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Honey&Sugar





なんて甘そうな身体をしてるんだろう。

目線の先には、鼻歌を歌いながらベーキング料理をするひよこみたいな可愛い子。
ふんわりとしたゴールドの髪、すっぴんだからこそ見える目元のそばかす、少し突き出る可愛い唇。


目に入れても痛くないくらい可愛いのだ。

チョコレートチップの甘い香りとお花が飛んでいそうなフィリックスがミックスされるだけで、世界平和が訪れたみたいだ。
一生懸命作っているのを横目に、自分のスマホには集中できずにいた。




「〜♩♬♡」



楽しそうにするフィリックスを見るだけで、自分まで幸せになった気持ちになる。
可愛くて仕方ないのだ。
それと同時に守ってあげたくなる要素も兼ね揃えているので、自分が守らねばという母性本能のような気持ちにもなっていた。



すると、さっきまでの鼻歌は止まり"痛っ"という声が聞こえる。



「...ヨンボガ、どした?」
「あ〜...いや、チョコレート細かくしようとして包丁で指を...」


フィリックスの指に視線を向けると、小さくて綺麗な指からは血が滴っていた。
じんわりと滲む血を見て、思わずそれを自分の口元へ持ってくる。
その行為にぽかんとするフィリックス。

2秒がすごく長く感じたのを覚えている。


恥ずかしがるように手を引っこめるフィリックスと何でそんなことをしたのか急に恥ずかしくなる自分。



「な、...ヒョ、ヒョンジナ?!」
「...ぁ、...ごめん、つい...」


早々に謝ればお互い気まずくなってしまう。
俯いて目線を逸らすフィリックスの目元は見えないが、赤く火照る耳はとても可愛かった。

どうしてこんなに、俺を狂わせるんだろう。


身体が言う事を聞かない。
赤く火照る耳を、触ってしまった。


びくっとしながら振り向いたその顔は、上目遣いでうるっとした瞳、ぱくぱくと慌てる口、それはもう可愛いフィリックスそのものだった。



「耳、...真っ赤だよ」
「ゃ...そ、...それは...触るから、で...」
「触るから何?...触る前から真っ赤だけど」


少しいじめたくなって、エルフのようにとんがっている耳をうにうにと触ってみる。

すると、更に耳を赤くして俺の手を掴んで"待って"と懇願する。



「...ど、...どうしちゃったのさ急に」


ほんと、どうしたんだろうね。
俺はお前に溺れてるよ、相当。

お前の耳も、首も、その唇も。



指も腕も、その足も。


噛み付いたら蜂蜜みたいに甘くて、柔らかくて、いい匂いがするんだろう。



「ヒョンジ、」


俺の名前を呼ぶその口に吸い寄せられるように、自分の唇を充てがう。

んぅ、と漏れるその声さえも愛おしくてさらに欲深くなる。
息を吸い込むため口が開いたのをいい事に、自分の舌をねじ込んだ。


柔らかくてふにゃりとした暖かいフィリックスの舌を絡め取るようにすれば、唾液と言わんばかりの分泌液も一緒に自分の口の中に入ってくる。



ほのかに香るペパーミントと甘く感じる分泌液。



なんて麻薬のような中毒性なんだろうかと、下唇を軽く噛んでやれば鼻から盛れる声。



「ふ、...っ、んぅ」


このまま止まらなければ勢いに任せて最後までしてしまいそうで怖い半分、嬉しさもあった。

力の抜けているフィリックスの腰を支えて、壁に押し付ければ逃走経路を塞ぐ。




「っ...ヨンボガ、...お前、可愛い...」



首元にキスマークを付けようとした時、インターホンが鳴る。
お互い身体がこわばり、バタバタと身なりを整える。



「イ、...インターホン...鳴ったから、出るね」
「...うん」



するりと抜けていくフィリックスを横目に、危なかったと自分に釘を刺す。
心拍数は上がりっぱなしだった。


「ヨンボガ〜、荷物多いから下まで来て」
「分かった、今行く〜」



ピッという機械音と共に画面を切れば、こちらを見ずに"リノヒョンだった"と伝えてきた。
声が聞こえているので言われなくても分かってるとは思いつつも、そっかと返した。


