英雄となった男の侵食

「そうなりますが、だからこそこれからのマルクトの関係は余程こちらから向こうを刺激するような事をしなければ問題ないと見られます。といってもこれは報告の手紙に出した中身に書いておりますが」
「そこに関してはお前からの言葉が聞きたかったから構わん。それに私としては預言の中身もあるが、マルクトとの戦争には乗り気ではないのだからそういう言葉が聞けるのは望ましいことだ」
「それは私も同様です」
ただだからこそ戦争にはならないだろうと自信を持って言葉にするザルバッグに、ダイスダーグは戦争は望まないと返した為に自分もと頷き返す。






・・・キムラスカの軍師と将軍という立場にいる二人はいざ外敵との戦いに対して、躊躇うというような気持ちはないし相手国となり得るマルクトに対してえこ贔屓するつもりもない。だがそんな二人が戦争を望まないと口にするのは、別の理由がある。それは話の中に出てきていた、預言の事があったからである。

預言・・・一般的には詠まれる中身は国であれ団体であれ個人であれ、基本的にはいいことが詠まれていてその中身に従えばいいことが起きると見られている。しかしダイスダーグ達はそうではないということを調べた上で、その預言を詠めるローレライ教団の本拠地であるダアトとその内側に潜む反逆者達の事もまた調べ挙げていったのである。ローレライ教団の預言保守派のトップであるモースからはマルクトとの戦争に踏み切ればキムラスカに繁栄が訪れると言われたが、その裏で動く反逆者達の動きや預言の真実についても。






「では次に聞くが、ダアトの者達はどうだった?報告の手紙では最早我々に反旗を翻すような余裕もなく、導師も導師のままにすると選んだとの事だが」
「えぇ。ダアトは現状をこれ以上悪くしないようにという選択を取りました。やはりヴァン達一派に加えてモースを我々の手で成敗されたことが尾を引いているようで、現状ではモースのような過激な預言保守派を世に出したくないといったような考えもあって、レプリカであるとは分かってはいても導師を導師として置いておかねばまともに教団の運営は出来ぬと判断したが故かと。そして私にも導師の事は是非に沈黙し、兄上にも流布するようなことはしないでほしいと言ってくれとのことでした」
「それは向こうからすれば当然という要求・・・いや、望みであろう。何せ教団の人間の信望を集めていた二人とそこに付き従う者達を我々が成敗してきたのだ。ダアトとしてはここで導師までもを失いかねん事態にしたくないだろうからな・・・とは言え私はそんなことをするつもりはない。そんなことをすればキムラスカがダアトを領地とするくらいしなければ収まりはしないだろうが、それは愚策極まりない・・・現実的に考えれば今の状況を更に混迷に導いたと見られ、ダアトの人々は我々の手などいらんと反発するであろうからな」
「だから兄上は何も言うつもりはない、ということですか」
「あぁ。そもそもダアト側としてはモースやヴァン達の事実を明らかにしてくれたことはともかくとしても、預言の事実までを明らかにする必要はなかったというような考えを持つ者達は確実に一定数は残っているだろう。そういった者達が行動を起こせば確実に厄介な事になるから、余計なことはしない。もし仮にそのようなことになったなら大規模な粛清といったことが必要になりかねんからな」
「っ・・・確かにそう考えるなら余計な犠牲を出さないためにも、兄上が言ったように何も言わない方がいいでしょうね・・・」
それでダイスダーグは次の話題だとダアトはどうなのかとザルバッグと話をしていくのだが、次第に話の中身がもし秘密にしてることを明かしたなら・・・といった中身に変わっていき、それらを仮定した話にザルバッグの表情は苦い物になった。そんなことにはしたくないというよう。









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