第2話
夢小説設定
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キョウコは孤児だ。
幼い頃に兄弟の父親に手を引かれて以来、ずっと彼らと過ごしてきた。
その裏事情はとても複雑だ。
彼女自身、本当の家族や故郷の話はほとんど話さないし、兄弟も父親がどこからか引き取ってきた身寄りのない子、そんなふうに思っていた。
どこに誰の耳があるかはわからない。
公 の場で決定的な言葉を紡ぐわけにはいかず、キョウコは言葉を濁した。
だが、さすが幼馴染、アルはキョウコが一体、何を言いたいのかを簡単に察した。
「何言ってんのさ。ボクはキョウコの事、自慢できる姉さんだと思ってるよ」
例え鎧になっても心優しい彼の言葉に、キョウコは穏やかに笑う。
「……アル…ありがとう」
「しょうがない。また、次、さがすか…」
そんな二人のやり取りをエドは黙って見守っていた。
あーあ、と諦めながらも、次の場所を目指して立ち上がる。
「そんなに簡単に見つかるわけないしね」
その時、背後からかすれた声が聞こえてきた。
「そんな…うそよ…だって…生き返るって言ったもの…」
ロゼは、今にも泣き出しそうに肩を震わせ、地面に崩れ落ちる。
怖くて怖くて「真実」を直視できない。
やはり本当なのだ。
何も知らずに暮らしていた、ただ信じることだけが救いだったのに。
恋人を生き返らせてくれると言っていたのに。
奇跡の業で――だが、それは違った。
それは錬金術だった。
今まですがって生きていたものが、世界が、壊れた。
「あきらめな、ロゼ。元から――」
「…なんて事、してくれたのよ…これから、あたしは!何にすがって生きていけばいいのよ!!教えてよ!!ねぇ!!」
震えるような、存在と喪失への恐怖だけがある。
その事実が、恐ろしい疫病のように彼女の身体に染み込み、身体を震わせている。
気づけば、瞳には涙がいっぱい溜まっていた。
「そんな事、自分で考えろ。立って歩け、前へ進め。んたには、立派な足がついてるじゃないか」
エドはすれ違い様に厳然と告げ、彼女を置いて歩き出した。
絶望に陥るロゼの前に、キョウコがしゃがみ込む。
「ねぇ、ロゼ。すがるとかじゃなくてさ、今に向き合って生きる理由を探してもいいんじゃない?」
顔を上げたロゼの目に飛び込んできたキョウコの美貌は、美しく凛々しく、穏やかで、優しく微笑んでいた。
「生きる理由がわかんないなら、理由を探すってことも、生きる理由になると思うよ」
それだけ言うと、キョウコは二人の後を追うように歩き出した。
ばさり、とコートの裾が翼を打つように翻る。
三人が去った後に残っていたのは、騙されたことに気づいた街中の人々が教会に押し寄せる抗議だった。
「教主を出せ!!」
「どうなってるんだ!」
「俺達をだましていたのか!!」
「開けろ」
「説明しろ」
ところが、幹部達によって扉は固く閉ざされている。
コーネロは目を覚ました後、未だ変形した右腕から血を流したまま逃げる。
屈辱的な方法でぶちのめされ、誇りとすべき全てを奪われた。
「…くそ!!あんな小僧に、私の野望を…冗談じゃないぞ。これまで、どれたけの投資をしたと…」
「ほーんと。せっかくいいところまでいったのに、台無しだわ」
突然の声に驚いて振り返ると、二人の男女がいた。
女性は黒い髪に白い肌、真っ赤な唇が白い顔に映えている。
その悩ましい姿態を包んでいるのは真っ黒なロングドレス。
大きく開いた襟ぐりから胸の谷間がハッキリ見え、しなやかな腕を包むのは黒の長手袋。
一方、男はでっぷりと太った巨体に愛嬌のある顔立ち。
こちらも、黒い服にその巨体を包んで合成獣の肉片をかじっていた。
「久しぶりに来てみれば、何この騒ぎ。困った教主様ねぇ」
「あ…あんた達、どういう事だ!!あんたがくれた、賢者の石!壊れてしまったじゃないか!!あんなハンパ物、つかませおって!!」
「いやぁね。あなたみたいなのに、本物を渡すわけないじゃないの」
「ぐ…この石を使えば、国を取れると言ったではないか!!」
喘ぐように、コーネロは呻く。
