、礼を言った。