暗の知略に招かれる戦

キムラスカの首都のバチカルの城の謁見の間・・・その場で玉座に座っていたインゴベルトは目の前に立っている大詠師モースと対話していた。
「ですからマルクトは戦争の準備をしております・・・」
以前のようにキムラスカとマルクトを戦争をさせるため、ただマルクトが悪となるようひたすら証拠のない論を話すモース。
(愚かな・・・)
その光景を冷ややかに見据えるインゴベルトは感想をただ一言心の中で呟く。
(・・・そろそろだな)
半ばこのやり取りに飽きていたインゴベルトは以前から考えてルーク、いや正確には『元アッシュ』を引き連れイオンがやってくるだろうと考えていた。



‘ゴォォォォォォッ’
そしてさほど時間も経たない内に、謁見の間の扉が低く重い音をたてて開門する。
「・・・お話し中失礼します、陛下」
「ど、導師イオン・・・お、お探ししましたぞ・・・」
フリングスを除いた面々が中に入って来てジェイドが口を開く中、やはりモースはイオンが来る事は想定外だと言わんように動揺する。
(まぁこれからもっと動揺するのだがな。比べ物にはならんほどにな)
目の前のイオン達とピオニーと既に協力関係にあるインゴベルトは目に浮かぶ、預言などとは関係ない騒乱が起こりその騒乱によりモースが顔面蒼白になってしまう光景を。そしてそれを実現すべく、インゴベルトは白々しさを微塵も感じさせない演技を切り出す。
「おぉ、久しぶりではないか導師。して・・・見たところヴァンの妹によりマルクトに飛ばされたルークがいるようだが、どのような用件だ?」
「「・・・っ!」」
早速のチクリと来るインゴベルトの指摘にモースと、アッシュの体がビクリと揺れる。
「私はマルクト皇帝のピオニー陛下に乞われ、キムラスカとマルクトの和平の仲介の為このバチカルに参りました・・・ですが、その役目も無事果たせなくなりました・・・」
「・・・?」
「・・・どういうことだ、導師?」
イオンはその質問に答えるが途端に悲しそうに目を伏せ、モースはなんなんだとイオンを見る。その先に出る言葉は何なのか、既に理解しているインゴベルトは疑問の視線を浮かべ先を促す。



「・・・率直に申し上げます。マルクトはダアトに向けて実質的な開戦宣言をしました」



「!?」
・・・開戦宣言、マルクト・ダアト間で戦争を行う。口に出された預言にないかつてなき危機に、モースの顔が驚愕に歪み一気に脂汗を滴らせる。
「それは、どういうことなのだ!?」
「・・・その件につきましては私から説明します」
インゴベルトも表面上で驚き声を張り上げ、ジェイドがイオンの横に立ち説明役を買って出る。
「・・・我々は先日導師を伴い、キムラスカに和平に向かおうとタルタロスをカイツールに向け走らせていました。その際にこちらにおられる『ルーク様』を見つけタルタロスにお乗りいただき、共にキムラスカに向かっていたのですがこの時・・・我々は神託の盾の襲撃を受けました」
「!?」
・・・以前にはなかったまさかの神託の盾襲撃の暴露。その事実が明かされ、モースはまさかと細い目を見開く。



・・・そもそもの話でマルクトがダアトをタルタロス襲撃で訴えなかった理由の大半は、預言を詠む大元と事を荒立てたくなかった事に他ならない。下手に戦争という事になれば預言を詠む預言士などはダアトにさっさと引き上げてしまい、預言が詠まれない環境に業を煮やした民衆が不満をマルクトにぶつけかねないのだ。それに一応導師を連れ出したのはマルクト側で、変に考えがない行動を取れば大義は一気にダアトに傾く。故にマルクトは慎重を持してタルタロス襲撃に関して抗議するでもなく沈黙をした。

・・・だが今は違う。官兵衛の知略とトップ全員の影の提携、この二つが組み合わさった今ダアトを世間的な悪と見せる事は可能となった。







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