気づいてしまった存在
「ヨンボガ、今日俺ん家に泊まりに来ねぇ?」
久々にチャンビンの家にお泊まりに誘われたフィリックスは大変嬉しいようだ。キラッキラの笑顔で"YES!"と答えるとチャンビンも嬉しそうに支度を始める。
オーストラリア出身で実家がオーストラリアにあるバンチャンとフィリックスは、たまにこうしてチャンビン家にお泊まりに行っている。
このご時世と、多忙で帰られない2人のためにこうして誘ってくれるのだ。
"第2の実家だと思って"とチャンビンとチャンビンの家族はすごく優しく迎え入れてくれて、2人はいつも嬉しそうにしていた。
「んじゃ、早く支度して行くぞ?」
「やった〜!!お泊まり大好き〜!」
早々に支度をすれば、宿舎を出て専用車両でチャンビンの家まで送って貰う。
チャンビンの実家はお金持ちなのでペンションによく遊びに来ては、お泊まりもそのままするのだ。久々の休暇で心身共にやっと休める時間なのだ。
ペンションに着くと、数軒建ち並ぶ中にチャンビン達が泊まる場所があった。
運転手にお礼をして、降ろしてもらうと肩の荷が一気に落ちた。
「いつもありがとう、チャンビニヒョン」
「何言ってんだよ、当たり前だろ家族なんだから」
「ふふっ、そうだね」
チャンビンの腕に自分の腕を組ませて、走っていく。あどけない少年に返ったようなフィリックスを見てチャンビンは嬉しくなった。
実際の所、フィリックスとバンチャンが実家に帰りたいって気持ちはメンバーの誰より思っていることだとチャンビンはそう思っていた。オーストラリアの風を感じ、海を感じ、自然を感じ、手料理を食べて、実家の匂いのする部屋で眠る。
それが出来ないからこそ何か違う方法で安心させてあげたい、それがチャンビンの想っていることだった。
「ヨンボガ...お前も実家に帰りたいだろ?」
チャンビンはそう問うと、フィリックスは"いつか良くなる日がくるよ"と肩をポンポンと叩く。
笑顔で言うフィリックスと、一瞬見えた物悲しそうな表情をチャンビンは見逃さなかった。
「......」
急に止まればケロッとした顔で、どうしたの?、と振り返る。
チャンビンは少しでも悲しい思いをさせないようにと明るく振る舞う。
「ヨンボガ〜!お前今日何食べたい?」
「え?うーん...カレーライスが食べたい」
「よし!じゃあ作るか」
「ほんと!?」
「俺のママが」
「チャンビニヒョンじゃなくて安心した!」
「おい!!」
そんな他愛もない話をしながら、フィリックスはチャンビンと1日過ごす事になった。
夜になり、ほんとにカレーライスが食べられてとても満足するフィリックス。
チャンビンもその笑顔を見て、少し安心していた。本当の兄弟ではないけど、こうやって血の繋がりのない兄弟感もだいぶ慣れてきて今では可愛い弟だとチャンビンは物思いに耽っていた。
「「ご馳走様でした!」」
声を揃えて、食べ終わるとチャンビンとフィリックスは順番にシャワーを浴びて、歯磨きも終わりベッドの上で各自、自由時間となっていた。
するとフィリックスがチャンビンのベッドへダイブし、一緒に写真撮ろう、とおねだりする。
「お泊まりしたから記念に撮ろうよ」
「載せんの?」
「ううん、載せない」
「ヨンボガ〜、俺との思い出を大事にしたいんだな〜くぅ〜可愛いやつめ〜」
そんなチャンビンを無視して、ポーズを決めるフィリックス。
バッチリキメ顔をするが、隣のチャンビンはほぼ全てブレているか、半目になっていた。
それを見てフィリックスがゲラゲラ笑っていると拗ねるチャンビン。見兼ねてフィリックスがチャンビンのほっぺにチューしようとするポーズをとればチャンビンがびっくりした表情のままカメラに収まる。
「ㅋㅋㅋㅋㅋㅋ」
「おま、お前が急にそういうことするからだろ!!消せ!!」
「やだ〜消さない〜へへへっ」
「絶対載せんなよ!!絶対だからな!!あとグループの方にも送るなよ!!絶対だぞ!!」
「分かってるってば〜ㅋㅋ」
落ち着きを取り戻して、フィリックスは自分のベッドに戻って行った。
電気を消して、おやすみと挨拶すれば静けさと外から聞こえる鈴虫の声だけが部屋に残る。
しばらくしてフィリックスの寝息が聞こえて、チャンビンがうとうとと眠りにつきそうになっていると、隣のベッドに動きがあった。
(......ヨンボガ...?)
