400字短編
流れる水に浸っていた。
君の銀色に光る長い髪は濡れて身体にまとわりついている。
それがいやに艶めいていて、一目見た瞬間頭も心臓も止まった。
ランニングで上がった息が、突然詰まって咳き込んでしまった。
毎朝鍛えられているはずの肺ですら、君の美しさに敵わなかったらしい。
君はその咳に釣られてこちらを見る。
咳を抑えていた手が赫らむ頬を隠す手に変わる。
だが、僕は君の瞳から目が離せないでいた。
吸い込まれるような瞳は川の水と同じ色。
君の口はゆっくり弧を描いて僕に何故か微笑んだ。
何故か微笑んだのだ。
理由なんてわからない。
わからないけど、僕の止まった心臓は、止まった時間を取り戻すように早く、早く強く動き続けた。
鼓膜に響くうるさい鼓動をまた、隠すように僕はランニングの続きを始めようと駆け出した。
パシャリ。
君は立ち上がって僕を見つめた。
見つめたまま砂利まで上がり僕の頬を触れたのだ。
冷たい春の水が僕の心に火傷を負わせた。
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