第五夜
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リビングで食事を摂る。
鉄分豊富な材料を使用した料理。
レイジさんの腕を見習って何度も何度も練習した。
だけど覚えが悪くて、未だにレパートリーは両手もない。
それを姿勢よく、マナーよく食べる。
何となく鉄分が血が戻ってくるような気がした。
本当は消化してからだろうし
ただの思い込みにすぎないけれど
久しぶりの食事に変わりはない。
寝ていた間私は食事をしていなかっただろうし、
浴室で見た自分の体がそれを訴えていた。
ーー顔色悪すぎたよね。
顔色だけじゃないか、全部...。
また目頭に熱が出るけど
口の中に含んだ料理を思いきり飲み込んで
涙も一緒に飲み込んだ。
ーー泣いてちゃだめ、泣いたってどうにも
「あぁ?」
「っ!」
背後から突然聞こえた声。
思わず体に力が入り
ナイフとフォークを握る手も固まった。
聞きなれたハスキーなのに
透き通った男らしい声。
「お前」
「スバルくん。」
廊下へ続く扉からリビングに入ってきて
私の隣の隣の席辺りに立ち止まりこちらを見る。
その姿を見て少し安心する自分がいた。
「ま、まだ起きてたんだね!」
思いきり腫れた目で涙に潤んだ瞳で
無理矢理笑って見せる。
人生のなかで一番下手な作り笑顔だと思う。
「......なにしてんだ?」
「何って、食事だよ。」
「食事ってお前......。」
言葉を止めて私を見つめるスバルくん。
探るように私を見回すその目。
「お前レイジから
何も聞いてねぇのか?」
「何もって...」
――まさかスバルくん私が吸血鬼化したのに
気付いてたの...?
多分スバルくん自身に自覚はないんだろうけど
言葉は刺々しく、
伺う視線が私に鋭く突き刺さる。
スバルくんが私の部屋に
連れて行ってくれた時のこと。
私に触れた時の
あの表情の違和感の理由。
「気付いてたんだ、スバルくん。」
「...あぁ、聞いたのか。
チッ!胸くそ悪ぃ!」
そう言うと急に壁を叩き付けた。
壁に大きな亀裂を刻み
私に言葉にならない恐怖を与える。
自然と震え上がり逆立つ肌。
姿勢がさらによくなる私と
うつむき床を睨み付ける彼。
「す、スバルくん...あの」
「っるせぇ!お前は黙ってろ!」
訳もわからず恐怖に狼狽える。
ただでさえまだ痛みは消えないのに
この屋敷では息をする暇も与えてくれないのか
安心できる場所も、もう
「.........。」
「ハッ、怖くて涙が止まらねぇってか?
そうだな
俺は泣いてるお前も嫌いじゃない。」
涙の理由が恐怖のせいか
胸にうずく傷のせいかはわからない。
ただ涙が止まらないという事実は
スバルくんの言う通りだった。
恐怖とストレスが胸に渦巻いて
私はまた考えることをやめてしまう。
「なあ?
吸血鬼になったんだ。
こんな食事なんていらねえだろ。
レイジみたいなことしやがって!」
皿を机の上から払い除けるスバルくん。
肩を揺らして息をする彼。
さっきまで見ていた彼との差に
私は口もきけなくなった。
彼も思うところがあるんだろう。
だけどなぜこんなことをするんだろう。
思うところってなんだろう。
疑問は浮かぶのに、
考えようとも頭が働かない。
スバルくんが目の前にうつる。
その情景を見ているだけ。
まるで液晶越しに
ワイドショーでも見るように。
「おま....ジ....血....っ!クソッ!」
ぶつぶつと呟くその声は
普通にしていても
聞こえないほど小さな声だった。
私から視線をそらして
恐らく悪態をついていたスバルくんは
再び私を射すように見つめてニヤリと笑う。
「せっかく吸血鬼になったんだ。
吸血鬼の食事の仕方、教えてやるよ」
「...って、ちょっと待って!」
流石に放心しかけていた私も目をさます。
掴みかかられた腕に抵抗していると
テーブルに上半身が乗る形になった。
腰にテーブルの角が当たって痛い。
胸ものけ反り、喉もしまって息がしにくい。
「す、ばるくん...!」
「俺が手出さないとでも思ってたのかよ」
「!...」
「なんだその目、図星か。
チッ!舐めやがって」
「いや!やめてスバルくん!」
入浴前までは抱いていた
小さな希望が一瞬にして儚く散った。
本当はわかりきってたはずだったのに。
守ってくれる人なんていないって
もうここに来たあの瞬間から、
私は知っていたはずなのに。
首もとにスバルくんの顔が近づいてくる。
真っ白な髪。火のような目。
整った顔の口からでるスバルくんの牙。
スバルくんの髪が首にかすり肌に
牙がたどり着く1秒前。
「何してるの...?」