暗の知略で望む乱

「チッ・・・」
前を歩くイオンとシンクの後ろ姿を見ながら、アッシュは舌打ちをする。



タルタロスを襲撃して、イオン奪還成功。元々それは予定通りだったためにアッシュも別に気にしていない。だがアッシュが気に食わない存在が、タルタロスにいた。

レプリカルーク、憎んでも憎みきれない存在。見つけた時は有無を言わさず殺す気だったが、リグレットに制止されたために殺せなかった憂さを晴らせずアッシュはイライラした。

だがそこから更にリグレットがイオンを連れていくはずだったセフィロトは、何故かシンクの進言によりアッシュとシンクの二人が連れていく事になった。そんな予定外の自らの駆り出しにアッシュは尚いらついたが、最もアッシュをいらつかせたのは「コイツをここに置いといたら、あいつらに何をしでかすかわからないんじゃない?」とシンクが言ってそれをリグレットが受け入れた事だった。



(ナメた口をききやがって・・・!)
自分は耐えている、なのに暴走を前提とされ対処された自らへの評価。ただでさえ気の短いアッシュの沸点がもう爆発寸前なのはさておき、そう評価されたことにアッシュはシンクの後ろ姿を睨むように歩いていく。



‘ドゴォォォーンッ!’
「!?何だ!?」
そうアッシュが不機嫌まんまに歩いていると、突然何か大きな音がアッシュの耳に届き、その音の方を振り返る。
「あれは・・・タルタロスのある方向・・・まさか、爆発したのか!?」
そこに見えたのはタルタロスのある方からモクモクと煙の立ち込める光景。それを見てタルタロスが爆発したと考え、アッシュは呆然とする。
「はーい♪お休み、アッシュ♪」
‘ゴスッ!’
「ガッ・・・!」
そんなアッシュにシンクがらしからぬ明るい声を出し、後頭部に真空飛び膝蹴りを遠慮なくぶちかます。タルタロスのある方を注視していたアッシュは避ける事も出来ず、鈍い痛みと音を頭に感じつつ重力に引かれ地面とお友達になった。
「うまくいったね、これは見事ってくらいに」
「ええ、僕が失敗するはずがないじゃないですか」
そんなアッシュを見下ろすのはしかめっつらを浮かべる人の悪い笑みを浮かべるイオンに、アッシュを粉砕して仮面を取って捨てながらいい笑顔を見せるシンク。
「まさか味方の僕に襲われるなんて思いもしなかっただろうね、コイツ」
「でも実際襲ったのは僕なんですけど、このトサカ頭じゃシンクが襲ったようにしか思ってないでしょうね。フフ」
イオンがシンクで、シンクがイオンという二人。だが何故そう言い合っているのかと言えば答えは単純、それはこの二人が服を変えて入れ代わっていた為だ。



「おーっす、イオン、シンク。そっちの具合はどうだ?」
「あっ、ルーク!」
そんなアッシュを弄る二人の下にルーク達が到着し、シンクの恰好をしたイオンが満面の笑みを浮かべルークに飛びつく。
「おわっ!・・・あんま無茶しないでくれ、イオン。この体まだ慣れてねーから、力もないしバランス取れねーんだよ」
「すみません、でも嬉しくて・・・」
よろけながらもなんとかイオンを受け止めきったルークは苦笑し、イオンは申し訳なさげにしたが一瞬で嬉しさと情熱的な眼差しを浮かべた笑みをルークに向ける。
「・・・あのー、ホントにすまんが愛し合うのは少し後にしてくれんかな?早く小生の策略を先に進めたいのだが・・・」
「あっ、愛し合う!?」
少し邪魔をするには勇気のいる状況だが、あえてそこに鉄球がついた手枷をつけ前髪を垂らして目が隠れた男が言い出しにくそうに切り出す。愛し合うという言葉にルークは途端に顔を赤らめ、イオンの肩を掴み自らからその身を離す。
「フフ、すみません官兵衛・・・後で殴る」
「!」
だがイオンはさして動揺せず軽く笑んで詫びるが、続いた蚊の鳴くような地を這う小さな声を官兵衛と呼ばれた男だけが聞き取り顔を引き攣らせかける。
(何故じゃあ!?小生は頼まれたから策略を練って、その通りにいかせようとしているだけなのに!!)
だがそこは露骨に表情に見せては後でイオンにホントに殴られると思い、口を鉄のように引き締め心の中で叫ぶだけに留めた。








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