第2話
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「放送室よ。教主様がラジオで教義をする…」
「ほほーーーーーう」
突然、顎に手を当て、にやりと不敵な笑みを浮かべるエド。
そんな少年の放つ、いかにも悪巧みしてます、というような表情に、キョウコとアルの心情は見事に一致した。
――あ、なんかいやらしい事考えてる。
燃え上がる夕日の中、懐中時計を見ながら男がつぶやき、もう一人に毎日の日課である鐘を鳴らせと促す。
「なんだか、今日は下がさわがしいな…――って、おい、何してる!鐘の時間はとっくに過ぎてるぞ!」
しかし、男は鐘の紐を握りながら呆然と見上げて立ち尽くし、声を漏らす。
「鐘が…」
「あ?」
「鐘が無い」
「はい?」
なんと、そこにあるはずの鐘がなくなっていたのだ。
二人揃って呆然とする下で、こっそりと鐘を持ち去るアルはそのまま移動する。
キョウコはラジオを持って、ロゼと一緒に待っていた。
ロゼは未だに、人を生き返らせることへの禁忌の事実を、信じられないといった顔で口を開く。
「さっきの話だけど、まだ信じられない。そうまでしないと、錬成できないなんて…」
「言ったでしょ。錬金術の基本は『等価交換』だって。何かを得ようとするなら、それなりの代価を払わなければいけないの」
徹底した才能主義。
残酷なまでの実力主義。
それが、錬金術の世界。
国家錬金術取得を許されたということ自体が天才ということであり、その時点から既に軽蔑と悪意が存在する。
「兄さんやキョウコも、周りから『天才』だなんて言われてるけど『努力』という代価を払ったからこそ、今の二人があるんだ」
「でも、そこまでの犠牲を払ったからには、お母さんはちゃんと…」
僅かな希望を込めてそう言うが、キョウコは目を伏し、アルは鎧の顔をうつむかせる。
戸惑うロゼだったが、アルの口から予想外の言葉がついて出た。
「人の形をしていなかった」
「……!!」
ロゼは蒼白な表情となって固まる。
キョウコは少しも感情を滲ませず、沈黙を守る。
再びの衝撃に、再びの断言を受け、彼女は今や明確に、それを感じることができた。
――二人が人体錬成で生まれた結果は、母親とはあまりにも遠い、歪んだ、醜い本性。
――全く見たこともない、化け物の姿だった。
――あまりな臨場感と光景に、それ自体に戦慄したアルはエドの身体を起こし、声を荒げる。
「そんな…なんで!!兄さんの理論は完璧だったはずだ!!」
「ああ。理論上では、間違っちゃいなかった…間違ってたのは、オレ達だ…」
――手を虚空に伸ばすそれを見て、自分達が犯した禁忌の罪にやっと気づかされた。
独白のあまりの凄惨さ、虚無を映す瞳を、一定に固定する。
「人体錬成はあきらめたけど、それでも兄さんは、ボクの身体だけでも元に戻そうとしてくれてる。ボクだって、兄さんやキョウコを元に戻してやりたい」
キョウコは鐘とラジオを囲むように錬成陣を描き始める。
まるで、その過去の辛さを紛らわすように。
アルはキョウコを――黒のコートで見えない、その表情を思い浮かべながら淡々と続ける。
「でも、そのリスクが大きいのは、さっき話した通り…報いを受け、命を落とすかもしれない。ボク達が選んだのは、そういう業 の道だ」
錬成陣を描き終えたキョウコはアルの隣に並ぶ。
「だから、ロゼ、あなたはこっちに来ちゃいけない」
前髪の下からその様子を窺うキョウコは、彼女の揺らぐ様を冷酷に見つめる。
やはり、普通の人間はそうそうこちら側に踏み込んではいけない。
その表情は、あどけなさが微塵も感じられない、一種凄絶な美貌だった。
放送室の扉を勢いよく開けたコーネロは息を切らして部屋に入ってくる。
「小僧ォォーーー、もう逃がさんぞ~~~~~」
あれから紆余曲折 あって。
不屈の魂と、錬金術師の意地をかけて、粘り強く追跡を続けて。
一人、二人、戦闘不能に追い込まれても足を決して緩めずに、追って、追って――。
ようやく、やっとのことで、今度こそ本当の本当に、標的を追いつめた。
その諸悪の根源――エドは机の上に座んで足を組み、余裕そうに頬杖をついていた。
「もうあきらめたら?あんたの嘘も、どうせすぐ街中に広まるぜ?」
「ぬかせ!教会内は私の直属の部下だし、バカ信者どもの情報操作など、わけもないわ!」
