血判〜藍染様お誕生日記念2022〜
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
五月のある晴れた日、初夏の汗ばむような日射しの中、藍染は紗希と並んで歩いていた。藍染の誕生日は予定が詰まっており、二人きりで祝うのは当日では無理である。そこで二人は早めの祝いを共にするため、お互い非番の日に食事でもしよう、と隊舎を共に後にしたのである。
紗希という女は、五番隊の席官の端にいる者で、藍染の見せかけの人柄である『温厚』、をもって知られる五番隊の気風を受け継いでいるといって良い。鋭さがないわけではないが、穏やかさを被っている、まあその点では底が知れているとはいえ、藍染と似た者同士だろう。
藍染と紗希は深い仲になって長い。ただお互いに馴れ合うことを嫌っているため、隠しているわけでもないのに、隊内ですら噂になったことがない。いまだに他の女性隊士達が藍染を慕っていることからも分かるように、何の翳りもない清潔さの上にいるように周囲には見えていた。一ノ瀬は藍染隊長と仲が良い、位には言われていても、二人はそれがどうした、という顔でいる。だから今日、こうして午後からの非番を食事でも共にしながら時間を潰そう、と藍染が紗希に言っているのを見かけても、誰も何をも怪しむ者はいない。他の席官とも藍染は時間を共にしている、だからきっと何もない、そう周囲は思っていた。
紗希は藍染の謀略を知らない。藍染は彼女を虚圏に連れていかない、と決めていた。手を付けていながら罪な話、とは藍染は思わなかった。連れていく方が罪である、と考えていた。藍染は、決して無策でも非情の人でもなかった。
大通りを抜け、世間話をしながら、二人は閑静な料亭街に入っていた。ここからは密談が出来る。藍染は自分の恋人を紗希と呼び、紗希は藍染を惣右介さん、と呼んだ。今日は惣右介さんの誕生日だから、私がお代をお払いするわ、と紗希は笑った。藍染は女に財布を出させるのを嫌ったが、帰りに何かお返しになるものでも買ってやろう、とこの場は紗希にまかせることにした。
行く店は決まっていた。藍染の好きな豆腐懐石を出す店に行こう、という話になっていた。日陰を歩きながら、藍染は、ギンに隊を任せてくる日は心配だ、と苦笑した。市丸は副隊長だが、全く主権を握っている、という自覚がなく、藍染の休暇後の五番隊はいつも滅茶苦茶だった。市丸は無能の人ではない。わざと仕事をせず、飄々と力量を隠しているのである。ギンは、と藍染はいくつかの短所を持ち出して、市丸についてぼやいた。紗希は黙って笑っていた。藍染は彼女が苦笑しているだろう、と思っていたが、ただ笑っているだけで、同意していないようだった。藍染は何気なく立ち止まった。紗希は少し歩を進めると、藍染の前に回り込み、向き合って立ち止まった。
市丸副隊長は、しっかりしてると思うけど、と紗希は言い、藍染の目を見つめた。その目は鋭く爛々と輝いており、藍染は何事かあったことを悟った。
私、市丸副隊長から、長い長い恋文をもらったの、そう言って紗希は口の端を上げて笑った。藍染はぎょっとした。彼女は懐から、厚い巻紙を取り出し、藍染に渡した。見ても良いものかどうか、というより、見ろ、ということなのだろう。藍染はその巻紙を広げた。そこには藍染の謀略の仔細と、渡した物品の目録が記してあった。現世で使えるスマートフォンという伝令神機、現世の東京、という街にあるマンションの鍵、当座の生活費、現世の紙幣で三百万円、クレジットカードという信用手形、等々、その詳細は多岐にわたり、最後に、とにかく逃げて下さい、とあった。
ギンは紗希を助けるつもりでいたのか、と足元に打ち水をかけられたような気がした。巻紙の最後の端から、紙切れがひらりと落ちた。拾い上げると、わざと無効になるように墨で汚した、現世の紙幣の小切手であった。
