「そなたが何故ヴァンの元に行ってキムラスカにずっと戻らずにいたのか・・・わからなくもない。だがそれなら何故マルクトの民を無惨に殺しておいて、キムラスカに戻ってこれた？それも贖罪もまともにすることもなく、今この場に」
「それ、は・・・」
インゴベルトがそんな心根の甘さを突く言葉を出すと、案の定命惜しさにここになりふり構わず戻りましたなどとも言えないアッシュは視線をさ迷わせる。
「・・・本来そなたがやったことはキムラスカからダアトへの亡命に他ならない、ということは分かっているのか？それはすなわち、キムラスカを見捨てたということだ。しかしそんなそなたが先程言ったような暴挙を起こした上でここに戻った・・・恥知らずと言われて当然の上、忘恩の徒とすら言われても当然の事だ。それがわからんというなら尚更、な」
「・・・返す言葉がありません」
・・・本来亡命とは国を捨てる行為。自らの意にそぐわない形でかどわかされたとしても、自ら亡命したに等しいと見て取れる行動を取ったなら弁解の余地などない。
反逆者とすら言ってもいいアッシュの暴挙を正確に告げるインゴベルトに、反論はおろか自己弁護すら出来ずに凹みうなだれるアッシュ。
「・・・ここまで聞けば分かるだろう。わしがそなたを信用していないのは」
「・・・はい」
大分弱ったその姿にインゴベルトは改めて信用が無いことは分かっているかを問い掛け、力無い肯定をアッシュは返す。
「だが同様にわしが導師やマルクトと協力関係にあるのも、『アッシュ』の事を知っていたのもわかるであろう」
「・・・はい。ただ、一つ聞いてよろしいでしょうか？」
「うむ、なんだ？」
だがイオン達との協力関係の事を耳にして、アッシュは少し顔を上げ疑問を口にする。
「バチカルに戻る前、導師からマルクトとダアトで戦争をするための証言者となるよう言われました・・・もしや叔父上も俺がそうなるよう証言して、そうなることを望まれているのですか・・・？」
「無論だ。むしろそうでなければ導師達を援護するような発言はしない。だが今更何故そなたは戦争を反対するような事を言う？ヴァンの元で戦争になりかねん程の事件を引き起こしておいて」
「っ・・・戦争を反対、という訳ではありません。ただ何故導師がダアトを攻める事を望んでいるのか、ということが気になっているのです・・・」
アッシュの疑問はまぁ妥当、と言えるだろう。トップが自らの国に大国を攻め込ませる道理がどこにあるのか、普通はまずまともな考えではイオンの真意には到達出来ない。
「わしは導師の真意を知ってはいる・・・だがそなたに導師の真意を教える気はない」
「っ！何故、ですか・・・？」
だがインゴベルトは思わせ振りに話ながらも説明を拒否するよう突き放し、アッシュは怒りを理不尽だと言わんばかりに感情を抑えながら訳を問う。
「だから言ったであろう。わしはもちろんだが、導師もピオニー陛下もそなたを信用はしておらん。それが単純にして一番の理由だ。それ以外に理由が必要か？」
「うっ・・・」
信用がない、改めて告げられた言葉に即座にアッシュは勢いを失う。
「なのに何故そなたに国会間での重要機密に関わることをあっさりと教えねばならん。それにそなたは不満を言えるような立場ではない。もしこれ以上まだ何か言うようならもう一度マルクトにそなたを引き渡してもいいし」



「ナタリアに『アッシュ』のやったこと全てを明かして、婚約を破棄するよう持って行っても構わんのだぞ？」










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