暗の知略に招かれる戦

(ふふ・・・この樽豚がここまでうろたえる姿は見ていて滑稽ですね。これも官兵衛の策のおかげです)
そんなモースを目の当たりにし、イオンは喜色を浮かべるのをこらえながらこの策を練った官兵衛に感謝する。



・・・マルクトとダアト間で戦争するにあたり、絶対条件としてダアトがどんな手段を持ってしてでも戦争を回避するような事態を避けるべきだと官兵衛はイオン達に語った。その上で搦手として重要なのが、タルタロスと一緒に片付けられた六神将を筆頭とする神託の盾の死の事実を何があっても隠蔽することだと。

・・・マルクトがダアトに向けて出した戦争回避に必要な要求。これはまぁ妥当な要求と言えるだろう。慰謝料に首謀者に実行者達の差し出し・・・これらはなんら被害者の要求としては間違っていない。だがここで一つ、官兵衛の目論見が光る。それは実行者の神託の盾がもうこの時点で影も形も姿がないことだ。

モースの考えからして確実にダアトを守る為、いかなる手段を用いてでも六神将の乗るタルタロスを見つけ、罪を六神将だけになすりつけマルクトに引き渡そうとするだろう。だが六神将は文字通り木っ端みじんとなった・・・タルタロスとともに。実行者がこの世にいない。なのにそれを見つけだす事など出来るはずがない。故にマルクトからの要求は叶えられない・・・つまり、戦争は避けられないという事に繋がる。

更に言うならこの実行者を差し出すまでのヴァンが人質として扱われる状況・・・これもモースにとって致命的である。言ってみればモースは高見の見物をしながら指示を出す以外に能のない、喋れる豚程度にしか動けない人物だ。実力行使の得意な六神将にヴァンという手足をもがれた現状で、効率的な人の使い方など出来はしない。ヴァンだったならまだこの現状で一か八かの危険を伴いはするだろうが、なんらかの策を練れただろう。しかしモースは策などとは縁遠い預言に沿った事しか考えられない生き物だ。まず預言外の危機に対しての処理方法など思いつきは出来ない。

・・・頼るべき実行者を失い、逃れようのない戦争への道筋・・・モースはどうにかマルクトとの戦争を避けようとするだろうが、もうダアトは堕ちるしかないのだ。預言という名の妄執とともに・・・



「・・・ならば導師よ、何故そなたはこちらにまいった?そなたの言葉に従うならダアトはそれこそ一大事であろう。バチカルに来た意味はなんだ?」
そんな二人のやり取りに割って入り、インゴベルトは疑問を口にする・・・事実はモースに戦争への道筋を明らかにするためだとモース以外は知っているが、一応の訳をイオンは話す。
「・・・ダアトがマルクトへの害意を疑われているとは言え、導師の私はマルクトに和平の仲介を乞われました。ピオニー陛下はバチカルに行きマルクトが和平を望んでいると伝えるまでは先の引き渡しには期限を設けないと言われた為、元々の役目を果たす為に今この場に来た次第です」
「成程」
「・・・っ・・・!」
責任があると言うイオンの言にインゴベルトは納得するが、反面イオンの傍らのモースは脂汗が一層吹き出している。まぁイオンがこのバチカルに来た時点で既に引き渡しの期限がカウントダウンされるのだ、当然と言えば当然の焦りだ。
・・・そして更にその焦りに駄目押しをすべく、インゴベルトはモースに視線を送りつつ告げる。
「・・・モースよ、なんとしても六神将を見つけよ。危うく『ルーク』が殺される所だったのだ。それがどのようなことを意味しているのか・・・そなたもわからぬ訳ではないだろう。この問題は『ルーク』が襲われた事でキムラスカも無関係ではなくなった。もし六神将を見つけられなかった場合によっては、わしも然るべき処置を取らせてもらうぞ」
「!!」
さりげに預言の事を匂わせるような静かな怒りが佇む物言いは、モースに『アッシュ』のことでインゴベルトは怒っているのだと錯覚させた。
「は、はっ・・・」
「ではモース、そなたはもう退出せよ。一刻も早く六神将を見つける為にもな」
「はい、かしこまりました・・・」
事実は全く違う・・・アッシュのことで怒ってなどいない。ただインゴベルトは釘を刺しただけなのだ。条件を満たせなかった時は自分も参戦するという風に言質をモースに覚えさせる為に。だがモースはそう裏を読む事など出来るはずもなく、力無く一礼して謁見の間を退出していった・・・










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