「...じゃ、...じゃあ僕行くね」
「......」


部屋を出ていこうとするフィリックスの手を引っ張って、ぎゅっと抱きしめる。




「待って、...怖がらせてごめん、」
「...ううん、そんな事ないよ」
「お前を目の前にしたら、なんか...自分を抑えられなくって...だからっ...、」



フィリックスの腕が、俺の背中に回る。



「...ヒョンジニがこうやって僕の事を大事にしてくれるのはすごく嬉しいし、ありがたいよ...でもね、僕も...進展が無いままじゃ嫌...、だから」



少し背伸びして、軽く口付けをするフィリックスにまた心拍数が上がった。


ずるい、...ほんとにずるいよお前は。
そうやって俺のことを許すもんだから、そこに漬け込んじゃう悪い男だよ俺は。



「...ほ、ほんとはね...全然、嫌じゃない...むしろ...その......もっと、したかっ...た...とか...え、と...」



どんどん小さくなる声と可愛らしいフィリックスの言葉に自分の耳が赤くなっていくのがわかる。
今にも押し倒してここで犯してしまいそうな気持ちを抑えて、自分の理性と闘う。



「ちょ、待って、...ほんとにそれ以上言われると俺我慢出来なくなるから...でも、...お前が嫌じゃなくて良かった」



自分の欲求を押し殺すかのように、フィリックスを更にぎゅっと抱きしめる。
それに応えるようにフィリックスも嬉しそうにしてくれていた。


すると催促するかのようにインターホンが何回も鳴らされる。



「あ!!リノヒョン、やばい僕行ってくる」
「俺も手伝おうか?」
「え、いいの?」
「もちろん」



俺たちはエレベーターで下まで行くと、遅いと言わんばかりのリノヒョンが仁王立ちしていたので、すぐに謝った。


「ごめんなさい、リノヒョン!」
「ん、いいよ...後でお前らにティッシュ突っ込むから」
「それは勘弁してリノヒョン」
「...てか、何でお前いるの?」



リノヒョンのジトーっとした目がすごい圧で、逸らすことは出来なかった。
何かあったな?とでも言わんばかりの視線に俺たちの関係の事を話さなければならないのか、と冷や汗ものだった。
するとリノヒョンから話題を出す。




「あいつ、すごい嬉しそうにしてるけど何かしたの?」
「...え?」
「顔にすぐ出るから、あの子」
「ぁ...いや、...」


言葉に詰まっていると、一言。



「お前なら大丈夫だよ、」




たまに思う。
リノヒョンの言葉がとても刺さること。
心の内側から、心臓を撫でられたかのようにゾワッとするような暖かい言葉。
まるで見透かされてるかのような言葉に、なんて返事をしたらいいか分からなかった。



「......大事にしてあげて」



その一言で、俺はフィリックスを手放しちゃいけないと改めて思う。
俺とリノヒョンの前を歩く後ろ姿のフィリックスをじっと見つめる。


それに気づいたのか、振り向く。




「ん?、...今呼んだ?」
「ううん、呼んでないよ」



振り向き美人とでも言おうか、キラキラとした笑顔で"そう?"と言ってまた元に戻る。
それに対して無意識に顔に出てしまっているのだろう、リノヒョンに"顔に出すぎ"と注意された。


どうしてリノヒョンが俺たちの関係に気付いたのか分からなかったが、リノヒョンにはそういう能力があるんだろうと納得してしまいそうだ。

"大事にしてあげて"


