第四夜
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ふう、と耳に息がかけられる。
くすぐったさに震えると
レイジさんはようやく顔を離して
また笑いだす。
「触れられると思いましたか?」
右後頭部にあった手が
私の右頬を覆い親指が私の頬を撫でた。
優しい感触と声色に安心しきって
緊張も恐怖も解けてくる。
体に入った力も抜けてレイジさんから
目を離せなくなった時。
「ッ....」
空いていた左手が私の首を掴む。
だけど力は入っていない。
右頬を覆っていた右手もそれに続く。
だけどやはり絞めることはない。
「...?」
驚きと不安。
その表情に満足したのか呆れたのか
レイジさんは鼻で笑ってまた右耳に口を近づける。
「貴女にこうして触れているだけで
虫酸が走るんですよ。
貴女の血など、弟たちにくれてやります。 」
よく通ったはずの声。
それは夢のようにうっすらとして、
ゆっくり頭で理解した意味。
レイジさんは無表情に戻り
顔も手も体も私から離れて立ち上がる。
「貴女の相手には疲れました。
後は、自分でやってください。」
言いながら洗面台で手を洗い流し
新たに出したタオルで拭いて手袋をつける。
理解した意味を飲み込みたくなくて
私は体を無意識に動かす。
「...レイジさん。」
「...その酷い匂いは完全に消してから出てきなさい。」
「...レイジさん、待ってください私は!」
出ていこうとする背中。
四つん這いになって叫ぶ。
体の痛みが消えた訳じゃない。
寧ろ吐き気がしてきて最悪な気分。
だけど、この背中を逃したら、
もう二度と口も聞いてくれないような気がして
ーーまだ、私は何も言えてないのに!
「逃げるんですか!!」
「.........何?」
扉を開けて半分外に出てしまった
彼がこちらをゆっくり振り向く。
珍しいほど怒りを隠しきれずに
威圧感たっぷりに睨みを効かすけど
私だって譲れるはずがない。
「怖いんでしょう!?」
挑発するようにいい放つ。
出来るだけ自然に座り直し
余裕綽々に振る舞ってみせる。
痛みのおかげで吹き出す汗もお構いなし。
「怖い?私が、貴女を?
はっ、笑えない冗談はやめなさい。」
ずんずん近付いて再び私の目の前に立つ。
だけど座り込むつもりはないらしい。
そのまま見下し目で威嚇してくる。
「私は貴女を過大評価していたらしい、
黙って言うことも聞けないとは。」
「ほら、また」
「黙れ!」
鞭が私の頬を打つ。
いつもの痛みとは違う。
これも覚醒途中のせいなのか。
一筋の血が垂れてレイジさんの目が
更に深い怒りに染まるのに
感化されて必死に言葉を紡いだ。
「答えを聞いてしまうのが怖いんでしょう!
だから、私に言い訳もさせたくないのよ!」
大粒の涙が溢れ出る。
最後の方は声が震えて自分でもみっともなさを感じた。
おまけに肩も、体も震えて
頭のなかもぐちゃぐちゃだ。
悲しさと伝えられない悔しさに
顔を俯けて床を穴が開くほど睨み付け
歯を食いしばっていろんな痛みに堪え忍ぶ。
「言い訳をすればわかってくれる。
許してくれる。
レイジさんは、優しい人だから...ですか?」
「...ッ...そうです!」
キッと睨み返しながら相手を誉める。
おかしな光景だけど私は彼を信じてる
「言い訳もせず嘘をついたお前が、
私にたてついてものを言うのか。
くだらない。」
「私は、レイジさんを愛しています!」
「くだらない!!」
鞭が再び頬を打つ。
さっきとは反対側の、右の頬。
鋭い音に続くじんわりと熱く痛む。
レイジさんも肩で息をして苦しそうに取り乱す。
怒りに包まれたその全てが
私に向かって飛んでいる。
「その愛の言葉で、
私を振り向かせられるとでも?
はは、飛んだ笑い種だな。
相手が欲しいなら弟たちにしなさい。
きっと喜んで引き受けてくれますよ 。」
鞭をしまってまた背中を向ける。
その歩は先程より少し早く、扉を開くのも手早い。
背中を向けられているために
表情を見ることは出来なかった。
だけどそれも、この包帯と同じ。
どんな顔をしていたかなんて
結局関係ないんだ。
どんな思いでいてくれてたって、
私の思いが届かないなら
彼が受け止めてくれないなら
それ自体は無意味になってしまう。
「レイジさん!」
最後の必死の呼び掛けにも
もう彼が振り向くことはなく
勢いよく閉められた扉の音が
私達の関係に終わりを告げた。
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