その顔に、狂気の笑みはない。
狂気が去った後に残っていたのは、自らの手を汚さずに、ただ命じることに慣れた、太った初老の指導者の姿。
「んーー。そんな事も言ったかしら?こっちとしては、この地でちょっとした混乱を起こしてくれるだけでよかったのよね。それとも何?あなたみたいな三流が、一国の主 になれると本気で思ったワケ?あはははは!!ほんっと、おめでたいわぁ、あなた!!」
女性はもはや、侮蔑を隠そうとはしなかった。
すると、合成獣を食べ終えた男が女性に訊ねる。
「ねぇ、ラスト、このおっさん、食べていい?食べていい?」
でっぷりと太った外見に似つかわしくない、幼さ丸出しの声で。
「だめよ、グラトニー。こんなの食べたらお腹こわすわよぉ」
視線をコーネロへと向けたまま、女性――ラストは冷やかに目を細める。
「こんな三流…いえ、四流野郎なんか食べたらね」
この前にも、三人によって街中に自身の嘘が知れ渡ってしまい、怒りの矛先を見つけられないでいた。
しかし、そこにいた。
怒りの矛先を向ける場所を見つけた――ラストとグラトニーだ。
「ああああああ!!どいつもこいつも、私を馬鹿に…」
我を忘れ、変形していない左腕で拳を振り上げると、ラストがおもむろに手を上げた。
すると、長手袋に包まれた爪が伸び、その内の一本が眉間に突き刺さる。
「あなた、もう用済みよ」
薄れゆく意識の中、彼は見た。
美女の鎖骨に、不気味な刻印が刻まれていることに。
そして、勢いよく爪を引き抜き、背を向けると、コーネロは額から血を流して倒れた。
「あーあ、せっかくここまで盛り上がったのに、また一からやり直しね。お父様に怒られちゃうわ」
肩を落とし、爪を元の長さに戻す横で、グラトニーは痙攣するコーネロの服を掴むと、その身体を持ち上げる。
元の形がユーモラスなだけに、にっと笑う様は、怖気を誘う不気味さを持っていた。
「に~~~~~♪」
そして、その行く先は、彼を軽く一呑みにできる……大口。
その隙間から覗く舌には、あの不気味な刻印があった。
「さて、次はどんな手を使おうか…」
次の策を思案するラストはふと、グラトニーを見やる。
「おや、食べちゃいけないったら」
後は、ただ咀嚼の音だけが響いた。
幼い頃に兄弟の父親に手を引かれて以来、ずっと彼らと過ごしてきた。
その裏事情はとても複雑だ。
彼女自身、本当の家族や故郷の話はほとんど話さないし、兄弟も父親がどこからか引き取ってきた身寄りのない子、そんなふうに思っていた。
どこに誰の耳があるかはわからない。
だが、さすが幼馴染、アルはキョウコが一体、何を言いたいのかを簡単に察した。
「何言ってんのさ。ボクはキョウコの事、自慢できる姉さんだと思ってるよ」
例え鎧になっても心優しい彼の言葉に、キョウコは穏やかに笑う。
「……アル…ありがとう」
「しょうがない。また、次、さがすか…」
そんな二人のやり取りをエドは黙って見守っていた。
あーあ、と諦めながらも、次の場所を目指して立ち上がる。
「そんなに簡単に見つかるわけないしね」
その時、背後からかすれた声が聞こえてきた。
「そんな…うそよ…だって…生き返るって言ったもの…」
ロゼは、今にも泣き出しそうに肩を震わせ、地面に崩れ落ちる。
怖くて怖くて「真実」を直視できない。
やはり本当なのだ。
何も知らずに暮らしていた、ただ信じることだけが救いだったのに。
恋人を生き返らせてくれると言っていたのに。
奇跡の業で――だが、それは違った。
それは錬金術だった。
今まですがって生きていたものが、世界が、壊れた。
「あきらめな、ロゼ。元から――」
「…なんて事、してくれたのよ…これから、あたしは!何にすがって生きていけばいいのよ!!教えてよ!!ねぇ!!」
震えるような、存在と喪失への恐怖だけがある。
その事実が、恐ろしい疫病のように彼女の身体に染み込み、身体を震わせている。
気づけば、瞳には涙がいっぱい溜まっていた。
「そんな事、自分で考えろ。立って歩け、前へ進め。んたには、立派な足がついてるじゃないか」
エドはすれ違い様に厳然と告げ、彼女を置いて歩き出した。