私は囲われないわ、と紗希は軽々と笑った。市丸は紗希を囲うつもりでいたわけなどではない、それは誰にだって分かる。何故彼女は藍染達の企みを黙っているのか、藍染は紗希の心を読もうとした。
二人の間に硬い空気が生まれた。そこへ白い蝶が、ふわりと飛んできた。
紗希という女は、五番隊の席官の端にいる者で、藍染の見せかけの人柄である『温厚』、をもって知られる五番隊の気風を受け継いでいるといって良い。鋭さがないわけではないが、穏やかさを被っている、まあその点では底が知れているとはいえ、藍染と似た者同士だろう。
藍染と紗希は深い仲になって長い。ただお互いに馴れ合うことを嫌っているため、隠しているわけでもないのに、隊内ですら噂になったことがない。いまだに他の女性隊士達が藍染を慕っていることからも分かるように、何の翳りもない清潔さの上にいるように周囲には見えていた。一ノ瀬は藍染隊長と仲が良い、位には言われていても、二人はそれがどうした、という顔でいる。だから今日、こうして午後からの非番を食事でも共にしながら時間を潰そう、と藍染が紗希に言っているのを見かけても、誰も何をも怪しむ者はいない。他の席官とも藍染は時間を共にしている、だからきっと何もない、そう周囲は思っていた。
紗希は藍染の謀略を知らない。藍染は彼女を虚圏に連れていかない、と決めていた。手を付けていながら罪な話、とは藍染は思わなかった。連れていく方が罪である、と考えていた。藍染は、決して無策でも非情の人でもなかった。
大通りを抜け、世間話をしながら、二人は閑静な料亭街に入っていた。ここからは密談が出来る。藍染は自分の恋人を紗希と呼び、紗希は藍染を惣右介さん、と呼んだ。今日は惣右介さんの誕生日だから、私がお代をお払いするわ、と紗希は笑った。藍染は女に財布を出させるのを嫌ったが、帰りに何かお返しになるものでも買ってやろう、とこの場は紗希にまかせることにした。
行く店は決まっていた。藍染の好きな豆腐懐石を出す店に行こう、という話になっていた。日陰を歩きながら、藍染は、ギンに隊を任せてくる日は心配だ、と苦笑した。市丸は副隊長だが、全く主権を握っている、という自覚がなく、藍染の休暇後の五番隊はいつも滅茶苦茶だった。市丸は無能の人ではない。わざと仕事をせず、飄々と力量を隠しているのである。ギンは、と藍染はいくつかの短所を持ち出して、市丸についてぼやいた。紗希は黙って笑っていた。藍染は彼女が苦笑しているだろう、と思っていたが、ただ笑っているだけで、同意していないようだった。藍染は何気なく立ち止まった。紗希は少し歩を進めると、藍染の前に回り込み、向き合って立ち止まった。
市丸副隊長は、しっかりしてると思うけど、と紗希は言い、藍染の目を見つめた。その目は鋭く爛々と輝いており、藍染は何事かあったことを悟った。
私、市丸副隊長から、長い長い恋文をもらったの、そう言って紗希は口の端を上げて笑った。藍染はぎょっとした。彼女は懐から、厚い巻紙を取り出し、藍染に渡した。見ても良いものかどうか、というより、見ろ、ということなのだろう。藍染はその巻紙を広げた。そこには藍染の謀略の仔細と、渡した物品の目録が記してあった。現世で使えるスマートフォンという伝令神機、現世の東京、という街にあるマンションの鍵、当座の生活費、現世の紙幣で三百万円、クレジットカードという信用手形、等々、その詳細は多岐にわたり、最後に、とにかく逃げて下さい、とあった。
ギンは紗希を助けるつもりでいたのか、と足元に打ち水をかけられたような気がした。巻紙の最後の端から、紙切れがひらりと落ちた。拾い上げると、わざと無効になるように墨で汚した、現世の紙幣の小切手であった。
私は囲われないわ、と紗希は軽々と笑った。市丸は紗希を囲うつもりでいたわけなどではない、それは誰にだって分かる。何故彼女は藍染達の企みを黙っているのか、藍染は紗希の心を読もうとした。
二人の間に硬い空気が生まれた。そこへ白い蝶が、ふわりと飛んできた。
1/4ページ