暗の知略で望む乱

「!?」
・・・導師としてトップに立つ心優しいイオンからはそれこそ出る可能性が絶無に等しい、ダアト・マルクト間の戦争を望む声。余程の衝撃があったのか、アッシュはまたただ目を見開くばかり。
「貴方はあのタルタロスにルークが乗っていたのは知っていますね?」
「・・・ルーク、だと・・・!?」
だがまたアッシュはルークの事を聞いた途端、目が生き返ってぎらつきイオンを睨むように見る。
「ええ、ルークは諸事情がありましてもうファブレの家に戻る気はもうありません。ですからルークの代わりに貴方に戻っていただきたいんですよ。私がタルタロスに乗っていた時神託の盾に襲われた、マルクトの兵士達が次々と殺され私も後一歩で殺されそうになり辛くも生き延びる事が出来た・・・との証言と共にね」
「それは、神託の盾の立場が危なくなるだけじゃねぇか!なんでそんなダアトに不利になることを自らやりやがる!?」
イオンのやってほしいことを耳にし、アッシュは盛大にダアトの立場を悪くするだけだと罵るよう叫ぶ。
「何を言っているんですか?事実は事実でしょう。現に貴方はルークにもですが、こちらのジェイドにも剣を向け相対しました。タルタロスを奪い取った諸々の行為をマルクトが世界に向けて公表すれば、少なくとも戦争の火種としては十分過ぎますよ。それが分からず貴方はタルタロスを軽はずみに襲撃したのですか?・・・だとしたら随分とお粗末なニワトリ頭ですね。元キムラスカ貴族ともあろう者がルークを介して神託の盾に身をやつし、そこでやったことと言えば戦争を望むだけの愚かな行為・・・貴方、結局何をしたくて神託の盾に入ったのですか?まさかマルクトを滅ぼしたいからとでも言うつもりですか、堂々とマルクト人を殺す為に神託の盾に入ったのですか?」
「それ、は・・・」
すかさずニワトリ頭呼ばわりのオマケつきで大層な毒舌を持って返すイオンに、アッシュはマルクト兵士達の目もあり上手い言い訳など言えるはずもなく視線をさ迷わせうろたえる。



・・・言い訳出来ないのも当然だ、アッシュはヴァンに都合よく育て上げられその行動に付き纏う意味という物を理解せず行動を起こしていた。いや、正確には思考を放棄した行動なのだがどちらでもいいだろう。何せ全てをルークだけに押し付け、ヴァンにその責があると考えもしなかったことからアッシュの愚考の元は始まってるのだから。



・・・ただ過去に戻ってきたイオンにルーク達がタルタロス襲撃に対してなんの対策も取っていなかった訳ではない事を、アッシュを始めとしたシンク以外の神託の盾は知らない。そしてその対策を講じたのが、官兵衛であることを。

まずルーク達と同じように過去に戻ってきたピオニーに官兵衛は進言した。「下手に兵力を分散して神託の盾を各個撃破するより、まとめて一網打尽にするためにタルタロス一隻まるまると使わせてはもらえんか?」と。

これは過去と違う流れを作り尚且つそれを円滑に進めるには一人一人六神将達を片付けるより、一斉に片付けた方が後腐れの後顧の憂いもないという事からだと官兵衛は言った。更に一方的に神託の盾が悪いと思わせつつルークとアッシュの入れ替えを行うには、生き残りの神託の盾がいては都合が悪いとも。だからこそ、官兵衛はタルタロスを神託の盾達の巨大な棺桶兼爆弾と化す大計を講じた。

・・・ルークはもう、ファブレの家に戻る気はなかった。何故かと言えば同じよう全てが終わったら『導師』を殺した状態で終わらせる気でいるイオンとマルクトで一緒に暮らす約束をしているからだ。無論、ピオニーの許可は既に取ってある。

・・・それはさておき、そんなタルタロスを最初から大型爆弾として扱うのだ。これが官兵衛の知る中国の知将なら捨て駒とでも言ってマルクト兵士を遠慮なくタルタロスに配置しそうだが、あいにく官兵衛はそこまで非情ではない。とは言えタルタロスに兵士を配置しないなどの対策を取れば神託の盾の不審を買うと官兵衛は考えた、そうなれば自分の策略が崩れるかもと。

だからこそ官兵衛は更にピオニーにこう協力してもらうよう進言した。「罪の重い罪人達を罪の減刑をエサに、マルクト兵の軍服を着せタルタロスに乗せてくれ」と。






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