暗の知略で望む乱

「っ!?・・・なっ・・・何故だ!?何故そんなことを!?」
告げられたマルクトの決定事項にガイは一瞬呆然としながらも、不当だと言わんばかりにがなりたててくる・・・何を立場を忘れてそんな事を堂々と言える、官兵衛は深い溜息を吐き訳を説明していく。
「・・・マルクトが下手に戦争の火種になりかねん、不安要素をキムラスカに戻してはならんと考えた為だ」
「だからってなんで俺が!」
「・・・お前さんが知ってるかどうかはわからんが、近々キムラスカとマルクトで和平が結ばれることとなった。それはもう決定した事だ」
勢いよく噛み付くガイに官兵衛は予測ではない、和平が成功すると断定した物言いをする。まだ和平に向かうイオン達はキムラスカ領にすら入っていない、というのに。だがその断定の仕方の不自然さにガイもティアも口を挟めない。
「そうなれば当然国交という物があり、外交上の問題も出来る限り穏やかに進ませねばならん。だがそうやって折角和平をうまくいかせ、平和な日々を作るはずだった二国の間にそれを打ち砕く事件が起これば当然戦争という結果がついて来る・・・そう。ガルディオスがファブレを滅ぼした、となればな」
「っ!?」
「言っておくがお前さんの目的はもう復讐以外はないとマルクトは検討がついているぞ。というよりファブレに滅ぼされたガルディオスがあえてファブレに潜り込む理由など、良からぬ目的以外に検討がつかん訳ないだろう・・・ちなみにこちらのルーク様ももちろんお前さんの目的は知っている。知った上でこうやって、黙っているんだ」
「!?・・・そう、なのか・・・ルーク・・・」
「・・・ああ」
壮大に話されるガイの悲願の暴露にルークも引き合いに出す官兵衛。ガイはそう告げられ今更自身に対しまだ信じてくれていると望みを託すその力無い声に、ルークはうなだれたまま肯定を返す。しかしその表情には先程同様に冷たさしかない。



・・・マルクトとダアトによる戦争、これがイオンが望み官兵衛の策略によって立てられた目的の最大の目玉である。だがそれには裏にキムラスカがマルクトを支援、もしくは共闘体制で戦うというマルクトにとってとても有利な条件が必須になってくる。何せインゴベルトもピオニー同様、ルーク達とともに過去に戻って来ているのだ。それを利用しない手はないし、インゴベルトも協力は間違いなくする。そんな好手を使わないなどそれこそ愚昧の輩と言ってもいい。

だがそれには大前提としてキムラスカとマルクトが良好な関係を築けなくてはならない。そんな時にファブレの家に戻したアッシュと同じくファブレの家に戻ったガイが鉢合わせれば、下手を打てばガイがファブレへの復讐の気持ちを再燃しかねない。

もしダアトとの戦争を終えた後でも前でもどちらでも、事を起こされたら厄介な事この上なくなってくる。いくらなんでもファブレという王族でキムラスカ軍内でも大いに幅を効かせる一族を根絶やしにすれば、過去を知るインゴベルトにピオニーでも事態の収集は出来なくなりキムラスカ・マルクトの戦争という預言を彷彿とさせる展開に陥ってしまう可能性が高い。

ガイの事だ・・・マルクトに戻ってガルディオスになることを考えてしかいない為に、自身の存在がマルクトにあることが火種になるとは考えてすらいないだろう。

ならガイをいっそこちらに取り込むかと官兵衛は提案したが、それはルークにイオン、それにピオニーにも却下された。ルークとイオンはガイを仲間としての価値を見出だせないという事からであるが、ピオニーからしてみればあえて取り込む程の価値がないとガイと接して来て感じたからである。

・・・何せまともにこなせる執務など貴族の名が必要な署名の判を押すだけの、至って簡単な仕事以外ほとんどこなせない。ブウサギの世話だけならまだいいが、それ以上の公務は経験もなく的外れな意見ばかり言い他の貴族達の反感ばかりを買っていた為とても任せられるような状況とは言い難かった・・・というのが、ガイとある程度長く付き合ってきたピオニーの見てきたガイの行動である。ピオニーはガイを同情心も含め、マルクトに手厚く迎えた。だが迎えてからという物、貴族としては公務経験も少ないためズレた意見ばかり出し、平気で他の古参の貴族と同等以上の立場に立ったような口調で話しかけるといった行動を取るなど、使えない奴だと言う声が密かにピオニーの元に届いてきた。これに頭を痛めたピオニーは遠回しにガイをたしなめてきたがあまり効果はなく、むしろ自分の意見が採用されないのは何故だと貴族達やピオニーにまで噛み付いて来る有様だった。

・・・あえてガイを使う必要性はない、そう感じた為にピオニーはルーク達の側に置くよりはマルクトで預かろうと考えたのだ。そう、まともな臣下として扱うのではなく預かる事で・・・










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