第1章 はじまりの夜
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ヴァレオ・ローゼリア伯爵とその弟、フィルガ———のちに
『花食 の兄弟』と呼ばれることになるふたりが恋を知ったのは、
今から七年も前のことになる。
それは夏の終わりの、月のさやかな晩のこと———。
さく、さくり。ふたつの靴の音が野花をかき分けていく。
手にしたランタンで足元を照らしながら、兄弟はダリヴの森へと足を踏み入れた。
木々には翡翠色の若葉が繁り、天蓋となって空を覆っている。
そよ風にゆれる葉の狭間から、蒼い月明りが降り注ぐ。
森の中は黒曜な染まり、草木の色を深めていた。
そこは白銀 いアイリスの群勢する美しい場所だった。
幾重にも花弁を重ねあわせた純白のアイリスが、辺り一面を埋めつくすように咲き乱れている。
華やかなる芳香を胸一杯に吸い込んで、ふたりせ持ち手付きの籠を掲げて目配せした。
一緒に持ってきた銀製のハサミで、アイリス達を一輪ずつ丁寧に手折っていく。
一ヶ所の花々だけを一斉に切り取らないように、時折立ち上がって場所を変えては、
できる限り優しく、残される葉や茎を傷めぬように。
黙々と手折っていると、先に籠を花でいっぱいにしたフィルガが兄を振り返った。
「兄さん、これくらいで充分かな」
手にした籠を大事そうに抱える。
そのなかは純白のアイリスで埋めつくされていた。
古ぼけた牛皮製のケースにハサミの刃を収めて、
そっと花をかき分けその隙間にハサミを入れ込む。
風で花弁が飛ばされないようその上にハンカチをかけ、フィルガは立ち上がった。
『
今から七年も前のことになる。
それは夏の終わりの、月のさやかな晩のこと———。
さく、さくり。ふたつの靴の音が野花をかき分けていく。
手にしたランタンで足元を照らしながら、兄弟はダリヴの森へと足を踏み入れた。
木々には翡翠色の若葉が繁り、天蓋となって空を覆っている。
そよ風にゆれる葉の狭間から、蒼い月明りが降り注ぐ。
森の中は黒曜な染まり、草木の色を深めていた。
そこは
幾重にも花弁を重ねあわせた純白のアイリスが、辺り一面を埋めつくすように咲き乱れている。
華やかなる芳香を胸一杯に吸い込んで、ふたりせ持ち手付きの籠を掲げて目配せした。
一緒に持ってきた銀製のハサミで、アイリス達を一輪ずつ丁寧に手折っていく。
一ヶ所の花々だけを一斉に切り取らないように、時折立ち上がって場所を変えては、
できる限り優しく、残される葉や茎を傷めぬように。
黙々と手折っていると、先に籠を花でいっぱいにしたフィルガが兄を振り返った。
「兄さん、これくらいで充分かな」
手にした籠を大事そうに抱える。
そのなかは純白のアイリスで埋めつくされていた。
古ぼけた牛皮製のケースにハサミの刃を収めて、
そっと花をかき分けその隙間にハサミを入れ込む。
風で花弁が飛ばされないようその上にハンカチをかけ、フィルガは立ち上がった。