英雄となった男の侵食

「・・・やる気があるのは構わんが、もう少し割り切って欲しいものだな。父に似ているのはラムザだと言われるが、その言葉が間違っていないと今なら思える・・・」
それでダイスダーグはラムザがいなくなった後に一人言を漏らす。弟に向けるには暖かみのないむしろ冷たさを滲ませる様子で、父親に似ている事への言葉を。
「・・・だがあれはあれで構わん。あのように私はやろうと思ってあんなようになろうとは思わんから、ラムザにはあのままいてもらう方がいいだろう。あれはあれでいていてもらう方が色々とやりようがあるだろうし、私も弟をむざむざ失いたいわけではないからな・・・」
ただそんな風に言いつつもそんなラムザを許容するといったような言葉を漏らしていくが、その響きには徹底して冷たさが伴われていた。兄弟に対して向けられる筈ではない冷たさが。






・・・ダイスダーグは基本的には人前では貴族の模範といったようにして隙を見せるような立ち居振舞いをしていないが、かといってルールやら形式だとかを優先して容赦のない態度だけを取る程冷たい態度を取っている訳ではない。そういった点からダイスダーグは兄弟を含めて厳格だが確かな優しさもある人物だと見られているが・・・それはあくまでダイスダーグが表向きに見せている顔というだけであり、その実としてダイスダーグは冷酷な人物であり利を重んじる人物である。

だがそんな顔を見せることは必要がなかったのもあって誰にも無かった上で、血を分けた兄弟達に対する情も他人に対してよりはちゃんと存在はしているが、何故ラムザに対して冷たさを感じさせるような事を漏らしたのかと言えば・・・父であるバルバネスを思い起こさせるような姿があったからだ。戦バカと内心では見下し、嫌っていた父親を想起させる姿が。

・・・バルバネスという存在がキムラスカもだがベオルブの名誉を大きく押し上げた存在だということは、ダイスダーグも認めてはいる。その強さから天騎士とまで呼ばれて民にも慕われる貴族の鑑のような存在と見られていたことは。しかしベオルブの長男として見たバルバネスの姿は、戦バカと称したよう戦になれば確かに頼りにはなるとは見れたがそれ以外ではあまり好きになれるような存在ではなかった。その理由として大きな物は二つ・・・まず一つはホドでの戦で疲弊した民の為にと考え無しに施しをしたことで、もう一つは年齢的には何も知らない者から見たらダイスダーグがダイスダーグの子どもかと見られてもおかしくないくらいの年齢になった時に、本妻ではなく妾を孕ませるという形でラムザにアルマという二人を産ませたことであった。

一つ目の事に関しては今となってはダアトというか預言保守派が、預言に沿わせる為に無理矢理にでも起こさせる戦争だったことは理解している。というよりその為に起こした物だとインゴベルトから聞いた物だ・・・しかし当時はまだ事実を知らなかった事から、戦争が起こったことによる人員に物資に資金と多大でいて様々に失われた事に向き合うことになった。ましてや攻めたホドは消滅という形になって預言通りになった以外、得られた成果など何にもないとしか言えない代物であった。

だから当時から既にベオルブの人間として活動していたダイスダーグは戦後処理に勤しんでいたのだが、その当時のバルバネスがやったことが困っている民達の為にとベオルブの持つ財を施すという物だったが・・・侯爵という地位を賜れどホドでの戦績やら戦果などホドが消滅したことから有耶無耶になって何もなかった事や、そもそも貴族も民も関係無くキムラスカは戦争の影響で色々と台所事情は厳しかったのだ。

なのにそういった行動をバルバネスが勝手に取ったことで民からの評判は良くはなったが、貴族からは自身らは苦しいからやれないだとかご立派だなどと嫌味やら何やらをダイスダーグに向けられる事になった・・・その事にバルバネスが勝手にやったことだとか、自分も被害者だといったような事は言えなかった。一応ベオルブの主は当時はバルバネスだったことからその意に逆らう事は出来なかったのだが、そこで下手に自分がどうにかその案を撤回させれば貴族からも民からもどういうことだということを言われかねなかったからだ。

だからダイスダーグはその後始末をするしかなくキツい想いをしたが、肝心のバルバネスはいいことをしたという気持ちを抱いていたことに加えて戦バカと評したよう、戦場での働きは出来るが机に向かう事務作業にあまり向いていなかったからである。だからダイスダーグはバルバネスの事を戦バカと見下すことになったのである。









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