絶望に陥るロゼの前に、キョウコがしゃがみ込む。
「ねぇ、ロゼ。すがるとかじゃなくてさ、今に向き合って生きる理由を探してもいいんじゃない?」
顔を上げたロゼの目に飛び込んできたキョウコの美貌は、美しく凛々しく、穏やかで、優しく微笑んでいた。
「生きる理由がわかんないなら、理由を探すってことも、生きる理由になると思うよ」
それだけ言うと、キョウコは二人の後を追うように歩き出した。
ばさり、とコートの裾が翼を打つように翻る。
三人が去った後に残っていたのは、騙されたことに気づいた街中の人々が教会に押し寄せる抗議だった。
「教主を出せ!!」
「どうなってるんだ!」
「俺達をだましていたのか!!」
「開けろ」
「説明しろ」
ところが、幹部達によって扉は固く閉ざされている。
コーネロは目を覚ました後、未だ変形した右腕から血を流したまま逃げる。
屈辱的な方法でぶちのめされ、誇りとすべき全てを奪われた。
「…くそ!!あんな小僧に、私の野望を…冗談じゃないぞ。これまで、どれたけの投資をしたと…」
「ほーんと。せっかくいいところまでいったのに、台無しだわ」
突然の声に驚いて振り返ると、二人の男女がいた。
女性は黒い髪に白い肌、真っ赤な唇が白い顔に映えている。
その悩ましい姿態を包んでいるのは真っ黒なロングドレス。
大きく開いた襟ぐりから胸の谷間がハッキリ見え、しなやかな腕を包むのは黒の長手袋。
一方、男はでっぷりと太った巨体に愛嬌のある顔立ち。
こちらも、黒い服にその巨体を包んで合成獣の肉片をかじっていた。
「久しぶりに来てみれば、何この騒ぎ。困った教主様ねぇ」
「あ…あんた達、どういう事だ!!あんたがくれた、賢者の石!壊れてしまったじゃないか!!あんなハンパ物、つかませおって!!」
「いやぁね。あなたみたいなのに、本物を渡すわけないじゃないの」
「ぐ…この石を使えば、国を取れると言ったではないか!!」
喘ぐように、コーネロは呻く。
その顔に、狂気の笑みはない。
狂気が去った後に残っていたのは、自らの手を汚さずに、ただ命じることに慣れた、太った初老の指導者の姿。
「んーー。そんな事も言ったかしら?こっちとしては、この地でちょっとした混乱を起こしてくれるだけでよかったのよね。それとも何?あなたみたいな三流が、一国の
女性はもはや、侮蔑を隠そうとはしなかった。
すると、合成獣を食べ終えた男が女性に訊ねる。
「ねぇ、ラスト、このおっさん、食べていい?食べていい?」
でっぷりと太った外見に似つかわしくない、幼さ丸出しの声で。
「だめよ、グラトニー。こんなの食べたらお腹こわすわよぉ」
視線をコーネロへと向けたまま、女性――ラストは冷やかに目を細める。
「こんな三流…いえ、四流野郎なんか食べたらね」
この前にも、三人によって街中に自身の嘘が知れ渡ってしまい、怒りの矛先を見つけられないでいた。
しかし、そこにいた。
怒りの矛先を向ける場所を見つけた――ラストとグラトニーだ。
「ああああああ!!どいつもこいつも、私を馬鹿に…」
我を忘れ、変形していない左腕で拳を振り上げると、ラストがおもむろに手を上げた。
すると、長手袋に包まれた爪が伸び、その内の一本が眉間に突き刺さる。
「あなた、もう用済みよ」
薄れゆく意識の中、彼は見た。
美女の鎖骨に、不気味な刻印が刻まれていることに。
そして、勢いよく爪を引き抜き、背を向けると、コーネロは額から血を流して倒れた。
「あーあ、せっかくここまで盛り上がったのに、また一からやり直しね。お父様に怒られちゃうわ」
肩を落とし、爪を元の長さに戻す横で、グラトニーは痙攣するコーネロの服を掴むと、その身体を持ち上げる。
元の形がユーモラスなだけに、にっと笑う様は、怖気を誘う不気味さを持っていた。
「に~~~~~♪」
そして、その行く先は、彼を軽く一呑みにできる……大口。
その隙間から覗く舌には、あの不気味な刻印があった。
「さて、次はどんな手を使おうか…」
次の策を思案するラストはふと、グラトニーを見やる。
「おや、食べちゃいけないったら」
後は、ただ咀嚼の音だけが響いた。