20.5話
夢小説設定
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春の暖かい日に霊和ちゃんに会えたのは本当に偶然だった。
"敵"が出たと知り合いの警察から連絡を受け、"敵"が見える図書館の裏手で隠れて見ていた。
"敵"は口から火を吹いて銀行を燃やしている。ヒーローは"敵"確保と火の鎮火で忙しい。
辺りを見回しながら怪しい人物を探す。しかし道路には野次馬がいるため混雑して見辛い。
また手掛かり無しかと諦めかけていた。
その時僕達のすぐそばで急に声が聞こえた。
青々しい木を挟んで反対側に髪の長い女の子が一人で立っていた。
『最近"敵"多いなぁ。この後かっちゃん達と会う事になってるから速く片付けよ!』
前回、前々回会う時同様、女の子らしい可愛い服を着た霊和ちゃんだった。
霊和ちゃんはプリプリと怒りながら、スカートのポケットからコインみたいなものを取り出し腕時計の溝に入れた。
『私の友達、出てきてわすれん帽。妖怪メダルセット・オン!』
すると腕時計から虹色の光が出た。
『わすれん帽、あそこで暴れている人に取り憑いて。』
"敵"を指差し、何もない空間に懇願する。
何かが"敵"に向かったのだろう。霊和ちゃんが"敵"を見続けていたので僕も注意深く霊和ちゃんを観察しながら"敵"の様子を窺う。
すると驚く事に暴れて口から火を吹いていた"敵"が動きを止めた。"敵"はぼーっとして辺りを見回している。
何が何なのかわかっていない顔をする"敵"をヒーローが捕まえる。
『あとは火を消すために、出てきて雨ふらし!』
またコインらしきものを腕時計に入れ、何もない空間に雨を降らしてと頼んでいる。
なんと天気まで変えられるようだ。
ザーザー降りの雨が燃えている火をゆっくりと消していく。
ヒーロー達も水の個性を使って火を消していく。
暫くすると鎮火した。
『わすれん帽、雨ふらしありがとうね!
よし、帰ろっか。』
霊和ちゃんはコインをポケットに仕舞いながら、見えない何かに同調するようにそうだね。と言ってここを去ろうとする。
次に霊和ちゃんに会えるのはいつかわからない。だからいなくなる前に僕は霊和ちゃんに声を掛けた。
「霊和ちゃん、だよね。」
『っっ!!?』
肩を揺らして勢いよく僕の方を向く。
『な、なんだ…根津と同僚さんかぁ。ビックリした~。人間だったらどうしようかと思ったよ…。』
「…イレイザーだ。」
いつも通り一緒に見張っていた相澤くんはいろいろ突っ込みたい所があったようだが声を押し込み、同僚という単語を訂正した。
『イレイザーっていうんだね。よろしく!』
「…。」
僕の時もだったが霊和ちゃんは他人に敬称を付けないのだろうか?
「君は気付いていなかったみたいだけどずっと隣にいたよ。」
『うぇ!?そ、そうだったんだ…。
……。
教えてくれればよかったのにぃ…。』
後者の言葉は僕達にではなく、何もない空間に対してだった。
そこに以前紹介してもらった3つの中の1つがいるのだろう。
「偶然見ちゃったのだけど、先程の"敵"は君が?」
『…う?見てたんじゃないの?』
失言してしまったようだ。
しかし霊和ちゃんの言葉から霊和ちゃんが人成らざるモノ…つまり"妖怪"を使ったのだと理解した。
「うん。霊和ちゃんが指示してたね。
素晴らしい連携だったよ!」
『二人が助けてくれたからね。
私はまだヒーローじゃないから表立って動くことは出来ないし。』
えへへ。と苦笑する霊和ちゃん。"妖怪"に慰められたのだろう、ありがとうとお礼を言っている。
「君は…今までもこうやってヒーローの手助けをしていたのかい?」
『うん。人間には絶対に見付からないようにこっそりと隠れてね。
見付かったら怒られちゃうもん…。
でも、それでも困っている人がいるなら助けたい。見殺しには出来ないよ。』
真っ直ぐな目をして僕を見ながら言い切った。
「そうかい…。
なら、約束してくれるかな?」
『?』
「ヒーローになるまで無茶はしないこと。」
『ヒーローになったら?』
「ヒーローは多少無理をしなくちゃいけない時もあるからね。僕が止める事は出来ない。だがヒーローになるまでは決して危ない事はしないで欲しい。」
『…わかった!』
「約束だよ。」
『うん。ヒーローになるまでは無茶しないよ。』
僕は自然の流れだと思い小指を差し出す。しかしすぐに小指が交わる事はなかった。
僕の小指を見た霊和ちゃんはキョロキョロと辺りを見回す。
「どうかしたかい?」
素肌に触れるのは無理なのか。
若干の焦りが心臓の動きを速める。
『あの、いや、誰もいないかなって。
私に触れると、その、妖怪だけじゃなくて幽霊も見えちゃうから…。
驚かせたら悪いなぁって…。』
そういえば霊和ちゃんの個性は人成らざるモノを見る個性だった。
この子もこの子で個性で苦労しているのだろう。
『誰もいないみたい!』
出したままだった僕の小さな小指に、女の子特有の細い小指が絡んだ。
僕は目を霊和ちゃんに向けながらも視界の中に白いものと水色のものが映り込んでいた。
「約束してくれてありがとう。」
『うん!』
小指を離すと、ずっと後ろで見ていただけの相澤くんが霊和ちゃんに向かって小指を出した。
『イレイザーも?いいよ。』
小指が絡んでいるのを横目で見ながら先程見た白いものと水色のものを思い出す。
アレが妖怪なのだろう。
人間とは全く違う形をしていて両方とも浮かんでいた。そして視界の角に真っ赤な猫もいた。
3つとも小指を離した今は見えていない。霊和ちゃんと触れていた時のみ視えたのだ。
相澤くんも小指を離し、目で合図を送ってくる。
「確か君達はこの後何か用事があったんじゃないかな?」
『…あっ。』
目を見開いて顔が強張る。
『速く帰らないとっ!かっちゃん怒ってる…!』
慌ててバイバイと手を振って霊和ちゃんは消えた。
文字通り"消えた"のだ。
「今消えたのも妖怪のせいかな?」
「信じがたいですが俺も目の辺りにしました。"妖怪"…、だいぶ想像とは違う容姿をしていましたね。」
「こう言っていいのかわからないが面白い顔だったね。」
「……否定は出来ません。」
相澤くんの受け答えに笑ってしまう。
さて、今までの"敵"の不可思議な行動についての原因がはっきりと分かった。
原因は霊和ちゃんと"妖怪"だ。
僕はこれからどうしようかと思考しながら公には発表しないと決めた。
H30.04.09