殺意を抱き手にかけるに誰かの意志など介在しない

それでそうしてハヤテがダアトに来てから三年という月日が経つのだが、ハヤテは孤児院の一員として違和感なく溶け込むばかりかむしろいなくてはならない程の存在感を発揮して活動していた。これは前世の分も含めての経験もあって様々な事をハイスペックにこなせるハヤテの力に知識があってのことだ。炊事掃除洗濯といった基本的な事に加えて、今の肉体的な年齢として年上や年下問わずに精神的に頼れると皆に認知されているのである。

この辺りはハヤテとしては孤児という立場にある子ども達を見捨てる訳にはいかないという考えもあったし、孤児という立場のその子ども達には生きる術や知識というものを身につけてほしいという気持ちがあったからやっている事である・・・自分と違って親や悪人達を嫌って孤児になった訳でもないし、純粋な子ども達だったからこそ少しでも自分が何か役に立てればいいと思ってだ。

そしてそんなハヤテのことを孤児達にその周りは頼っていき孤児院の中心存在と見ていくのだが、実は今名乗っているハヤテ=アヤサキという名は前世の物であって今生での名前では無いことは誰にも言っていない・・・これはかなり可能性が低いとは言えこの世界での両親や自分の事を知っている者がダアトに来る可能性だったり、逆に自分の名字に出身地を聞かれて知り合いに話を通しに行こうかと言われるのを避けるためだ。

故に前世の名前に愛着が無かったわけでもないが、名前は誤魔化しの為にハヤテ=アヤサキと名乗っているのである。ちなみに出身地に関してはマルクトのセントビナーというように誤魔化している・・・これは確かめるにしてもダアトからではかなり遠い場所にした方が簡単には確認出来ないようにという為でもあるが、本当の出身であるキムラスカから離れた所にしてしまえば確かめようがなくなると見てだ。二大国のもう片方の国を出身地にしてしまえばわざわざ意地でもハヤテの素性を確かめたいと躍起になる者もいないだろうからと。

まぁそんなことに関しては三年経った今となってはもう杞憂に近い問題となっているのだが、そうして活動するハヤテは孤児達に関してはともかく他の事に関しては決して善意からだけで活動している訳ではなかった・・・






「・・・あ、おはようアニス。どうだい、両親の様子は?」
「やっぱり駄目だよ・・・むしろ最近前よりパパにママからお金を使わせに来る人が多くなってて、もうお金返すの諦めたくなる・・・なのにパパとママの二人とも善意でお金を貸してくれるから大丈夫だって、全く聞いてくれなくて・・・」
「そうか・・・」
・・・そうして孤児院の外に出て朝の掃除を行っていたハヤテの元にアニスという少女が現れるのだが、そこで出てきたうなだれながらの辛さの滲み出る言葉をただ受け止めるしかなかった。






・・・キムラスカの首都であるバチカルにてスラムがあるといった事についてだが、これに関しては表向きは話に出ないだけでそういった場所があることに関しては実は細々とは話にはなっている。そしてハヤテもそんな話については聞いていたのだが、そういった臭いものに蓋だとか表沙汰にされれば面倒になるから裏でだけ処理されるような事柄があることについて、前世の経験もあって十二分に承知していた。人間というか知能のある生命体が社会を形成する以上、綺麗事だけで全てが社会を構成している訳ではないと。

むしろ綺麗事の近くに潜んでいるであったり、綺麗事のように見せつつその実は人を食らう悪意はどこかしこにいるというのが普通だという認識を今のハヤテはしていた・・・そしてそんな悪意によりもたらされた結果にうちひしがれる者達もいれば、ハヤテからして言葉を選ばずに言うならそんなこと知ったことではないとばかりに考えるクソ共も一定の割合でいるということも。そしてそのクソ共が前世も今生も含めた両親は勿論だが、アニスの両親であるとハヤテは見ていた。









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