「やれやれ。あんたを信じてる人達も、かわいそうな事だ」
「信者どもなぞ、戦集めの駒だ!ただの駒に同情など不要!それになぁ、神のためだと信じ、幸福のうちに死ねるなら、奴らも本望だろうよ!」
化けの皮が剥がれ、本性を顕 したコーネロの話を、エドは楽しくて仕方がない感じで、にやにやと笑いながら聞いていた。
「錬金術と奇跡の業の区別もつかん信者を量産して駒はいくらでも補給可能!これしきの事で我が野望を阻止できると思ったか!!」
ただその大仰な、自己陶酔の気がある口調と仕草の奥に、暗い深淵が覗いている。
そこから垣間見える濃密な狂気は、人の心と命を弄 ぶ独裁者にふさわしいものだった。
「うわははははは」
だが彼に、教主のおどけた演技につき合うつもりはなかった。
頭を叩き、大笑いする。
「くっ…ぶははははは!!」
「!?何がおかしい!!」
大口を開けて大笑いする少年の不思議な威圧感に気圧され、コーネロが汗を浮かべる。
「だぁーーーから、あんたは三流だっつーんだよ、このハゲ!」
「小僧!!まだ言うか!!」
「これ、なーんだ♪」
ひとしきり哄笑し、手にあるスイッチを見せる。
よく見れば、足元にはマイクが倒れていて、手にあるスイッチはONの状態。
そのまさかの事態に、コーネロはもう心底発狂して泣き叫びたい気分になった。
「まっ…」
――マイクと繋がる先の会話は、アルが抱えるスピーカーから街に丸聞こえになっていた。
『まさか…貴様ぁーーーーーッ!!!』
――キョウコは興奮に頬を紅潮させて大笑いし、ロゼは茫然自失の体となる。
コーネロは動揺も露に叫ぶ。
『いつからだ!!そのスイッチ、いつから……』
『最初から。もー全部、ただもれ』
エドは飄々とした表情で全部を打ち明ける。
『なっなっなっ…なんて事を~~~~っっ』
――ラジオやスピーカーから流れるエドとコーネロの会話を聞いた全員は皆、茫然自失となる。
完全に誤算だ。
この少年を直接始末すれば、この状況を打破できる。
そう思って追いかけたはずが、まさかこんなことをされるとは完全に予想外だった。
そして、コーネロの怒りが最高潮に達し、再び杖を錬成する。
「…このガキ…ぶち殺」
「遅ェよ!!」
神速、自身の右腕を錬成した刃で一閃、ガトリング銃を真っ二つに斬る。
「言っただろ?格が違うってよ」
黄金色の相貌で格の違いを見せつける。
状況が圧倒的に不利に陥ったコーネロは奥歯を噛みしめ、指輪――賢者の石に意思を込めて再び錬成を始めた。
「私は…私はあきらめんぞ………この石があるかぎり、何度でも奇跡の業で…」
「ちっ…」
舌打ちをして構えた刹那、弾ける電撃音と共に彼の腕がガトリング銃と融合した。
ガトリングが血管のごとく浮き出ており、なんとも異様な光景だった。
「…っぎゃあああああ、う…腕っ…私の腕が!!」
「な……なんで…いったい…」
「あああああああ、痛ぁぁあああ!」
悲痛に喚き立てるのがうっとうしく、こめかみに青筋を立てたエドは襟首を掴み、頭突きを食らわせる。
「うっさい!!」
「ぶあ!!」
「ただのリバウンドだろうが!!腕の一本や二本で、ギャーギャーさわぐな!!」
「ひィィイイイ~~~」
「石だ!賢者の石を見せろ!!」
「ひィ…いっ…石…!?」
その手にある指輪――賢者の石は床に落ち、赤い粉塵となって散らばった。
「壊れ…た…どういう事だ!『完全な物質』であるはずの賢者の石が、なぜ壊れる!?」
「し…知らん、知らん!!私は何もきいてない!!あああぁ、たすけてくれ。お願いだ、私が悪かった~~」
「偽物…?」
「石がないと私は何もできないんだ、助けてくれェェェ~~~」
それは哀願だった。
威厳を取り繕う余裕はもはや失 くし、そこにいるのは惨めでただの老人。
だが、エドには弁解を聞く余裕すらなく、絶望に歪んだ表情でよろける。
「ここまで来て…やっと、戻れると思ったのに…偽物……」
懇願する老人に背を向け、その場に膝をつく。
かなりのショックのようだ。
突発的な出来事にコーネロは面食らう、しかし往生際が悪いことに、まだ虚勢を張る。
このあきらめない姿勢は、長所と言ってもよいかもしれなかった。
さすがはペテン教主、あきらめないことに関しては右に出る者がいないかもしれない。
(くくく…スキあり!!こうなったら、この小僧だけでも、ぶち殺ス!!)
