暗の知略に招かれる戦

・・・ダアトの驚異は預言を基にした求心力。その求心力が一番大きく向けられるのは導師という存在。その存在から人類滅亡などと聞けば、まず人々は半信半疑だろう。第七譜石の効果は薄いと思われるが重要なのは預言の真偽を民に問う事ではない・・・ハッキリとイオンとモースの意見の違いを人々に示す事だ。

イオンは預言を詠まない方がいいと言うのに対し、モースは頑なにその預言は嘘だと声高に否定し続けるだろう。そうなればまず不仲だとの話くらいはすぐに周りに伝わる。

そんな中でマルクト・キムラスカの連合軍に圧倒的戦力差を見せつけられ、今までケセドニア経由でマルクトより買っていた食糧を差し止められ兵糧攻めにあえば、当然内部分裂を引き起こしている組織の実態に不安をダアトの人々は覚えるだろう。そうなれば不安に駆られダアトを脱する面々が出て来る事はどうしても避けられない。最初は揺るぎない心を持っていてもそこは人で、不安定な環境に居続ければ大抵は崩れ落ちていくもの。

・・・人という国を作る土台がなくなる。そこまで行けば組織の瓦解は相当な物だが、そこで更にNo.1とNo.2が殺しあって共に死んだとなれば、かろうじてダアトに残っていた人々は戦う意味も意欲もなくなるだろう。かろうじて残っていた指導者の指し示す大義達成に向けての心はもうそこにはないのだ。イオンの代わりが務まる程の余程のカリスマがいれば話は別だろうが、ダアトにはそんなものは存在しない。故に求心力を失ったダアトが使えるのは、精々降伏という手段くらいだ。

・・・その上で更にダアトの戦意を無くすと同時に、イオンを死亡扱いにする方法を行う。それは導師と大詠師の相打ちの現場をアニスが唯一目撃するという状況に設定して、その場面のことを事細かに報告することだ。そこでイオンが死んだ被験者イオンのレプリカだという事実、そのレプリカを作る指示を出したのがモース、そしてイオンはレプリカの宿命通り光となって消えたという最後の嘘・・・それをアニスがイオンが死ぬ前に話したと報告すれば、それで万事は解決する。導師が死んでいて今の導師がレプリカだったという事実を知らされていなかった詠師陣は、一層組織の方向性を見つけられず戸惑うだろう。

そしてその中で実は生きていたイオンは、人の目を避けながらもゆったりとマルクトに行けばいいのだ。入れ代わるようにダアトに入り、パッセージリングを操作してそれから戻って来るルークを先に待つように・・・






「まぁ前も持ったんだし、ヴァンは別にこのまま連れていって大丈夫だよね」
「死ぬことはないだろ。まぁ別に死んだって構わないんだけどな、妹連れて来ればいいだけだし。持ったら持ったでサクッとやってやるよ・・・官兵衛が」
「何故小生?・・・まぁそれくらいは構わんよ。別に断る程でもない」
ザオ遺跡の帰り道、ルーク達は楽しそうにヴァンの始末の事を口にしていく。官兵衛もいきなりのフリに別に何故じゃあと口癖を叫ぶ事もなく、普通に対応する。



・・・もうヴァンに対し思う所などない二人にとって、ヴァンは邪魔な存在以外にない。それに官兵衛の策が全て終わり世界が変わった後でも尚レプリカ世界の建立を諦めきれないのは目に見えているため、あえて生かす意味もない。それ故にこのセフィロト巡りが終わった暁には兄妹共々仲良く首を並べてやろう、などとイオンも含めルーク達は思っていた。



(この旅が終われば小生の枷も外れる・・・そう思えばこの旅も悪くはなかったな)
そして一人官兵衛は手の枷を見て、全てが終わった後の事を思い少しにやける。次元を飛び越えた先にいたイオンに手枷の鍵を握られ策を練るよう命じられた時は自身の不幸をまた呪ったが、今の旅はなんだかんだで楽しいと官兵衛は感じていた。そして策を順調に成せば成す程枷が取れる日も近づいて来る・・・そう思えば、口元が緩むのも無理はなかった。












・・・ただ官兵衛はその時思いもしてなかった。順調に全ての策を成し遂げ、ヴァン達を片付けた後手枷から解放されると思っていたのにそれがなされないという事態を。
「何故じゃあぁぁぁぁぁぁっ・・・!!」
・・・そうだとわかった瞬間、またこの言葉を口に出すと官兵衛は想像していなかったという事も追記しておく。



END









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