殺意を抱き手にかけるに誰かの意志など介在しない

「・・・もう今の様子から見て君が僕を殺してでも止めようとかそんな気になれないっていうか、どうしようもないって気持ちになったのは分かる。ただ更に追い撃ちのようなことを言うのはなんだけど、下手に僕がモース達も含めて殺したなんて明かさない方がいいし今まで話した会話の中身なんかは特に話さない方がいいよ。中身に関しては今言ったような事を教団の暗部に属する人達が聞いたら君の口封じに間違いなくくるだろうし、それを話さずに誤魔化して僕が犯人だって知ってるなんて言っても君だけが生きている理由を問い質された場合、それを誤魔化しきれるかどうかは怪しいだろうからね」
「っ・・・!」
そして更にこの後について下手な話をするべきではないとその理由を併せて告げると、アニスはパッと顔を上げて呆然とした様子を浮かべるしか出来なかった・・・アニス自身はまだ心中穏やかでないから考えられていないが、もし後にハヤテを親の仇だから殺したいと思って動こうとしても正直に話をしてもどちらでも、下手をすれば自分が死にかねないという可能性を感じさせられて。
「というわけで下手に何か言うより自分は何も知らないとか、気付いたらこうなっていたって風に通すことをオススメするよ。そうすれば君は両親がいなくなったことに借金に関して有耶無耶になったことから、優先的にスパイにしようかとは見られなくなるだろうからね・・・まぁそれは君自身が借金するような事をしないようにするのが前提だし、君の代わりにスパイにされるだろう娘に下手に同情して行動を起こさない方がいいと言っておくよ。もう僕はダアトに戻るつもりはないからその時には誰も君やその娘にその家族を助けられる人はいないだろうし、モースの後任は僕がやったことから警戒心を強めて常に周りを固めるだろうから同じことはそうそう都合よくはいかないだろうからね」
「っ・・・!」
「じゃあ注意することも言い終わったしこれで僕はもう行くよ・・・さよなら、アニス」
「・・・ハヤ、テ・・・」
それで最後にと注意を告げてハヤテは笑顔で手を振りつつその場を立ち去っていき、アニスはどうとも出来ずにただその後ろ姿を見る以外に出来なかった・・・今から決して根底では嫌ってはいない両親を殺しに行くというのに、今までの話を聞いたことで止めたらどうなるかという考えで体が止まる形で・・・


















・・・そうして再びアニスの両親のいる部屋まで来たハヤテは今度は止まることなく入室した上で、素早く二人を殺して部屋を後にしていった。これは二人をせめて苦しめるつもりがなかっただだとかアニスの苦境に苦心を分からせる気がなかったとかではなく、単純にダアトから逃げ出す為の時間が惜しかったからだ。事が明らかになればしばらくの間混乱することは目に見えているが、冷静な誰かがダアトから犯人が逃げ出す可能性に思い至り港の封鎖に取り掛かられたらどうにもならなくなる可能性が高くなるからと。

それでハヤテは闇に紛れる形でダアトから急いで抜け出し、夜が明ける頃にはダアトを見下ろせる第四石碑の丘まで辿り着いた。









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