まるでフィリックスの父親のように振る舞うので思い出し笑いをしてしまう。



「...っぷ、ふ」
「何笑ってんの」
「いやなんでもないです」
「あそう」



そう言うと、リノヒョンが持ってる荷物を俺の持っている荷物の上にどかっと置いてくる。



「ちょ、重い...っ」
「はいそれ持っていって」
「えぇー...」
「文句言わない、持っていく」
「...はぁい...」



とぼとぼ歩くと、後ろから



「今日はハニの部屋に泊まるから、俺」



そう言って早足にハニの部屋に駆けていくリノヒョン。
まるで気を使っているような言い草に笑うしかなかった。ツンデレなのが分かりやすい。

荷物を置くのに部屋に戻ると、2人きりなのを思い出しては落ち着かなかった。


リノヒョンが買い物したであろう食品を冷蔵庫の中に閉まっているフィリックス。
自分も手伝おうと次々に渡していけば、2人で作業している分すぐに終わった。




「っ...と、よし!手伝ってくれてありがとうヒョンジナ」
「大したことないよ」
「...あれ、ところでリノヒョンは?」
「あー...なんかハニに用事があるって言って今日はこっちに戻らないみたい」
「へ、...へぇ〜...そっか」



明らかに動揺したのを見逃さなかった。
一瞬、自分と同じ事を考えたのだろうとすぐに察する。



「......ヒョンジナは、...どうするの?」



誘い文句なのだろうか。
"帰って欲しくない"というのがひしひしと伝わってきている。
いや、勘違いだとしたら恥ずかしい。




「...お前は、...どうしたい?」



そう返せば、フィリックスは少し照れながら"居て欲しい"と言うのでもちろんいることにする。
何かとチョロい自分に笑ってしまう。


「わかった、...今日はこっちに泊まるね」



お前が言うならそれを断る必要も無い、とでも言うような言い方だが実際はめちゃくちゃ嬉しいのを必死に隠していた。

なんだかよく分からない雰囲気の中、フィリックスはクッキーを作っている最中なのを思い出してまた台所に戻っていく。
パタパタと歩く姿は、ひよこみたいで微笑ましい。



「ぁ...これじゃ、もう...ダメかも」


クッキーの生地を見て、がっかりするフィリックス。
覗き込めば確かに時間を置いてしまった為なのか、くてっとしているのが見てわかる。
それでもフィリックスが作ってくれたクッキーならなんでも食べれる、と言えば嬉しそうにするのと同時にもう1回作るよと完璧を求めるのだった。



「それは嬉しいけど、もっかいちゃんとしたの作りたいから」


作業に取り掛かろうとするフィリックスを後ろから抱きしめて、手を止める。


「...手、止めてごめん...でも先に」


「いつそう言ってくれるか待ってたよ、僕」



こちらを振り向いて天真爛漫に、おちゃらけて笑うフィリックス。
フィリックスには到底敵わないなぁと笑みが出る。



「...僕のこと、好き?」
「うん、...すごく、すき」



少し見つめ合って、軽くキスをする。




「今日は僕の部屋にヒョンジンをお招きしたいなって思ってるんだ、...どうかな?」



口元をギュッと結びながら、可愛い目をぱちぱちとさせるもんだからいてもたってもいられない。
断る理由なんて無くて、朝までコースで考えていた。

今すぐにでもシャワーを浴びて風呂場で、なんて事も過ぎったが理性を取り戻して先にフィリックスをシャワーを浴びせに行く。



「勿論、そのつもりだけど?...とりあえず荷物運んで汗かいたし先にシャワー浴びよ」
「うん!!じゃあ僕早めに浴びてくるね」
「ん、ほら行った行った〜」



スキップしながら風呂場に行く後ろ姿を見送って、俺はその場に座り込んだ。




「......可愛すぎる...ずるい」



自分の理性がどこまで保つかは分からないが、今日だけは羽目を外すことになりそうでその場に居ないフィリックスに"ごめんな"と呟く。



砂糖菓子のように、蜂蜜のように甘いお前をどうやって食べるか想像を胸に風呂場から聞こえるフィリックスの鼻歌を聴きながら待つ事にした。







永い夜になりそうな、甘い夢。





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「...あいつ、大丈夫かな」
「ん?何が?なんか心配事?リノヒョン」
「いや、何でもない」
「???」









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