そう画策し、変形した腕を掲げる。
「おい、おっさん。アンタよォ…」
「はいィ!?」
エドの漏らしたドスの利いた低い声が、後ろから襲いかかろうとするコーネロの動きを止める。
そして、地面に両手をつける。
「町の人間だますわ、オレ達を殺そうとするわ」
「え…?」
不意に建物が揺れ始め、
「「お?」」
屋外にいたキョウコとアルも振動に気づく。
「しかも、さんざ手間かけさせやがって、そのあげくが『石は偽物でした』だぁ?」
極めつけで無茶苦茶で理解不能なその光景に、コーネロは驚愕した。
「うわあ!!」
驚くのも当然と言えた。
なにしろ、部屋の壁を吸収して巨大な神の像が出現したのだから。
「ざけんなよ、コラ!!」
このエドを一言で表せば、目つきが悪い、ということに尽きる。
「神の鉄槌、くらっとけ!!」
コーネロのギリギリで、像の拳が振り下ろされた。
勿論、彼は気絶する。
「どーだった。エド」
こちらへ歩いてくる人影を見つけたエドは不満げに結果を話す。
「ハンパ物だ」
複雑そうな表情でキョウコは嘆息するエドの横顔を見つめる。
「ハンパ物…ってことは、偽物?」
「あぁ、とんだムダ足だ」
「…ちゃんと情報収集しておけば良かったね」
肩を落とすキョウコに視線を移してアルに話しかける。
「やっとおまえの身体を元に戻せるかと思ったのにな…」
「ボクより、兄さんの方か先だろ。機械鎧は色々、大変なんだからさ」
それぞれ溜め息をつく兄弟の会話を聞いて、キョウコは思う。
(二人ともお人好しってゆーか、兄弟思いってゆーか…)
すると、エドが微笑ましく見つめるキョウコの様子に気づいた。
「なっ…何笑ってんだよ、キョウコ」
「なんか改めて、仲いいなぁって……いいなぁ、兄弟…」
「ほほーーーーーう」
突然、顎に手を当て、にやりと不敵な笑みを浮かべるエド。
そんな少年の放つ、いかにも悪巧みしてます、というような表情に、キョウコとアルの心情は見事に一致した。
――あ、なんかいやらしい事考えてる。
燃え上がる夕日の中、懐中時計を見ながら男がつぶやき、もう一人に毎日の日課である鐘を鳴らせと促す。
「なんだか、今日は下がさわがしいな…――って、おい、何してる!鐘の時間はとっくに過ぎてるぞ!」
しかし、男は鐘の紐を握りながら呆然と見上げて立ち尽くし、声を漏らす。
「鐘が…」
「あ?」
「鐘が無い」
「はい?」
なんと、そこにあるはずの鐘がなくなっていたのだ。
二人揃って呆然とする下で、こっそりと鐘を持ち去るアルはそのまま移動する。
キョウコはラジオを持って、ロゼと一緒に待っていた。
ロゼは未だに、人を生き返らせることへの禁忌の事実を、信じられないといった顔で口を開く。
「さっきの話だけど、まだ信じられない。そうまでしないと、錬成できないなんて…」
「言ったでしょ。錬金術の基本は『等価交換』だって。何かを得ようとするなら、それなりの代価を払わなければいけないの」
徹底した才能主義。
残酷なまでの実力主義。
それが、錬金術の世界。
国家錬金術取得を許されたということ自体が天才ということであり、その時点から既に軽蔑と悪意が存在する。
「兄さんやキョウコも、周りから『天才』だなんて言われてるけど『努力』という代価を払ったからこそ、今の二人があるんだ」
「でも、そこまでの犠牲を払ったからには、お母さんはちゃんと…」
僅かな希望を込めてそう言うが、キョウコは目を伏し、アルは鎧の顔をうつむかせる。
戸惑うロゼだったが、アルの口から予想外の言葉がついて出た。
「人の形をしていなかった」
「……!!」
ロゼは蒼白な表情となって固まる。
キョウコは少しも感情を滲ませず、沈黙を守る。
再びの衝撃に、再びの断言を受け、彼女は今や明確に、それを感じることができた。
――二人が人体錬成で生まれた結果は、母親とはあまりにも遠い、歪んだ、醜い本性。
――全く見たこともない、化け物の姿だった。
