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取り扱い注意


「ハナ、」



突然名前を呼ばれて声がする方を見るとそこにはソファーに座ってどこか上の空のリノヒョン。
俺の事を呼んだのに、俺の事は見てはいない。

何だろう、と思いリノヒョンのそばに行くとぼーっと天井を見つめていた。
ただひたすらに、一点だけを見つめていてリノヒョンは疲れているようにも見える。




「...ヒョ、...ヒョン?...どうしちゃったの」



隣に腰をかけると、ジロリと鋭い目がこちらを射抜く。
かと思えば、おもむろに抱きつかれた。




「どぅえっ、...ちょ、...ヒョン!?」
「............」


困ったものだ。
こういうヒョンには慣れてないのに、俺にどうしろと言うんだ。
ひっつき虫みたいにくっついて、黙り込んでいる。




「......ハナ、...」
「な、...何?」
「俺もう、疲れちゃった」




ぽつりと呟いたその言葉に、何も言えなかった。


いや、普通なら"お疲れ様"や"頑張ってるよ凄いよ"って声を掛けるのがベタなのかもしれないが、だから何だという話だ。
労いの言葉は確かに有り難い事だが、だからといって全てが解決する訳では無い。
むしろ、何が分かるんだと反抗したくなる気持ちも少しはあるだろう。
その気持ちが分かるから、なんて声をかけるのが正解なのか分からなかった。


だから、こういう時のリノヒョンは取り扱いが難しい。



「......リノヒョン」
「んー」
「欲しいものとかないの?」
「ん〜...特に何も無い」



そしてまた振り出しに戻る。
これが出来るのは3回まで。
3回以上すると、めんどくさいからいいとツンとしてしまう。
あと2回でビンゴしなければいけないのだ。



「ぁ...そっか...それじゃあ...」


言いかけたところでリノヒョンが口を動かす。




「欲しいものはお前だよ、ハナ」
「いやあるんじゃん!!...って何、俺?」



驚いて勢いよく振り向くと、先程よりは光のある目で俺をじーっと見る。

怖い、すごく怖い。



「いや、...あの〜...何、俺って」
「は?お前だよ、お前」
「んー、いやだからァ...理由を話して」
「お前が、欲しい...理由になってるだろ」
「理由っつーか、もうなんか...ストレートだわ」



ふざけていれば、途端に笑うリノヒョン。
猫みたいな口でふひぃっと笑うリノヒョンを久々に見た気がして少し嬉しくなった。
別に何かしてあげた訳じゃないけど、"俺"を見て笑うリノヒョンがすごく好きだ。
ニコニコと健気に笑うリノヒョンが、俺にとっても元気になる秘訣でもある。



「あ。...やっと笑った」
「お前見てるとなんか...うん、やっぱ元気でるわ」
「何それ、褒めてるの?」



くすくすと笑いながら、少し談笑する。
作ってみたい料理とか日本に行ったらどこ行きたい、とか色んな話をして元気が出たみたいで良かった。





「さぁて、と...俺そろそろ作業しなきゃいけないから会社行くけど...ヒョンは?」
「シャワー浴びてから収録に行くよ」
「そっか、...んじゃまた夜ね」
「ん」




立ち上がって準備しようとした時、くんっと手首を引っ張られる。


「な、」


振り向くような形でリノヒョンの方を向けば、ふいにリノヒョンの匂いがする。





「ハナ、...ありがと」




リノヒョンの懐に身体が預けられていて、一瞬にしてパニックになる。
抱きしめられている、とでも言おうか。



「リ、リノっ、リノヒョン?!?!」



それも束の間、すぐに解かれてスタスタと背中を向けてシャワーに向かうリノヒョンとあわあわと隠しきれない動揺が顔に出てしまっている俺。

その場に10秒ほど立ち尽くして、歩き方を忘れたかのように手と足が一緒に出てくる。




「......な、何だよ、...ほんとに心臓に悪いな」




耳まで真っ赤になったのが見なくても分かるくらい、身体全体が熱くてドキドキと心拍数が鳴り止まないでいる。


こんなにドキドキしなくったっていいのに。




俺は一生、"彼"を上手く扱うのは出来ないみたいだ。










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