暗の知略で望む乱

「だからこそマルクトにルーク様はこうやってせめてもの慈悲にと、お前さんにガルディオス復興する気はないかと持ち掛けて来たんだ。ただし、そうするならお前さんはもう『ガイ・セシル』として生きる事は出来ん。ただマルクトからの申し出を断ったなら『ガイ・セシル』はマルクトに行って以降、消息を絶った・・・などという風になるがな」
「・・・その選択肢次第じゃ、『ガイラルディア・ガラン・ガルディオス』という人物も同時に死ぬ、か・・・」
「そういう事だ」
うなだれるルークを見るガイに官兵衛は慈悲という言葉を使いつつも『ガイ・セシル』という人物の死亡を前提に選択肢を上げ、その先に何があるかを否応なしにガイに理解させる。
「・・・まぁ小生からの話はここまでだ。後はここのお偉いさんが来たらどうするかの旨を伝えることだな。小生はあくまで伝言役だ、どうするかの意見を聞くのは役目じゃない」
「待って!せめて、せめてイオン様に取り次ぎをお願い!」
重い決断を迫られ顔を落とすガイに、これ以上今は関わる理由もない官兵衛は場を締め立ち去ろうとするが、途端にティアは必死に生き返ったよう格子を掴みイオンとの面会を求める。
「もう導師はカイツールに向かってる、今更こっちに連れ戻すなど出来んよ。まぁ心配するな。いずれお前さんはまた導師の元に行く事になる。その時まではここで過ごすんだな」
「・・・そんな・・・」
だが官兵衛は実際イオンがここにいないのも併せ会えないと告げ、心配するなという言葉とは真逆に声色冷たくあしらう・・・イオンと話せばなんとかなるとか思っているのだろうが、会った時によりボロボロにされる。むしろここにいる方がどれだけ安全か・・・そんなことを官兵衛は思いながら。
「・・・行こう、官兵衛。そろそろ戻らなきゃいけないからな」
「御意」
「・・・ルーク・・・」
一通り終わったことを確認しルークは悲痛そうに顔を上げ、出ようと切り出す。官兵衛が簡潔に返しルークとともに外に出ようとすると、後ろからルークの名を名残惜しそうに小さな声で呼ぶガイの声が二人の耳に届く。だが二人は一切振り返る事なく、退出していった・・・



「・・・お帰り。どうだった、経過は?」
「上々!これも官兵衛のおかげだぜ!」
セントビナーの宿の一室、シンクの取った部屋に戻ってきた二人。ベッドに腰掛けていたシンクがどうだったか問うと、先程とは打って変わり大層いい笑みでルークは官兵衛の腕を組み答える。
「お、おい!腕を取るな!重心がズレる!」
「いいじゃん、ちょっとくらい!」
だが手枷をつけられ片方の腕を取られればバランスが崩れるのも当然で、官兵衛はよろけながら声を上げるがルークは至って気にした様子もなく一層笑むばかり。
(こんなふうに懐かれてるからイオンに睨まれるんだよ、官兵衛。でもまぁルークを悲しませたりしたら間違いなくイオンは殴り倒す所だし、難しいとこだよね・・・)
その光景を見ながら、シンクは目の前の不幸体質の男に少なからず同情する。



・・・イオンとルークは互いに好意を持ち合っている。だが正味な話、イオンが肉欲も含めた愛に対してまだルークは親愛程度の愛くらいなものだ。それにイオンに対してルークは自らスキンシップを取ったりはしない、イオンが自ら取って来るために。だがルークは距離を取っている官兵衛に対し、自らスキンシップを取りに行っている。結構なボディタッチで。

・・・自らにはそうしてくれないのに、何故官兵衛にはそうするのか。イオンからすれば面白くない事だが、かと言ってそれはルークには言えない。結構な性格になったイオンが取る手段は、せいぜい官兵衛への八つ当たりなものだった。



(何故じゃ・・・何故じゃあぁぁぁぁぁぁ・・・!!)
・・・こうやって親しみを持ってくれるルークを官兵衛は嫌いではない。だがそのスキンシップに付随してくるのがかつて自らが倒した魔王以上で自分以上の実力を持つ少年の一方的なボコ殴り・・・今は幸せだがいずれ幸せ以上の不幸せが確実にやって来る・・・ただ官兵衛は最早口癖となっているその言葉を、心中で思い切り叫ぶこと以外何も出来なかった・・・



END










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