第1章 はじまりの夜
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(さっきの子達ね)
彼女と目が合うと、彼らはかすかに微笑んだ。
木の上から降り立ちながら、柔らかくみつめてくる。
「良かった……。ようやく笑ってくれたね」
そう言って彼女のほうへと指を伸ばす。髪を撫でる指は、冷たくも優しかった。
「えぇ、あなた達のお陰よ」
ふわりと微笑うと、ふたりは驚いたように瞠目した。
頬に朱を集わせみつめてくるふた組の紅玉の瞳を、エステラは戸惑った瞳で見返した。
「………? あなた達、どうかしたの……?」
そう呟くと、その瞳を覆っていたのような惑いのヴェールが消え去る。
「あぁいや……何でもでもないよ」
手にしていた籠のなかから一輪のアイリスを抜き取り、彼女の髪に挿す。
華やかなるその香りにその唇が綻んだ。
「…………。」
その花のような笑顔を優しい瞳でみつめてくる。
(なぜだろう。あなたが笑うと、………胸の奥が、)
可憐で愛らしい微笑に釣られて、唇に笑みをのせるフィルガ。
そんな弟の姿を視界の裾にとらえながら、ヴァレオもその瞳を解いた。
「君は毎晩ここへ?」
ヴァレオの問いかけにその睫が伏せられる。
密やかな笑みを湛えながら彼女は唇をひらいた。
「えぇ、………お母様が愛したお花を毎日持ってきているの」
告げながら、その瞳が柔らかなひかりを纏う。
そのひかりにふたりが魅せられていることに、エステラは気づいていなかった。
さぁ……と吹き抜ける風が花の匂いを巻き上げる。
花弁の雨に隠れる微笑に
なんだか彼女が儚く消えてしまいそうに感じて、ヴァレオは指を伸ばした。
「!」
指にふれる頬の感触は温かく滑らかで、彼女は生きた人間なのだと教えてくれた。
「っ………。」
その肌にふれたことで、頬がほのかな熱を帯びる。
彼女は恥ずかしそうに視線を解いた。
「またここで会えるかな」
フィルガの声にその瞳を見上げてくる。
その美しい瞳に彼らが囚われていることに気づかないまま、エステラは唇をひらく。
「えぇ、………待っているね」
満ちた月灯りに照らされる密やかな微笑。
もう一度 彼女のほうへと指を伸ばしかけた、その刹那。
遠くから、彼女の祖父らしき老人が彼女の名を呼んだ。
彼女はふたりに向かって淡く微笑み、老人のほうへと駆けていった。
………エステラ。
それが、彼ら兄弟が生涯にわたって、愛しつづた唯ひとりの女性の名である。
彼女と目が合うと、彼らはかすかに微笑んだ。
木の上から降り立ちながら、柔らかくみつめてくる。
「良かった……。ようやく笑ってくれたね」
そう言って彼女のほうへと指を伸ばす。髪を撫でる指は、冷たくも優しかった。
「えぇ、あなた達のお陰よ」
ふわりと微笑うと、ふたりは驚いたように瞠目した。
頬に朱を集わせみつめてくるふた組の紅玉の瞳を、エステラは戸惑った瞳で見返した。
「………? あなた達、どうかしたの……?」
そう呟くと、その瞳を覆っていたのような惑いのヴェールが消え去る。
「あぁいや……何でもでもないよ」
手にしていた籠のなかから一輪のアイリスを抜き取り、彼女の髪に挿す。
華やかなるその香りにその唇が綻んだ。
「…………。」
その花のような笑顔を優しい瞳でみつめてくる。
(なぜだろう。あなたが笑うと、………胸の奥が、)
可憐で愛らしい微笑に釣られて、唇に笑みをのせるフィルガ。
そんな弟の姿を視界の裾にとらえながら、ヴァレオもその瞳を解いた。
「君は毎晩ここへ?」
ヴァレオの問いかけにその睫が伏せられる。
密やかな笑みを湛えながら彼女は唇をひらいた。
「えぇ、………お母様が愛したお花を毎日持ってきているの」
告げながら、その瞳が柔らかなひかりを纏う。
そのひかりにふたりが魅せられていることに、エステラは気づいていなかった。
さぁ……と吹き抜ける風が花の匂いを巻き上げる。
花弁の雨に隠れる微笑に
なんだか彼女が儚く消えてしまいそうに感じて、ヴァレオは指を伸ばした。
「!」
指にふれる頬の感触は温かく滑らかで、彼女は生きた人間なのだと教えてくれた。
「っ………。」
その肌にふれたことで、頬がほのかな熱を帯びる。
彼女は恥ずかしそうに視線を解いた。
「またここで会えるかな」
フィルガの声にその瞳を見上げてくる。
その美しい瞳に彼らが囚われていることに気づかないまま、エステラは唇をひらく。
「えぇ、………待っているね」
満ちた月灯りに照らされる密やかな微笑。
もう一度 彼女のほうへと指を伸ばしかけた、その刹那。
遠くから、彼女の祖父らしき老人が彼女の名を呼んだ。
彼女はふたりに向かって淡く微笑み、老人のほうへと駆けていった。
………エステラ。
それが、彼ら兄弟が生涯にわたって、愛しつづた唯ひとりの女性の名である。
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