暗の知略で望む乱

「な、んだ、と・・・」
これまたあっさりとアッシュを『ルーク・フォン・ファブレ』の位置に戻すとはっきりブリッジ内の人間全員に聞こえるよう言うと、イオンは問い掛ける。
「貴方、タルタロスが爆発したと気絶する前に呟きましたよね?実際あれは何が起こったのか、わかりますか?」
「あれは・・・あの位置にあったのは、タルタロスくらいしか・・・っ!?」
その問いにアッシュは動揺しながらも状況を思い出すが、ある考えに行き着いたようで途端に冷や汗をかき絶句する。



「貴方の予測は間違っていませんよ?あれはタルタロスが爆発したものであり、タルタロスを占拠した神託の盾はタルタロスが爆発したことで一人残らず全滅しました」



「!?なっ、馬鹿な・・・っ・・・!」
その考えを読み取り起こった事象を正確に述べるイオンに、アッシュは更なる動揺を浮かべイオンを見るがそこにあるのはただ笑みを崩さない顔ばかり。
「わかりますよね?あそこにいたリグレットにラルゴにディストにアリエッタ・・・そしてヴァンの手先の神託の盾兵士全て。神託の盾はシンクと貴方を除き、あの場で全員死んだんですよ」
「っ!・・・どういうことだ、てめぇ!アリエッタはてめぇを慕ってただろうが!なのに何故てめぇは笑ってられる!?」
暗にもうお前以外生き残りはいないと告げるイオンにアッシュは無意識に身震いを耐えられずしてしまうが、精一杯気を奮い立たせてイオンに噛み付いて来る。アッシュに似合わない、正義感ぶった口ぶりで。
「・・・何を言っているんですか、貴方?タルタロスにいたマルクト兵士達を皆殺しにしてまで僕を奪いに来たのに、何故今更綺麗事を口に出来るんですか?・・・このフリングス少将達のいるタルタロスの中で、神託の盾兵士一人の命の方が大事と言わんばかりの口上を口に」
「・・・っ!」
だがそんなアッシュに心底訳がわからないと首を傾げるイオンは上辺だけの反論を封じるフリングス少将の存在を口にし、アッシュの周りは敵しかいないと示す。アッシュが首を回せばそこには隠しもしない嫌悪を浮かべるフリングス少将とマルクト兵士達がいて、アッシュはそのまずさに気付き押し黙る。
「確かにアリエッタ達の事で僕は心を痛めています。ですがそれ以上に僕の心が痛いのは、タルタロスの人達全てを殺すという暴挙に出た貴方方の行動です。何故今は神託の盾とは言え、キムラスカの貴族だった貴方はこんな暴挙を安々と行えたのですか?答え次第では今すぐ貴方を爆発したタルタロスの中にいた人員という事で処理してもらい、この場でフリングス少将達に処断していただくよう引き渡してもいいのですよ?」
「!!」
そして更に心優しい導師からは絶対に出て来ないような苛烈な処分を下しかねない問い掛けに、アッシュは言葉すら失い脂汗をかきながら下を向く。
「・・・と、言うのは冗談です」
「・・・はっ?」
だが答えを返せそうにもないアッシュが聞いたのは、今までのやり取りと違い茶目っ気のある声。顔を上げ呆然とするアッシュ。
「ですがこれから僕達が行うことに協力していただかなければ今言ったような事態は容易に起こり得る事、そう思ってくださいね」
「!!」
だが続けられたイオンの遠回しなアッシュへの協力要請と拒否の場合の処遇の仕方を告げられ、アッシュは否応なしに理解してしまう。拒否をした瞬間、殺されてしまうと。
「・・・何に協力しろってんだ」
しかしまだアッシュの中のプライドはまだ心にこびりついているようで、声だけは強気なままでいる。だが敗北を実質認めた発言をしたことにイオンは若干蔑んだ目をアッシュに向け、それを告げる。
「だから言ったではありませんか、ルーク・フォン・ファブレに戻っていただくと。それからバチカルに僕達と戻っていただき」



「マルクトとダアト間で戦争を行う為の貴重な証言者になっていただきます」






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