ベッドから降りて、こっちへ向かってくる音が聞こえたチャンビン。
なんだなんだ、と思っていればフィリックスが一言だけチャンビンに尋ねる。
「......ヒョ、ヒョン...」
細々とした声でチャンビンを起こすフィリックス。
「どうしたんだよ...」
声を掛ければフィリックスは泣きそうな声でチャンビンを呼ぶ。
「チャンビニヒョン...僕、怖い夢見ちゃって......その...い...一緒に寝てもいいかな...」
枕を抱えながら訴えるフィリックスを見たチャンビンはそれを許すことしか出来なかった。
「狭くなるけどいいのか?」
「ごめんねヒョン...」
「俺は別に気にしてないけど、ヨンボガお前は大丈夫か?」
「チャンビニヒョンがそばにいてくれたらそれだけで安心するから僕は大丈夫」
「そ、それならいいんだけど...」
もそもそと少しずれれば、その隣にフィリックスが布団に入ってるくる。
生憎、大きいベッドだったからそこまで不自由なことは無かった。
「2人で寝ても大丈夫そうだね!」
「なんでそんなに楽しそうなんだよ、怖い夢見たんだろ?」
「忘れようとしてたのに!」
「ごめんって」
眠気さはどこかへ行ってしまい、少し談笑する。
ふとフィリックスから香る甘い匂いにドキッとする。きっと着ている服の柔軟剤とヘアオイルの匂いだろう。あとは、自分と同じボディーソープの匂い。
フィリックスは男だけど、見た目は可愛いし華奢で少し中性的な印象。そばかすで少年っぽさもあるが、ときおり魅せる凛とした美しさもある。けど声は誰よりも低音でセクシーな声。
思えばフィリックスは純粋で、傷がついてしまえばそこから綻んでしまいそうなほど純白な心の持ち主であった。
フィリックスを見つめながら、そんなことを考えているとフィリックスはチャンビンの方を見る。
その視線に気づいたかのように、何?とフィリックスは答えた。
「んーん、可愛いなーって」
「どしたの急に」
「いやさ、お前みたいに純粋で太陽って感じの天使みたいな女っているのかなって」
「何急に〜変なチャンビニヒョン」
「いやマジな話、この世に存在してると思う?」
真顔で言うチャンビンにフィリックスはポカンとする。
そんな事言われても、事実自分は男でメンバーからは天使だの妖精だの言われるが性格がそうであればそう思われても別に支障はない。
女の子じゃないからわかんない、とフィリックスは返す。
「...まぁそうだよな」
「わかんないものはわかんないよ、ヒョン」
そろそろ寝よう、とチャンビンが言えばフィリックスもそれに答えるように目を瞑った。
「ヨンボガ、...今日は楽しかったか?」
暗闇の中で隣にいるフィリックスに聞けば、とってもね、と一言だけ呟く。
ほんのりと伝わる体温が暖かくて、子供みたいだなとチャンビンは心の中で笑う。
するとフィリックスは心の中を読むかのようにチャンビンに問いかける。
「...今なんか笑った?ヒョン」
「え"っ?!」
「図星なんだね」
「お前...やっぱり魔法使いか何かなのか?」
冗談混じりに言えばフィリックスはそうかもしれないとくすくすと笑った。
「...チャンビニヒョンは眠くないの?」
「目が覚めたわ」
完全に目が覚めてしまったチャンビンにフィリックスは眠くなる魔法をかけてあげると言う。
「それじゃあヒョンが眠くなるようにおまじないをかけてあげようか?」
「へ?何それ、新しいギャグ?」
ふざけていると、ふと自分のおでこに柔らかいものが触れる。
「ん、これで良し!おやすみチャンビニヒョン」
おでこに軽いキスを落としておやすみと告げるフィリックス。
それに対してあわあわと驚きすぎて何も答えられないチャンビン。
耳まで熱くなるのが自分でもわかる。
フィリックスはこういうスキンシップに対してあまり抵抗が無いのだろう。いとも簡単に心を奪うような紳士的な部分を感じる事も多かった。
不意打ちはずるい、と改めて思うチャンビン。
「...ぉ...やすみ...」
チャンビンが返す頃には、寝息を立ててすやすやと眠るフィリックスがそこにはいた。
チャンビンは1人もんもんとしながら、少し寝不足のまま朝を迎えるのだった。
「ん〜...よく寝た...」
大きく背伸びをすれば、隣にはまだ眠っているチャンビニヒョン。
「寝坊助さん、早く起きないとチューしちゃうぞ」
警告をしても全く反応が無いチャンビン。
「...またおでこにしちゃうよ?」
それでも起きないチャンビンを見て、フィリックスはそっと可愛いおでこに軽いキスをする。
「...チャンビニヒョン、ありがとね...気を使ってくれて...大好きだよ、ヒョン」
寝癖のついた、ふわふわの頭を撫でてフィリックスは満足する。
可愛い寝顔をカメラに収めて、チャンビンを起こす。
「ヒョン!!起きてよ!!」
朝早くから、2人の騒ぐ声が部屋いっぱいに広がった。
"僕はもうわかってる"
"俺はもう知ってる"
愛しい存在が出来てしまったことに。
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