――あまりな臨場感と光景に、それ自体に戦慄したアルはエドの身体を起こし、声を荒げる。
「そんな…なんで!!兄さんの理論は完璧だったはずだ!!」
「ああ。理論上では、間違っちゃいなかった…間違ってたのは、オレ達だ…」
――手を虚空に伸ばすそれを見て、自分達が犯した禁忌の罪にやっと気づかされた。
独白のあまりの凄惨さ、虚無を映す瞳を、一定に固定する。
「人体錬成はあきらめたけど、それでも兄さんは、ボクの身体だけでも元に戻そうとしてくれてる。ボクだって、兄さんやキョウコを元に戻してやりたい」
キョウコは鐘とラジオを囲むように錬成陣を描き始める。
まるで、その過去の辛さを紛らわすように。
アルはキョウコを――黒のコートで見えない、その表情を思い浮かべながら淡々と続ける。
「でも、そのリスクが大きいのは、さっき話した通り…報いを受け、命を落とすかもしれない。ボク達が選んだのは、そういう
錬成陣を描き終えたキョウコはアルの隣に並ぶ。
「だから、ロゼ、あなたはこっちに来ちゃいけない」
前髪の下からその様子を窺うキョウコは、彼女の揺らぐ様を冷酷に見つめる。
やはり、普通の人間はそうそうこちら側に踏み込んではいけない。
その表情は、あどけなさが微塵も感じられない、一種凄絶な美貌だった。
放送室の扉を勢いよく開けたコーネロは息を切らして部屋に入ってくる。
「小僧ォォーーー、もう逃がさんぞ~~~~~」
あれから
不屈の魂と、錬金術師の意地をかけて、粘り強く追跡を続けて。
一人、二人、戦闘不能に追い込まれても足を決して緩めずに、追って、追って――。
ようやく、やっとのことで、今度こそ本当の本当に、標的を追いつめた。
その諸悪の根源――エドは机の上に座んで足を組み、余裕そうに頬杖をついていた。
「もうあきらめたら?あんたの嘘も、どうせすぐ街中に広まるぜ?」
「ぬかせ!教会内は私の直属の部下だし、バカ信者どもの情報操作など、わけもないわ!」
「やれやれ。あんたを信じてる人達も、かわいそうな事だ」
「信者どもなぞ、戦集めの駒だ!ただの駒に同情など不要!それになぁ、神のためだと信じ、幸福のうちに死ねるなら、奴らも本望だろうよ!」
化けの皮が剥がれ、本性を
「錬金術と奇跡の業の区別もつかん信者を量産して駒はいくらでも補給可能!これしきの事で我が野望を阻止できると思ったか!!」
ただその大仰な、自己陶酔の気がある口調と仕草の奥に、暗い深淵が覗いている。
そこから垣間見える濃密な狂気は、人の心と命を
「うわははははは」
だが彼に、教主のおどけた演技につき合うつもりはなかった。
頭を叩き、大笑いする。
「くっ…ぶははははは!!」
「!?何がおかしい!!」
大口を開けて大笑いする少年の不思議な威圧感に気圧され、コーネロが汗を浮かべる。
「だぁーーーから、あんたは三流だっつーんだよ、このハゲ!」
「小僧!!まだ言うか!!」
「これ、なーんだ♪」
ひとしきり哄笑し、手にあるスイッチを見せる。
よく見れば、足元にはマイクが倒れていて、手にあるスイッチはONの状態。
そのまさかの事態に、コーネロはもう心底発狂して泣き叫びたい気分になった。
「まっ…」
――マイクと繋がる先の会話は、アルが抱えるスピーカーから街に丸聞こえになっていた。
『まさか…貴様ぁーーーーーッ!!!』
――キョウコは興奮に頬を紅潮させて大笑いし、ロゼは茫然自失の体となる。
コーネロは動揺も露に叫ぶ。
『いつからだ!!そのスイッチ、いつから……』
『最初から。もー全部、ただもれ』
エドは飄々とした表情で全部を打ち明ける。
『なっなっなっ…なんて事を~~~~っっ』
――ラジオやスピーカーから流れるエドとコーネロの会話を聞いた全員は皆、茫然自失となる。
完全に誤算だ。
この少年を直接始末すれば、この状況を打破できる。
そう思って追いかけたはずが、まさかこんなことをされるとは完全に予想外だった。
