暗の知略に招かれる戦

「・・・さぁ、モースは退出した。今度は和平の事について聞こうか」
「はい。詳しくはこちらの書簡に・・・」
モースの姿が見えなくなった瞬間、インゴベルトはマルクトの目的の一つでもある和平の事を口にする。一応周りの兵士達に対して体裁を考えてのことであるが、ジェイドはピオニーから預かった書簡をアルバインに手渡す。そしてアルバインはインゴベルトに近付き、うやうやしく書簡を手渡す。
「・・・うむ、確かに受け取った。和平については今から貴族を集め協議しようと思う。諸君らは部屋を用意するので存分にくつろがれるとよい」
「心遣いありがたく承ります」
「・・・私はモースとともにダアトに戻るべきでしょうか」
書簡をもらい労をねぎらうインゴベルトにジェイドは丁寧に頭を下げるが、イオンは複雑そうに悩む姿を見せる。
「まぁ和平はまだ締結するとは決まっておらんのだ。モースにはわしが和平の行く末を見届けさせる為にここに残らせたと伝えておくから、導師もここに残られるがよい」
「・・・ありがとうございます」
そんなイオンに内心はモースに押し付ければいいだろうと思いながら、インゴベルトは和平がどうなるかまではここにいるよう告げイオンも悩みはするが即決で頷く。
「・・・あぁ、『ルーク』。そなたは少し残りなさい。貴族達が集まるには少し時間がかかる、その間そなたの話を聞かせてはくれんか?」
「っ・・・はい、わかりました」
そして全員退出するかと入口に向かいかけた時、インゴベルトはアッシュを呼び止め話をしたいと言い出す。アッシュは一瞬惑いはしたものの、断る事が出来ず了承を返す。
(そのトサカ頭の処遇は貴方にお任せしますよ、インゴベルト陛下)
その時アッシュの背後でイオンはハッキリと笑った、もはや邪悪とすら言える程の清々しい笑みで・・・












・・・そして謁見の間から退出したインゴベルトはアッシュを引き連れ、自身の部屋でアッシュと向かい合う。
「さて・・・随分と苦労をしたな、『ルーク』」
「いえ、そのようなことは・・・」
まずはインゴベルトにいたわるよう声をかけられ、アッシュは緊張しているかのよう声を強張らせる。



「それで、自身の手でマルクトの兵士を殺した感想はどうだった、『アッシュ』?」



「!?」
・・・だがインゴベルトにはアッシュをいたわる気など、それこそアッシュの額の後退していく毛頭程ない。『ルーク』呼びから『アッシュ』呼びという事実を知っているという突き付けを空気を重い物にしながらインゴベルトは行い、アッシュは驚くしか出来ずに目を見開く。
「どうだった?・・・と、聞いているのだ、アッシュ。早く答えよ」
「・・・知ら、れていたと、言うのですか・・・そのことを・・・」
「何を勘違いしておる。導師とマルクトがその事実を掴んでおるのに、我がキムラスカだけにそれを教えずにいると思ったか?・・・もしや『アッシュ』として活動していたことがばれないと踏んだから、そなたはバチカルに帰ってきたとでも申すつもりか?だとしたら、とんだ恥知らずよ」
「・・・っ!」
更に詰め寄られアッシュは愕然ととぎれとぎれに言葉を搾り出すが、痛烈に甘い心根を罵倒するインゴベルトの言葉にアッシュは言葉を失う。



・・・インゴベルトは過去に戻るまで、アッシュがタルタロスでマルクトの民である兵士を殺した事を知らなかった。その上で今回も罪人が変装していたとは言えマルクト兵士を殺し、のうのうと自らの命惜しさにここに来た。

それはインゴベルトから言わせれば自らの命と立場さえ擁立していればマルクトはおろか、キムラスカすら蔑ろにした侮辱行為に等しかった。









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