殺意を抱き手にかけるに誰かの意志など介在しない

「・・・さぁ、こうしている時間ももう嫌だということもあるけれど長々と話をしていたら誰かがここに来るかもしれないからね。だからもう終わらせるよ・・・僕達三人、綾崎家の生をね」
「「ヒッ・・・!」」
そしてそこまで言った上で仕留め損なうのを避けるためとほの暗い笑みでナイフを向けるハヤテに、両親は最早説得することを考えることも出来ずにただ迫り来る刃をひきつった声と恐怖と共に見詰めるしか出来なかった・・・


















「・・・ん・・・夢か・・・久しぶりに思い出したな、あの時の事を・・・」
・・・そしてナイフが両親の首をかっ切る、かと思われた瞬間・・・その光景は夢からの目覚めと共に覚醒して消え、ハヤテはベッドから起き上がりつつ懐かしいというように夢の中身についてを漏らす。
「早いものだね・・・このオールドラントって世界に来てもう十数年って時が経つけど、またこっちでも親殺しをすることになるとは思ってなかったことを思い出すよ・・・本当に忌々しい・・・!」
そのままハヤテは昔を振り返りつつも顔に手を当てながら、苛立ちと殺意を滲ませながら昔の事を思い出す。決して愉快とは言えない過去の事を・・・


















・・・綾崎ハヤテ改め、ハヤテ=アヤサキには前世の記憶がある。夢に見たような綾崎ハヤテという地球という星に生まれた人間であり、そして夢に見たように両親を手にかけた後に返す刃で自身の心臓を貫いて死んだ・・・という前世の記憶が。

だがそうして死んだ後にハヤテは自分が地球とは違うオールドラントという世界の人間として転生した事を、自分が赤ちゃんとなって生まれてから得た知識で気付く事になった。ハヤテの知識には一応あったが、これが異世界転生なのかと令嬢の趣味に付き合っていたことから多少は知っていたジャンルの中に自分が入り込んだ・・・それも結構の王道な剣と魔法が主体のファンタジー世界に来たのだと。

ただそうしてオールドラントという異世界に転生したまではともかくとしても、そこでの両親がまたハヤテにとっては非常に不愉快な存在であった・・・何故ならその両親はまだ一桁の頃からの小さなハヤテに対して暴力を振るってくると共に、アルコール中毒の様子がありありと分かる様子で借金返済を始めとして家事はお前がやれだとか様々な理不尽を押し付けてきたのだ。

前世の両親も笑顔でハヤテに借金返済をさせてくるナチュラルクズな人間達だったが、一応は暴力までは振るってはこなかった。だがそれで暴力を振るってくるこちらの両親の方が嫌いかと言えばそうではなく、こちらの両親は普通なクズだが元の方の両親は今となってはサイコなクズだという見方が出来るからこそ、嫌いに差をつけることは出来なかった。本当に普通なら子どもに借金返済を押し付けることを当然とするはずないのに、あたかもそれを当然の物とするその常人からかけ離れた行動は普通のクズと比べてこっちがマシとは言えないと。

ただそんなことはともかくとしても、そういったクズの両親に前世で培ってきたスキルを用いてハヤテは下手に怒らせないようにと動いてきたが・・・十を越える頃にある転機が訪れた。それは両親が借金のカタにとハヤテを借金取りに売ると切り出し、その借金取りへ身柄を渡そうとして来たことだ。

その後にハヤテが調べて分かったこととして一応表向きは奴隷商のような存在はいないが、やはり良からぬ意味も含めての非正規な働き手というのはどこの裏世界でも需要はあるらしく・・・そんな需要を満たす借金取りの一面も持つ存在と、借金を返して厄介払いをしたい両親の思惑が一致したからこその結果である。

だがその時はそんなことは知らずとも、一応は後二年くらい我慢してから行方不明になる形で手間がかからないように消えてやろうと思っていたハヤテからしたなら、そんな両親の行動は自分を売った物であると共に・・・一応はクズでも両親なんだから何もせずにいてやろうという気持ちを捨てさせるには十分過ぎるものであって、我慢することなくハヤテは隠し持っていたナイフで借金取りに両親達を手早く殺していった。それこそ何の躊躇いもなく、悲しみなど一切浮かぶことなどなくだ。









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