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恋の病




僕は知ってる。
彼が1番に想う人は、ハンだってことも
1番に笑顔を向けるのも、
悩み事を相談するのも、

僕には向けない笑顔を見せることも、


全部全部、知ってる。




もちろん、メンバー皆に優しいのは分かっている



けど、ハンに向けているその笑顔だけは


きっと僕は、向けられないんだろう。









そんな事を、モヤモヤと考えていた。
ソファーに座って本を読みながらだというのに、内容は全く頭に入っていない。



「...おい、スンミナ」



その声にハッとする。
急に現実世界に戻された気分で、声の方に顔を向ければそこには彼がいた。
いつ帰ってきたのか、向かい側のソファーに身体を沈めるようにもたれかかっている。
よく見ればいつもとは雰囲気の違う彼と、ふんわりと香るお酒のにおい。
頬は少しだけ赤くなり、目も今にも閉じそうなくらいトロンとしている。



「ぇ......な、何どうしたのヒョン」
「ん〜...ちょっと...呑んだ」



あぁ。番組の収録で呑んだのか。
でもどうしろというのだ。
こんなにベロンベロンになった彼をどう介抱していいのか分からなかった。
いつにも増して甘えたような彼の姿に現実的じゃなくて笑ってしまう。



「ぷ、...ははっ、」
「何笑ってんだよぉ...」
「いや、なんか...可笑しくって」


ぶつぶつと言う彼を無視して、冷蔵庫から冷えた水を渡せばそれをごくごくと飲み始める。
随分と喉が渇いていたんだな、と見ているとなんともまぁ魅力的ではないか。

火照った顔に、水を飲む度に動く喉。
口の端から少し溢れる滴る水。
シャツの襟は少し緩めて、そこから見える彼の肌に釘付けになる。


この人は無意識に僕を誘惑するんだ。



「...そんなに俺のこと見て、穴開くんだけど」
「えっ、...あ、いやごめん」


慌てて目を逸らせばケラケラと笑う彼。
あぁ。なんて可愛いんだろう。
どうして僕を気にかけてくれないんだろう。
こんなに想っているのに、気付いてくれないんだろう。




「...ちゃんと着替えて寝てよね」
「おーう、分かってる...スンミナおんぶ」



部屋に運べという事だろうか。
僕は多分、彼を背負う事は出来ないからせめて肩を貸すだけにしよう。




「ちょ、っ...と、ちゃんと歩いて...っ」
「上手く歩けない...無理〜」


明らか力を抜いてる事が分かり、少しイラッとする。



「何がっ...歩けない、だ...よ!!こん、の酔っ払いが!!!」


ぜぇはぁしながらやっとの思いで着いた彼の部屋に入れば、すぐにベッドに放り投げようとしたが力を抜いた瞬間に服を捕まれそのまま彼においかぶさってしまった。



「ちょ、待っ」



彼が僕を抱きしめるように掴むから身動きが取れない。
漫画とかアニメによくあるラッキースケベ、なんてあるわけないとか思ってたけど今だけは信じれる気がする。
だってまさに今、そういう状況。



(近い...ってば...)




「ん〜...スンミナァ〜...」
「ヒョ、...ヒョンちょっと飲み過ぎ...」
「あ〜...お前が俺をいじめる〜...」


あーだこーだとべらべら喋るもんだからその口を塞いでしまおうかと思った。
力任せに抱きしめられ、諦めてそのまま彼の胸に突っ伏してしまう。

正直、悪くは無い。
むしろ嬉しかった。

こんな状態とはいえ、すごく近く感じる彼の心臓の音と体温。
それと微かな香水と、彼自身の匂い。
甘ったるくて、麻痺してしまいそうだ。


「......リノヒョン、」
「ん〜...」
「僕ね、...その...ヒョンの事がさ...」
「ぅ、ん〜...」
「ほっとけない、っていうか...なんていうか...」
「............」
「その...ほっとけないっていうのは、...好き...」



心臓の音がゆっくりになって、上からは整ったリズムの寝息が聞こえてくる。



「.........寝た、...の?」
「.........」



はぁ、と深い溜息をこぼして力の抜けた腕から開放される。
薄いタオルケットをかけてあげればすやすやと眠る綺麗な横顔のリノヒョン。



(......きっと覚えてないよ)



彼の横にしゃがんで、キスをする。



唇じゃなくて、頭にだ。


このまま奪ったってどうにもなんない事は、僕が一番分かってるから。

この感情もいつかは、消えてなくなってしまうかもしれない。
もしくは自分から消そうとするかもしれない。



でもその時まで、あなたの事を好きでいたい。
優しくされるたびに好きになるのに。




「...好き、...好きだよ...バカだね僕は」




そう言って、部屋を立ち去った。



丁度入ってきた、ハンに声をかけられる。




「あれ?リノヒョン寝てるの?」
「酔っ払って帰ってきたんだよ...ほんともう最悪だよ...ここまで僕が運んだんだ」
「うぇっ、まじかー...おつかれ」
「ほんとだよ、僕じゃなくてハンが______」



"部屋一緒だったらいいのに"



って言おうとしてやめた。

僕は、リノヒョンと同じ空間にいるからこそ幸せなのかもしれない。



「...ぇ、何...俺が何?」
「...運ぶべきだったよ!!」
「いやそれは無理っしょ、リノヒョンが酔っ払った時とかもう手に負えないじゃん...無理、無理無理」


頭をぶんぶん横に振って、断固拒否の態勢。



「リノヒョン寝てるならいいや、また明日にでもこっち来るわ...んじゃおやすみ〜」



そう言ってハンは部屋を出ていく。




「...はぁ...ほんとにもう...疲れる...」


どさっとソファーに座って、先程まで読んでいた本の続きを見る。



(......僕、なんてことしたんだろ...)



今になって、ぶわっと顔が熱くなる。
恥ずかしくて死にそうだ。

でもきっと、寝てたし覚えてないだろうと落ち着こうとするが心臓が口から出そうになる。



「もう、...僕も寝ないと...寝て落ち着こう...今日した事は忘れる...事なんて出来るわけない...」



本を閉じて、ゆっくりと目を閉じる。



(好きになるって、辛いな...)



僕はこの先も、あなたに振り回されてまた好きになってでもきっと諦めないといけないんだろう。

だって、好きなのは僕じゃなくてハンだから。



この気持ちが叶わなくても、僕はずっとあなたの事を想ってるよ。
死ぬまでこの気持ちは、奥底に閉まっておく。

自然死して、天国に行ったらまた僕の事を
"おい"って愛称で呼んで欲しい。
その時にはきっと、本当はずっと好きだったよって告白できる気がするから。



「そういや、...この本なんてタイトルだっけ」






『恋煩い』





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