そして、コーネロの怒りが最高潮に達し、再び杖を錬成する。
「…このガキ…ぶち殺」
「遅ェよ!!」
神速、自身の右腕を錬成した刃で一閃、ガトリング銃を真っ二つに斬る。
「言っただろ?格が違うってよ」
黄金色の相貌で格の違いを見せつける。
状況が圧倒的に不利に陥ったコーネロは奥歯を噛みしめ、指輪――賢者の石に意思を込めて再び錬成を始めた。
「私は…私はあきらめんぞ………この石があるかぎり、何度でも奇跡の業で…」
「ちっ…」
舌打ちをして構えた刹那、弾ける電撃音と共に彼の腕がガトリング銃と融合した。
ガトリングが血管のごとく浮き出ており、なんとも異様な光景だった。
「…っぎゃあああああ、う…腕っ…私の腕が!!」
「な……なんで…いったい…」
「あああああああ、痛ぁぁあああ!」
悲痛に喚き立てるのがうっとうしく、こめかみに青筋を立てたエドは襟首を掴み、頭突きを食らわせる。
「うっさい!!」
「ぶあ!!」
「ただのリバウンドだろうが!!腕の一本や二本で、ギャーギャーさわぐな!!」
「ひィィイイイ~~~」
「石だ!賢者の石を見せろ!!」
「ひィ…いっ…石…!?」
その手にある指輪――賢者の石は床に落ち、赤い粉塵となって散らばった。
「壊れ…た…どういう事だ!『完全な物質』であるはずの賢者の石が、なぜ壊れる!?」
「し…知らん、知らん!!私は何もきいてない!!あああぁ、たすけてくれ。お願いだ、私が悪かった~~」
「偽物…?」
「石がないと私は何もできないんだ、助けてくれェェェ~~~」
それは哀願だった。
威厳を取り繕う余裕はもはや
だが、エドには弁解を聞く余裕すらなく、絶望に歪んだ表情でよろける。
「ここまで来て…やっと、戻れると思ったのに…偽物……」
懇願する老人に背を向け、その場に膝をつく。
かなりのショックのようだ。
突発的な出来事にコーネロは面食らう、しかし往生際が悪いことに、まだ虚勢を張る。
このあきらめない姿勢は、長所と言ってもよいかもしれなかった。
さすがはペテン教主、あきらめないことに関しては右に出る者がいないかもしれない。
(くくく…スキあり!!こうなったら、この小僧だけでも、ぶち殺ス!!)
そう画策し、変形した腕を掲げる。
「おい、おっさん。アンタよォ…」
「はいィ!?」
エドの漏らしたドスの利いた低い声が、後ろから襲いかかろうとするコーネロの動きを止める。
そして、地面に両手をつける。
「町の人間だますわ、オレ達を殺そうとするわ」
「え…?」
不意に建物が揺れ始め、
「「お?」」
屋外にいたキョウコとアルも振動に気づく。
「しかも、さんざ手間かけさせやがって、そのあげくが『石は偽物でした』だぁ?」
極めつけで無茶苦茶で理解不能なその光景に、コーネロは驚愕した。
「うわあ!!」
驚くのも当然と言えた。
なにしろ、部屋の壁を吸収して巨大な神の像が出現したのだから。
「ざけんなよ、コラ!!」
このエドを一言で表せば、目つきが悪い、ということに尽きる。
「神の鉄槌、くらっとけ!!」
コーネロのギリギリで、像の拳が振り下ろされた。
勿論、彼は気絶する。
「どーだった。エド」
こちらへ歩いてくる人影を見つけたエドは不満げに結果を話す。
「ハンパ物だ」
複雑そうな表情でキョウコは嘆息するエドの横顔を見つめる。
「ハンパ物…ってことは、偽物?」
「あぁ、とんだムダ足だ」
「…ちゃんと情報収集しておけば良かったね」
肩を落とすキョウコに視線を移してアルに話しかける。
「やっとおまえの身体を元に戻せるかと思ったのにな…」
「ボクより、兄さんの方か先だろ。機械鎧は色々、大変なんだからさ」
それぞれ溜め息をつく兄弟の会話を聞いて、キョウコは思う。
(二人ともお人好しってゆーか、兄弟思いってゆーか…)
すると、エドが微笑ましく見つめるキョウコの様子に気づいた。
「なっ…何笑ってんだよ、キョウコ」
「なんか改めて、仲いいなぁって……いいなぁ、兄弟…」