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ぼくには友達がいないのおまけ



「……やあ、君か」

急に部屋が寒くなったと思って目を覚ませば、客間の天井にいたずらっ子のような笑顔が貼り付いていた。普通ならここで悲鳴をあげて布団から飛び起きるものだが、この家で暮らしているのはゴーストタイプ専門ジムの跡継ぎで、私はその友人であった。今さら動じるものでもない。

「すまないな、ビリリダマもスリープも寝てしまっているんだ。そして何より私も眠い」

私が起き上がることなくやんわりと声をかけると、やがてゴーストはしょんぼりとした様子で天井からぬるりと抜け出した。あれはマツバの手持ちのなかでいちばん好奇心が強くて、そしてさみしがりやなゴーストだ。久々の客人やそのポケモンと遊ぶのを楽しみにしていたのだろうか。

「……明日になったらみんなで遊ぼう。約束するよ。だから君も今日はおやすみ」

日中出掛けていたのは私が言い出したからだ。かわいそうになってしまってそう続けると、ゴーストは途端にニカッと笑った。大きな目と口で形作られる表情は分かりやすくコロコロと変わり、コミカルで可愛らしい。宙に浮くふたつの手を、ばいばい、とでも言うように私に向かって振った。やがて冷えた空気とともに生き物の気配がすうとなくなると、部屋は完全な無音に包まれた。エンジュの街の眠りはあまりに深い。二度と目覚めてくれないのではないかと不安になる。

(……マツバには、)

いないのだ。例えばこんなふうにどうしようもなく寂しい夜に、その気持ちを素直に打ち明けられる相手が。

「…………」

まだ、いないのだ。それを本人の口から言わせて、どうしようもなく胸が高鳴った。最も近くにいるのは誰かを認めさせようとして、どうしようもなく胸が痛んだ。綯交ぜになった真逆の感情にめまいがして、布団を頭まで被る。

「ああ……」

いったい自分はなにがしたいのだろう。彼を宝物のように隠してしまいたい。鍵をかけてしまってしまいたい。とられる前に食べてしまいたい。ショートケーキの苺みたいに、プリンアラモードのさくらんぼみたいに。彼が周りとの違いに壁を感じて、同じように自分からも壁を作ろうとしてしまうのなら、偶然近くにいた私だけがその内側に滑り込んでしまえばいい。そんなことを思ってしまう私は、悪い人間だろうか。

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